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SS:黒熊

 

 

 雪の積もった、凍える夜。月の明かりが照り返す、青白い光に包まれた街角で彼らは闘った。あと少しで雪が解け始める、そんな季節。血の匂いが絶えなかったこの都市で、最後に彼らは殺し合った。

 

 

 

 最近、浮浪者たちの間である噂が流れていた。一人、また一人と姿を消す浮浪者が出てきたというのだ。

つい昨日一緒に仕事をしたヤツが、次の日には跡形もなく消えている。何処かで野垂れ死んでいるなら、死体が見つかるはずだ。この都市から去ったのかもしれなかったが、この厳しい季節にその身ひとつで旅に出るなど考えられなかった。

 では彼らはどこに行ってしまったのか…?浮浪者たちの間では『神隠し』だ、と囁かれていた。

 

 

 

 アンリがその気配に気付いたのは、仕事場を出てすぐのことだった。―――つけられている。初めは仕事仲間と一緒に歩いていたので、彼らのうちの誰がつけられているのか分からなかった。しかし、仲間と別れ、彼が一人になってもしつこくついてくる。

 おまけに…。彼が一人になったとたんに、殺気も放っている。まるで空気が棘をはらんだかのように、ピリピリする。しかもそれを、自分の首筋で集中的に感じるのだ。間違いなく、相手は自分を殺す気のようだ。

 (さて、どうしたもんか……)
自分が殺される理由を考えてみる。盗賊をやっていたのはもう三年も前の話だ。その盗賊団も今や無く、それ以来、人様に恨まれるようなことをしてきたつもりは無い。そうすると、盗賊団時代に買った恨みかな?とも思ったが、どうやらそうでもないようだ。

 そもそも、今回後ろにいるヤツは、アンリを最初から狙っていたとは思えなかった。初めに彼と仕事仲間をつけていたときは微塵も感じられなかった殺気は、彼が一人になったとたんにビシビシ放たれている。感触としては、『獲物』として選ばれてしまった、といった感じだ。

 …とすると追い剥ぎの類か…。まあ、それが珍しいこの街では無い。治安は悪く、貴族や商人たちは、出歩くとき用心棒を連れて歩いている。それにしても、こんなにあからさまな殺気を放つ追い剥ぎも珍しい。

 アンリはこのまま撒いてしまおうか、と考えた。それが一番面倒が無くていい。しかし待てよ、と気を変える。やはり相手してやろう。アンリを狙う理由が気になったのだ。

 彼は今、独りでは無い。ミーアがいる。彼女という『守るもの』がある以上、どんな危険も彼女には寄せ付けないつもりだった。そのためには、不安要素をそのままにしておくことはできない。もし彼個人に恨みを持っていたり、目をつけられて彼の小屋に押し入られたりしたら、ミーアが危険に晒される。

 (…よし…、やるか…)
彼は今持っている武器を確認した。腰にはナイフを仕込んでいる。そしてズボンと上着のポケットにそれぞれ入れている小石は、合計六個。十分とは言えないが、相手が一人ならなんとかなるだろう。

 アンリは一瞬立ち止まって、後ろのヤツも立ち止まるのを確認した。そして猛然と走り出す。今はもう日は沈みきって、辺りは暗い。おまけに星の明かりさえ無い曇り空だ。このスラム街の辺りは建物の陰が多すぎる。もっと広いところに出なければ…。

 アンリは、たまに後ろを振り返りながら加減して走る。そこで始めて気づいた。後ろのヤツは真っ黒なローブでその身を覆っている。しかも腰には剣を下げていて、かなり訓練された走り方をしている。ああいう走り方は正規の騎士の特徴の一つである。
(どういうヤツなんだ?)
黒ローブは、アンリほどではないが、かなり鍛えているようだ。音をあげるわけでもなく、アンリに喰らいついてくる。

