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SS:HIRO3


 空が燈色に燃えるころ、この街で有名な噴水の周りに、愛をささやく男女達が集まる。
その中に一組、少し変わった組み合わせがあった。
男の方は旅人風の身なりの人間。手にはかき鳴らして弾くタイプの楽器を持っていた。
傍らにいくつかの楽器やら服やらの入った荷物と、車輪のついた変わった椅子があった。
女の方は足がなく、代わりに魚のように鱗に覆われたものが付いていた。
隠すところは隠しているが、露出の激しい格好だ。
「今日は、結構稼げたな」
「ええ、明日も沢山来てくれるといいわね」
なんて会話をしながら、荷物をまとめていく。
手にもった楽器を荷物に入れる。
集まった金を巾着に入れる。
忘れ物がないか確認する。
「よし、全部持ったな。さっさと行くか、宿がなくなっちまう」
「そうね。じゃあお願い、ベル」
そう言って女の方が、首に手を回す。
「その名前で呼ぶなって。・・・じゃあ持つぞ。よ、い、しょっと」
ベルと呼ばれた方が噴水に手を突っ込み、女を持ち上げる。
「シャル、ちょっと重くなったか?」
それを聞いて、シャルと呼ばれた方が横の顔をジトッと睨む。
「女の子に向かってそれはないんじゃないの〜?耳、使い物にならなくするわよ」
そう言って女は息を大きく吸い込む。
男が、椅子に乗せながら言う。
「そ、それは困るな。仕事ができなくなる」
「ならそんなこと言わないの」
男は荷物を担ぎ、椅子を押して歩きだす。
「いや、毎日持ち上げてるから少しの変化でもわかるんだ。
 それに、お前だってベルって呼び方はやめろと」
「いいじゃない可愛いし。あんたの名前、濁音だらけでなんかゴツいんだもん」
「なんか恥ずかしいんだそれで呼ばれると」
「こっちは歌に魔力を込める種族よ、響きって大事なんだから」
その時、夜の訪れを告げる風が吹き抜けて行った。
「へいへい、わかりましたっと。
・・・ちょっと寒くなってきたか、これでも羽織れ」
そう言って、男が上着を掛けてやる。
「ほんとだ、スースーする。いつものことだけど」
肩を抱いて、ぶるっと身を震わせるシャル。
「当たり前だ。薄着だし濡れてる」
「ま、慣れてるから平気よ。濡れてた方がいいし」
悪戯っぽい笑みを浮かべて、
「風邪ひいたときは、直接あっためて?」
「・・・っ」
男なら一瞬で息が止まってしまうような爆撃を浴びせる。
ただでさえ攻撃力の高い仕草と台詞。それにほんの僅かの魔力を乗せて。
効果は一目瞭然。男の顔は薄暗くなってきた空の下でもはっきりと赤かった。
「もう、可愛いんだから。あんたのそういうとこ、大好きよ。
 付き合ってもう長いのに、そんな表情見せてくれるんだもん」
「あのなあ・・・」
男は、やっと、という感じで息を吐き出す。
「だって、ほら、『恩返し』しなくちゃなんないじゃない?
ここまでずっと付き合ってもらって、あんたなしじゃ、あたし、やってけないもん。
あたしはあんたと一緒ならいつでもドキドキできるけど、
あんたも何にもなくちゃ飽きちゃわない?
色々、迷惑かけちゃってるしさ」
ベルは、深々とため息をついた。
「心掛けは有り難いけどな、それはいらん心配だ。
俺がお前に飽きるなんてありえねえよ。お前のいない生活ってモンが考えられねえ。
それに、恩返しは十分してもらってる。
お前がいなかったら、稼ぎも半分行かねえだろうしな。
・・・ほら、早く行くぞ」
そう言って足を速める。
「ありがとね、ほんとに」
「だからいいって」
そして、宿屋が軒を連ねる通りへ入っていく。

部屋の中で、楽器の手入れをする。
ちょっと手入れをさぼると、すぐ使い物にならなくなるものもあるから、
手入れは欠かせない。
俗に言う『普通』とは少しばかり違う恋人は、もうすやすやと寝息を立てている。
彫刻のように整った寝顔を見ながら、昔のことを思い出す。