 だれもいない街を二人は走り抜けてゆく。近頃は日が沈んだあと出歩く人はめっきり減っていた。

 アンリはこの都市の中心、城のある区画まで走り抜けた。そして、城の高い壁の周りを巡る、幅の広い道に走りこむと、ゆっくりと止まった。
「…さてと、俺に一体何の用かな?」
振り向いて、そう問いかける。相手は、アンリから少し離れたところで立ち止まっていた。答える代わりに、ローブの隙間から剣をヌラリ、と抜き放った。暗闇にボォっと剣が白く浮かび上がり、その存在を主張する。そして低く呟いた。
「…恨みは無い……。だが、死んでもらう」

 ロングソードを抜いたとたん、殺気は膨れ上がった。―――かなりの腕だ。男の肩から、立ち上る揺らぎのような物が見える。
(こ、コイツ…!)
アンリはにわかに緊張する。彼の右手には二つの石が握られていた。その手が僅かに汗ばむ。

 ローブの男は、剣を正眼に構え、ゆっくり間合いを詰めてくる。アンリを狙う理由を聞いても、返ってくる雰囲気でもなかった。

 アンリはローブの下の装備が気になった。
(上手く行くか?)
アンリは相手が詰めてくる分だけ下がる。この動きは相手に、こちらに飛び道具があることを悟らせるだけで、あまり良くない。だがアンリを下がらせるだけのプレッシャーが、ローブの男にはあった。

 男は焦れたのか、剣を横に引きつけ、一気に間合いを詰めてきた。とたんにアンリの右手が素早く動く。ヒュンと小さな音を発して石は男の顔めがけて飛んでゆく。
「!!?ぐぁっ!!」
命中。アンリは腰のナイフを抜き、左の手に石を握って、一気に男に突っ込む。男は苦し紛れに剣を振った。しかしそれは急停止したアンリの腹には届かず、虚しく空を切る。

 アンリは伸びきった男の左手を押さえ、ローブのうえからナイフで腎臓に突き刺すと、サッっと離れた。ふぅ、と小さく息を吐く。そして油断なく男の周りを歩き始めた。近づいて止めを刺すような真似はしない。確実に致命傷は与えたのだ。後は男が力尽きるのを待てばいい。…男は腹を押さえたままうずくまっている。

 ―――上手くやれた―――。もし相手が、目を保護する仮面のようなものをしていたり、鎧のようなものをローブの下に着込んでいたら、勝負は分からなかった。さらに、男はアンリの石をかわせなかった。なにか投げ物を持っていることに気づいていたのだろうが、この闇夜だ。大方、見切れると踏んでいのだろうが、暗闇を飛んでくる石は見えていないようだった。

 「殺せ…」
男の低い声が聞こえる。
「その前に答えろ。なんで俺を狙った?」
男は、フンっと鼻で笑うと、
「やっっ!!!」
と叫んで、自らの喉に剣を突き立てた。アンリはただ見ているしかなかった。男はそのまま横倒しになって事切れる。
(―――――いったい、なんだってんだ……?)
アンリは手元のナイフに目をやる。久しぶりに血を吸ったそれは、鈍く光って見えた。

 

 

 

 「いや、お見事です」
突然声が聞こえた。アンリはギクッとなり、辺りを見回す。すると、道の端から一人の男が歩いてくる。暗くてよく見えないが、小柄な男だ。殺気はなかった。

 アンリの傍まできて、しゃべりだす。その間、アンリは警戒を解いてはいない。
「…そう警戒しないでください。貴方に危害を加える気はありませんよ」
「…あんた誰だ…」
「………ボブ…と呼んでください。貴方のお名前は?」
「…名乗る気は無いね」
「…そうですか、ま・いいでしょう」
男は笑う。だが目の底は笑っていなかった。

 「短刀直入に言います。貴方に頼みがあるんですよ」
「…どういうことだ…」
「―――人を殺してもらいたいんです―――」
男はそう言った。

彼があっけにとられていると、向こうから馬車の音が聞こえてくる。それはあのローブの男の傍で止まると、二人の男が下りてきて、その死体を担ぎ上げた。
「…あいつらは?」
「彼らは始末屋ですよ。死体の」
男は振り返るわけでもなく、そう言う。始末屋たちは死体を馬車に乗せ、積んであった瓶から地面に水を撒いて、血を洗い流した。そしてまた何処かへ走り去ってゆく。―――男が死んだ痕跡は何も残っていない。

 アンリはそれをじっと見詰めていた。馬車が見えなくなると、目の前の男と再び顔を合わせる。
「断る…と言ったら?」
「かまいませんよ」
男は即答した。
「無理強いはしません。好んで人を殺すような方には見えませんしね、正直、期待はしていませんでした」
なら言うなよ…。アンリは心の中で呟く。
「まぁ、話だけでも聞いてください。これも仕事でして…。聞いたからどうこうという心配も、しなくて結構です」
アンリは、できることなら聞きたくはなかった。しかし、心のどこかがしきりに警鐘を鳴らしている。―――このまま放置しておくのは危険―――と。

 アンリが黙っているのを男は見て、話し始めた。
「今、この街にどれだけの浮浪者がいるか、ご存知ですか?正確な数はわかりませんが、かなりの人数が流れ込んでいます。そしてそれは今も増え続けている」
アンリはこの男をじっと見詰める。普通の町人の姿をしているが、その雰囲気はまったく無い。かといって、何かを『使う』気配も皆無だ。
「貴方に殺してもらいたいのは、この浮浪者たちなんですよ。彼らはこの街で悪さばかりする。正直、消えて頂きたいんです」
そう話す男の表情に変化は無かった。

 「もちろん、タダで、とは言いません。お金を支払います。浮浪者一人につき銀貨五枚出しましょう」
ちなみにアンリの一日の稼ぎは、銅貨二十枚。この国では銅貨五十枚で、銀貨一枚と等価値だ。さらに、銀貨十枚で金貨一枚と等価値で、金貨が一枚あれば、浮浪者一人がこの冬を楽に暮らせる価値がある。
「ただ、標的は浮浪者だけではありません。この街にはさらに質の悪いゴロツキがいます。彼らはその程度に差こそありますが、腕が立ちます。彼らを始末すれば、最低金貨一枚を支払いましょう。もちろんゴロツキの腕が上がれば、報酬も上がる、といった具合です」
豪快な話だ…。ゴロツキを一掃するには、一体いくら金がいるのやら。

 「…どうです?いい話でしょ?貴方は腕も確かだ。稼げますよ」
………胡散臭いことこの上ない…。だいたい―――。
「悪人を取り締まるのは、騎士団の仕事だろうが。それに浮浪者とはいえ、人間だ。罪も無い人を殺せば、それが罪になるじゃないか」
アンリはそう言うが、男は事も無げに返す。
「彼ら浮浪者の多くはこの国の『住民権』を持っていません。それは焼け出された難民も同じ。自分を証明する物を持っている者はごく僅かです。持っているなら、国で保護を受けられますから、浮浪者にはなっていないでしょう。…言い換えましょうか?殺してもらいたいのは、『住民権』を持たずに、この街に住んでいる人なんです。そしてそれはそのまま『浮浪者』と言うことができます。住民権が無ければ、住宅に住むことも定職に就くこともできませんからね」

この男の言う『住民権を持たずにこの街に住む者』とは大別して二種類のケースを指している。一つはこの国に元から存在する貧困層のことだ。彼らの中には貧しさのあまり犯罪に走る者が多くいて、この国では犯罪者の住民権は剥奪されることになっているのだ。また、国外からの流入してくる貧困層もこのケースに入っている。そもそも国外から入ってくるのはこの都市での仕事目当てで集まってくる者ばかりのため、貧しい者ばかりなのだ。各国によって『住民権』の有無や、そのあり方は異なるが、この国では他国からの移住の場合も、高額で厳しい審査がある『住民権』を得てから居住しなければならなかった。

そしてもう一つのケースは、戦災難民のことだ。『住民権』は一枚の紙切れで、戦火に焼かれた彼らの多くはそれを紛失している。しかも再発行にもべらぼうに高い金額が必要だった。男の言うとおり、たとえ以前住民権を持っていたとしても、今現在手元にそれがなければ、この国では浮浪者と同じ扱いになってしまうのだ。