自分の親は作曲家だった。いわゆるお金持ちなどからお金をもらって曲を書く仕事。
その影響か何か、小さい頃から自分は楽器を色々とやらされていた。
初めは練習が苦痛でしかなかったが、いつの間にか弾けるようになるのが楽しくなっていた。
自分が生まれたころは町に住んでいたが、世間から物好きと言われる父親が、
『海の近くだと何か浮かぶ気がする』とかいう理由で海のすぐ近くの村に引っ越した。
引っ越した時、初めはよそ者と言われ、周りの子供たちの輪に入れなかった。
寂しさを紛らわすために、よく波打ち際で楽器を弾いていた。
シャルロットに出会ったのは、そんなときだった。
初めは遠くから見ているだけだったけれど、言葉を交わしてからはすぐに仲良くなった。
歌に合わせて楽器を弾いたり、海のことや町のことについて話したり。
その村は、実は近海の人魚の集落と繋がりを持っていて、
そのせいもあって排他的なところが強かったのかもしれない。
当然、子供達も海で、人間と人魚に関係なく遊んでいた。
彼女と遊ぶようになって、ほどなくしてその輪に入ることができた。

時が経って、いつの間にか彼女と友達以上になりたいと思うようになった。
そんなときだ。唐突に彼女が言った。
「あたし、海以外にもいろんなとこに行ってみたい」
「あ?急になに言い出すんだ」
遠くを見るような眼で、言葉を継ぐ。
「私たちの種族って、下半身がこれだから、陸に上がったら動けない。
 だから、海しか知らないの。でもあんたが言うには、
この世界には色んな所があるって言うじゃない?
貴方が話してくれた街とか、見上げるような山とか、あたしが知らないところ。
色んなものを、この目で見てみたいの」
「んなこと言っても、人魚が陸の上で生きていけるわけ・・・」
そう言うと、彼女は視線を水面に泳がせた。
「うん。大人たちはみんな言うわ。無茶だ、って、諦めろ、って・・・そうだよね」
自嘲を含んだ笑顔が水面に映る。
その顔に妙に色気を感じて、少しドキッとしてしまう。
あ、やばい、顔赤いかも。ば、ばれてないよな?
「でも、諦めたくないの。大変だと思うけど、やらないで後悔するのはもっとイヤ」
急に視界全体に顔が現れて、心臓が飛び上がりそうになる。
彼女の眼の中には、情けない顔の自分が映っていた。
自分には、特別やりたいことなんて特に無かった。
中途半端な希望はいくつもあったけれど、みんな、なったらいいな、止まり。
彼女の眼は凍てついたように透きとおっていて、何かが熱く燃えていた。
その瞬間、彼女が本当に美しく、羨ましく思えた。
「一緒にいこう」
気がついたら、口に出していた。
「え・・・いや、そんなつもりで言ったんじゃ、あくまでも夢、だよ?
 そりゃ、行きたいけど、相当苦労かけるでしょうから悪いし」
さっきの熱い眼の光はなりをひそめ、アタフタと誤魔化そうとしている。
自分もそれどころではなくなっていた。
あ、あれ?今俺なんて言った?凄く恥ずかしいこと言ったんじゃないか?
「あ、いやな、あれ、好きな娘の夢ってんだから、
こう、かっ叶えてあげられないかと思ってな」
その瞬間、彼女が固まる。
「へ?」
「あ・・・」
沈黙がその場に流れてから気付く。・・・やってしまった。
盛大に誤爆してしまった。
彼女がゆっくりと目を逸らす。
「そう、なんだ・・・」
俺も恥ずかしくて目を逸らす。
ほどなくして、自分の手に彼女の手が重ねられた。
驚いて、一瞬体がビクッとしてしまう。
「ありがとう。・・・嬉しい。実は、私もなの。
 ずっと言う勇気がなくて、友達のままなのかなって思ってた」
視線を彼女の顔に戻すと、もう泣きそうなくらい、目が潤んでいた。
「今はこれで満足よ。あんたがそう言ってくれただけで」
それを聞いて、込み上げてくるものがあった。
まさか両想いだとは思っていなかった。こちらまで目頭が熱くなる。
「せっかくの夢なんだ。今のままで満足なんて勿体ねえよ。
 俺を連れて行ってくれねえか?力になりてえんだ」
「いつか、そうできるといいわね」
もうこうなりゃヤケだ。思い切って、手を握って告げる。
「いつか、じゃねえ。すぐ行こうぜ。用意することが沢山ある」