この都市に入ってきた難民の多くは、都市の外れにある難民居住区に落ち着く。そこは敵国の侵入を許した領土から発生した難民たちが、身を寄せ合うようにして共同体を形成している。家を失い、行くあてを無くした人々は、この国の首都であるこの街に集まってくる。たとえそこで保護が受けられないと分かっていたとしても……。

そしてスラム街に住んでいる人間の中にも『住民権』を持っていない者がいる。ここにはこの街に元からいた貧困層などが住み着いて、犯罪の温床となっていた。元盗賊のアンリ自身も、かつてはここに身を置いていたことがある。ここには住民権なしでも入れる住居があるので、戦争が始まってからは、難民の一部もここに混ざってきていた。

そして彼ら『浮浪者』は定職にも就けないため、その生活は困窮を極めている。今は都市拡張工事で、住民権無しでも出来る単純労働が多くあるが、完成予定は来春だ。これでは悪事に走るな、という方が無理な話だ。

「―――この国の国民を殺せば、それは確かに罪です。この国の法律はそう定めている。しかし彼らを殺しても、罪には問われない。なぜなら、この国の法律は、住民権を持つ者をその対象としているからです。それを持たない者は保障の範囲外。いいですか……、彼ら浮浪者はこの国では、人では無いのです―――」
―――コイツ……言い切りやがった……。俺もその浮浪者の一人なんですけど。

 「――さて、話を戻しますが、今言ったように彼らを殺しても罪に問われる、ということはありません。こちらが標的の指示をすることもありますが、基本的にはあなたが、自分で標的を選んで、どんどん殺して頂いて結構です。また、自分では敵わないと思われる場合は、逃げて頂いても結構ですよ。自分の実力に見合った相手を殺してください。事後処理は私たちの仕事です。私たちとの連絡手段は―――」
「待て待て!もういいっ!」
アンリは話を遮る。もうこれ以上は聞きたくなかった。胸糞悪い話だ。

 「俺は断るぜ、この話」
アンリは歩き出した。男は、そうですか、と言って彼の前に袋を差し出す。
「これは?」
「受け取ってください。金貨が十枚入っています。今回の報酬です」
「…なんだと…。俺はお前らに頼まれてアイツを殺ったわけじゃないっ!報酬なんて受け取れるかっ!」
「…すいません。言葉が間違っていました。これはあの男の『命の値段』です。彼は腕も立ち、金貨十枚の価値のある男だった。それを貴方は殺したのです。―――『奪った』んです。奪った物なら一度は貴方の手に納めるべきです。その後貴方がどうするかは自由ですが、一度はその手にしなくては……。それは奪った者として当然の『責任』でしょう?」

 何も言い返せなかった。彼はそれを受け取る。ずしりと重い。久しぶりに『奪った』その重さは、とても重く感じられた…。

「……最後に聞いとく…。…アンタの後ろにいるのは何者だ?」
答えが返ってくる。
「それは私の口からは言えないことになってますんで」
やっぱりね。アンリは足早にその場から立ち去った。残された男が呟く。
「……まったく……。胸糞悪い話ですな……」
その呟きは冬の冷たい空気の中に、静かに溶けていった。

 

 

 

 アンリが小屋に帰り着いたのは、夜もかなり更けてからだった。一応尾行がないかを確認しながらここまで歩いてきたが、その気配は感じられなかった。
「…ただいま…」
ドアを開けると、
「アンリっ!!」
ミーアが飛びついてきた。
「心配してたのっ!一体どうしたのよ!?」
目には涙まで浮かべていた。その顔を見ていると、今まで張り詰めていたものが、溶けてゆくのを感じた。彼は自然と笑顔になる。
「ごめんね、心配かけてさ」

 ミーアと遅い夕食をとって、風呂に入って、一緒にベッドに入る。ミーアと愛し合う最中も、ことが終わって、ミーアとじゃれているときもずっと、頭のどこかで、今日のことを考えていた。
(奪った者の責任…か…)

 何か大きなものが動いている。あの男、ボブとかいったか、の話を聞いてそう思った。あれが話しに聞いていた『神隠し』の真相なのだろう。今までに姿を消している浮浪者はかなりの数になるという話だ。そして、今日俺を襲ったやつは、その実行犯。ヤツだけじゃあるまい。もっといるだろう。

 この街の裏でかなりの人間が『神隠し』のために動いている。これだけの人を動かすにはかなりの金と、そして権力が必要なはずだ。背後にいるのは商人か、貴族か、それ以上か…。とんでもない話だ。いくら増える浮浪者に手を焼いているからといって、こんな手段をとるなんて…。

 この国を…、少なくともこの都市を離れるべきなのかもしれない。金貨十枚もあれば、なんとかなる。しかし、ミーアを連れてどこへ行けるというのか。彼女に安住の地は無いといっても過言ではない。どの街へ行っても迫害は必死だ。今の環境は捨てがたい。…しかしこのままここに留まれば、巻き込まれるような気がする。

 (………くそっ!!あーーーもう、わっかんねーーー!!!)
―――――とりあえず、寝てしまうことにした。

 

 

 

 翌朝。

 アンリの目にはバッチリ隈ができていた。ミーアが心配そうにこっちを見ている。彼女に心配をかけて、そのかわいい顔が翳ってしまうのは、正直堪えた。
「なあ、ミーア…」
アンリはパンを齧りながらつぶやく。
「今後さ……、今みたいにヘコむことが増えると思うんだ…。でもさ、君には笑っていて欲しいんだ…。そうすれば俺、どんなことがあってもやっていけるから………」

 ミーアは黙ってそれを聞いていた。
「―――ねぇ、街で何があったの…?」
「………」
「………」
「………ごめん、話せない…」
「…そっか」
彼女は目を閉じて、何かを考えている。そして、笑顔を見せてくれた。
「……わかった」
その笑顔だけでアンリは救われた気がした。

 ―――――勝手な話だって分かってるんだ―――。彼女に心配の原因も話さないで、ただ笑ってて欲しい、なんて。残酷なこと言っちまった…。彼女の気持ちも考えないでさ…。死ぬほど心配するに決まってんだ。それなのに俺は………。

 山を降りながらアンリは、そんなことを考えていた。街に着いて仕事をしていても、ミーアの心配している顔が頭をよぎる。周囲に対して気は張っているが、頭からはミーアのことが離れない。
(えい、くそっ!考えることが多すぎるんだ!!)
彼はもともと考え込むのは苦手なのだ。

 

 

 

 アンリは家路を急いでいる。周囲に気を配りながら。早くミーアに会いたかった。

 「待ちなっ!!」
野太い声が響く。豪華な門の傍から聞こえた。ここは高級住宅街で、その声はかなりこの場所のイメージにそぐわない。夜の闇の中、よく見てみると、そこには一人の男が立っていた。閉じた門に両手剣を立て掛け、プレートメイルを着ている。おおかたこの屋敷の用心棒か何かだろう。

 「なんだよ…。先を急ぐんだけど…」
アンリはため息交じりで答える。相手の用件は火を見るより明らかだったが、一応聞いてやる。
「お前を殺れば金貨『十一枚』なんでな……。悪く思うなよ」
(なんだと……!!?)
アンリは驚いたが、それをおくびも出さず、静かにポケットに手をいれて石を掴む。
「誰に頼まれた?」
(昨日のあの男を殺した俺は『十一枚』って訳か……。くそったれ!)
「さぁて、誰だったか……。まぁ、これから死ぬお前には関係ないことだな」
へっへっへっ、と笑う。

 「…そうかいっ!!」
アンリは左手で石を投げると、腰の短剣(今日からは念のためナイフから短剣に代えてある)を抜き、男に飛び掛った。男はまだ笑っている最中だったが、石が彼の右目に命中すると、短い悲鳴を上げて顔を庇った。アンリは男の首筋を切り裂いていた。噴出す血が、閉じた門にバシャッとかかる。
「…ア、ガ……」
男は信じられない、といった顔で固まっていた。