それからは早かった。
旅するんなら人魚の特性活かして歌で稼ぐかとか考えたり、
大工の親父さんに頼んで椅子を作ってもらったり、
楽器や歌の練習をしたり、色々頑張ったが、
今思うとよくこの頭で考えついたものだと思う。


楽器の手入れも終わり、そんなことを頭に描きながらシャルの髪を弄っていると、パチッと目が空いた。
「何してるの?」
弄る手を止めずに答える。
「ちょっと昔のことを思い出しててな。お前こそ、寝てたんじゃなかったか?」
こちらを見て答えを返す。
「あたしもちょっと夢に見ちゃっててね。・・・本当に変わんないね、あんた」
「はっはっは、お前に飽きるなんてありえねえって言ったろ?」
シャルはふっ、と息を吐く。
「ほんと可愛いんだから。ダーグヴェルなんてゴツイ名前してるのに」
「まあな。ったく、ヘンなこと言うなよ、妙な気持ちになるじゃねえか」
照れてモゾモゾと体を動かす。
「ん?今ヤっちゃう?あたしはいつでもいいよ?
 あたし卵生だからいくらヤっても妊娠しないし。定期的に卵は作るけど」
いくら経験しても慣れないもんだなこれは。
「はは、頼む」
「あんただったらいくらでも大丈夫だってば。
 頼むとかわざわざ言わなくても、なんでもしてあげたいくらい」
シーツの下で、服を取り払っていく。
全部脱いでから、桃色の突起がのる双丘に手を伸ばす。
ゆっくりと揉みしだく。初めはその輪郭をなぞるように、だんだん荒く掴むように。
しばらくすると、彼女の喉は、甘い旋律を奏で始める。
そのとき、ふと不思議になって聞いてみた。
「そういえばお前、卵生だってのに乳首あるよな、何でだ?」
頬を赤らめながら、呆れた顔をするシャル。
「あん、このタイミングで聞くの?まったく、ムードも何もあったもんじゃないわね。
 ま、いいけど。はぁんっ、それは、子育てする時に出るからに決まってるじゃない。
 あたしの種類ではそうらしいわよ」
かわいらしい乳首をつつきながら耳を傾ける。
「人魚の中にも卵じゃなくて子供をそのまま産むのもいるらしいし、んっ」
「ふーん」
シャルは頬をぷくっと膨らませる。
「ふーんて何よ、ふーんて。あんたが聞いてきたんじゃないの。
 ・・・あ、もう硬くなってるわね。入れるわよ?」
「・・・ああ」
シャルの中はひんやりして冷たい。そして絶妙に自分の分身を締め付けてくる。
何度やっても驚くばかりだ。なんでこんなに気持ちいいのかと思う。
「はっ、あつうい・・・。あ、そういえば、
あんたシてるときっていつも口数少なくなるわよねぇ」
自覚はないが、なんとなくそんな気もする。
「そんなもんじゃねえの?しらねえけど・・・」
腰を振りながら答える。
「絶対そうよ。出す前くらいしかまともに喋んないわよ?
 他は相槌打ったり、ううとか、ああとか」
当たってるかもしれない
「そーか?うーん・・・」
「・・・なんて、あたしも野暮なこと聞いちゃったわね。
 これでおあいこよ。はあん」
ギュッと抱き合って腰を動かす。
「ああ、いい、もっと、もっとぉ・・・」
気持ち良さそうに体を震わせ、それに合わせて内側も収縮する。
「きもちいい、よ、ベルぅ。ああん、あったかい・・・」
そろそろ限界が見えてきた。
三日ほど溜めてたからなぁ・・・。
「あうう、うん、大好きっ。ヴェル、ベルぅ」
淫猥な音が部屋中に響く。ベッドも動きに合わせてギシギシと音を立てている。
ホントはもう少し持たせたかったんだけどな、と思う。
あんまり何発も撃つと次の日に差し支えるし、
一回の間で出来るだけシャルを気持ちよくしてあげたい。
だから長く持たせようと集中しているつもりだが、
そうすると口のことまで頭が回らなくなるらしい。
自然と、口数も少なくなるわけか。
「ああっ、ん、いい、いい、いいよぉっ。ベルので、かきまわされてるぅっ」
その間、愛しい人はこっちまで恥ずかしくなるくらいの喘ぎ声を上げ続けている。
堪らなくなって抱きしめた。そして口も。
「あむん、んんん、はぁんっちゅちゅっ」
舌を蕩けさせるくらいのディープキス。
口を離して告げる。
「なあ、そろそろ我慢できねぇ、出すぞっっ!!」
「きて、来てぇぇっ!!ベルの熱いの、あたしの中に注いでいいよぉっ」
それを聞いて、爆ぜる。アツい生命の塊が撃ち出される。
一瞬の衝動と、その後に押し寄せる脱力感。
なにか心地良いものに包まれながら、すぐ横の鼓動を確認し合う。
抱き合ったまま、どちらともなく口を開く。
「ほんと、」
「あんたさ、」
それがなんだか可笑しくて、二人して吹き出した。
「ぷっ、どうした?」
「ふふ、あんた先でいいよ」
なら、と先に口を開く。
「ほんとは、俺たちの子供が早く見てみたいんだけどな」
シャルはまだ笑っている。
「はは、何それ、プロポーズ?
 もちろんいいわよ。でも、子供はいつか、ね。今はまだ、育ててあげられないもの」
まあ、そうなるか。
「ところで、お前はなんて言おうとしてたんだ?」
「恥ずかしいこと言うもんだから、忘れちゃったわよ」
ひとしきり笑ってから、シャルが口を開いた。
「こんな無茶なことするあたしと一緒にいてくれて、
 あたしを選んでくれて、本当に、ありがとうね」
恥ずかしくて、顔はまともに見られないが。
「何を水臭い。俺はお前を一生背負って歩いていくって決めたんだ。あの日からな。
 お前が嫌って言っても離すつもりはねえ。
 何より、陸の上だろうがなんだろうが、やりたいことやってるお前が、
 一番綺麗なんだよ」
今はこれで満足だ。お前がそう言ってくれただけでな。

噂話があった。
車輪のついた椅子に乗って旅をする歌姫と、それに付き添う弾き手。
誰しもがその音色に心打たれ、その歌声に聞き惚れる。
巷でもしかしたら、そんな二人組の話を耳にするかもしれない。

噴水のある広場から少し離れた酒場。
ここでも、仕事を終えた男たちの酒の肴になっていた。
ジョッキに注いだ黄金色の酒を煽り、一人が切り出す。
「なあ、お前、知ってるか?二人の旅芸人の話」
「昼間広場にいたアレか?なんか人だかりができてたが」
「ああそれそれ。アレの女の方な、人魚ってのらしいぜ」
その中の一人が、手をひらひらと振って否定する。
「はあ、バカも休み休み言え、ここが海からどれだけ離れてると思ってんだ」
それに何人かの声が同調する。
「まあ、ないわな」
「人魚は陸の上では生きられねえ。そんなん誰でも知ってらあ」
始めの男が料理に手を伸ばしながら続ける。
「いや、おれもそう思ってたんだけどよ。見たんだよ、この目で。
 人の足じゃなかったな、アレは」
「疲れてるんだろうよ。お前は腕はいいが、力を抜くってことを知らねえ」
「体壊す前に息抜きも覚えろよ」
「職人、てのはそんなもんだろうが。体壊しても仕事好き、ってな」
そうして、この街の夜も更けていく。


 


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-モドル-