 やがて男は崩れ落ちる。アンリはそれをしばらく見つめていた。早くミーアに会いたかった…。

 

 

 

 「ただいま〜」
アンリがドアを開けると、いい匂いが漂ってくる。
「お帰りなさい」
ミーアは優しい笑顔で彼を迎えてくれる。今日のご飯は〜?とかお風呂はどうする〜?とか、いつもの会話をかわし、今日街で見てきたこと、仕事場であったことなんかをミーアと話す。彼はよく笑い、彼女もよく笑った。

 食べ終わって、テーブルの上を拭いていたミーアを、アンリは後ろから抱きすくめて止める。
「どうしたの?」
ミーアはくすぐったそうに笑う。
「ここでしていい?」
アンリはそれだけを言う。
「我慢できないの?」
くすくす笑っている。
「我慢できない…」
クルッと彼女はアンリの腕の中で回って、軽くキスをする。彼女の左の目は、期待に満ちていた。

 服の上からゆっくりとミーアの胸を揉みあげる。すぐに甘い声が返ってきた。唇は彼女の尖った耳をなぞっている。彼女は両手をアンリの背中にまわして、スカートの中の足は切なそうに、彼を求めて蠢いていた。

 「座って……」
アンリは彼女をテーブルに浅く腰掛けさせた。彼女は何をするのか不思議がっていたが、彼が突然長いスカートをたくし上げ、中に頭を突っ込んだので、やっと彼が何をする気か理解した。
「ちょっ…!!?アンリ!?それはずかし…キャぅっ!!」

 真っ暗なスカートの中を、手探りでそこを探す。スカートの中はむせ返るような彼女の匂いで満たされ、彼をさらに興奮させる。すでにじんわりとにじんだそこに、手の位置を頼りに顔を近づけて、口付けをする。そのまま舌を使い、彼女の冷たい蜜をすする。
「ひゃあっ、あっ…、うあ……っ、んあぁッ!」
彼女の冷たくぬめった足が、彼の頭、首、そして服の中にまで巻きついてくる。まるで頭から丸ごと食べられているような気分になる。イヤな気分じゃない。彼はさらに強く口を押し付ける。このまま彼女の内側から、彼女の全てを味わいたかった。

 舌や手を使って彼女を味わっていると、やがて上のほうからアンリ、アンリと彼を求める声が聞こえてきた。彼はそこから口を離し、スカートの中から抜ける。そこにはテーブルの上に横たわり、顔を真っ赤にしたミーアの姿がある。口からは涎をたらし、ひどく扇情的だ。彼が口をグイッとぬぐうと、彼女は恥ずかしそうに顔を背ける。アンリの腕は、ランプの光に照らされて、ヌラヌラと光っていた。

 「ハァ…、ハァ…、アンリばっかり……、ズルい…」
ミーアはテーブルの上でそう呟いた。彼女は今はだらんと力を失って垂れている足たちを、アンリの腰に回す。
「…うおっ!」
その中の四本が、突然アンリのズボンの中に侵入する。ひんやりした彼女の足に思わず声が出た。

 その内の一本が、すでにズボンにテントを張っていた彼のものに巻きつく。思わず腰を引きそうになったが、彼女の足ががっちり腰を固定していて離さない。
「…うぁ…」
その足が彼のものをしごき始める。冷たくぬめった彼女の足は、ゆるゆると、たまにキュッと締め付け、彼のものを嬲ってゆく。

 彼女は体を起こして、彼のズボンのベルトを外す。そして下着と一緒に足でずり下げてしまった。彼女はソコを見て、淫靡に微笑む。ゾクゾクするような笑顔だった。

 アンリは自分の腰に目をやる。そこはスゴイことになっていた。ミーアの足が蠢き、彼のものにとぐろを巻いている。他の足も同時に彼の太ももを撫で、彼の腰は自分の意思とは関係なく、ビクッ、ビクッと動いていた。

 「!!?」
突然アンリの背が震えた。彼女の足が彼のお尻、袋などを同時に攻めだしたのだ。腰が砕けそうになるアンリを、ミーアは上目遣いに見ている。
「…ねぇ、アンリ…気持ちいい…?」
気持ちいいなんてモンじゃないっ!ヤバすぎです。彼の先端を彼女の足の先が突付く。それも締め付けながら。
「アハ……、気持ちイイんだ……」
袋は優しく転がされ、そこからグングンと込み上げてくるのが分かる。

 「ミーアっ!俺、もうっ…!!」
すると、シュルンと彼の腰から彼女の足が引いた。
「…!?ミ、ミーア…」
「フフっ…」
アンリの途方に暮れた顔を見て、ミーアはいたずらっぽく笑う。そしてテーブルから降りると、彼のものの前に顔を近づける。

 「……アンリの…飲みたい…」
今度は一転、アツイぬめりに包まれる。彼女の唇が激しくそれをしごき、舌が巻きついてくる。爆発寸前だったそれは、さらなる刺激を受けて悦び、打ち震えた。

 「…っクぅ…!!」
アンリのものが一際膨らんだ瞬間、ミーアはそれを激しく吸い上げる。それに吸い込まれるように彼のものが迸っていた。吸い上げられたそれは、いつもより速く尿道を通り抜け、いつもよりも激しい快感を彼にもたらす。その快感が次の射精を呼び、彼はいつまでもミーアの顔を自分の股間に押し付けていた。

 チュプっとミーアは彼のものから唇を離す。そこには光る糸が引いていた。コクッ、コクッと小さく喉が鳴る。それをボーっと放心したようにアンリは上から見つめていた。顔を上げたミーアと目が合う。彼女は指で唇をなぞると、恥ずかしそうに微笑んでその指を舐める。アンリの顔がボンッと一気に真っ赤になった。

 ミーアはくすくす笑って、そのまま再び彼のものをしゃぶり始める。それは彼女の舌に嬲られ、すぐに力を取り戻した。彼はゆっくりと彼女の柔らかい髪を撫でてやっていた。ミーアの自分を悦ばせようとする気持ちが、ただ嬉しかった。

 

 

 

 「いくよ……」
服を脱ぎ捨て、生まれたままの姿になった二人は、テーブルの上で一つになってゆく。
「ふぅ…んんっ、んんぅう……」
彼のものがゆっくり沈みこんでゆくと、彼女は鼻にかかった甘い声をあげる。ゆっくりと彼女を揺らし始めると、また甘い声をあげる。彼はゆっくり、ゆっくり、まるでいたわるように優しく動く。

 しばらくそうしていた彼だったが、突然ミーアをそのまま抱きかかえる。もちろん繋がったままだ。
「…キャァァあっっ!?ア、アンリ!?」
「たまにはこういうのも、悪くないんじゃない?」
アンリは意地悪そうに笑う。彼女の足は、ずり落ちまいと、彼の足や腰にシュルシュル巻きつく。
「……っ!!深いぃっ!!…ヒぃぁあっ、あぁ、あはあんっ」
彼女は精一杯背を仰け反らせて、その顎は天井を向いている。口からは舌が飛び出し、涎が溢れていた。彼はそのままガシガシと動く。彼のものの先端が壷の底を何度も擦る。ミーアの柔らかい髪は踊って、彼女は悲鳴を上げる。

 「あぁんっ!あぁんっ!…も…もう……ひゃめぇ…いっ……ひゃう〜っ」
呂律の回らなくなる彼女だが、彼も限界だった。巻きついた足が締め付ける力はいつもより強いし、なにより今回は彼女の吸盤が痛い…。こりゃ、痕が当分残るな…、などと考えながら、自分の限界も近づいているのを感じていた。

 彼の動きは限界まで早くなる。ミーアは上半身も彼にしがみついて、絶頂に備えていた。
「〜〜〜っ!!!」
彼のものがブシュッと弾けると共に、彼女は声にならない悲鳴をあげた。彼の精液がドクドクと彼女の中に染みこんでゆく。この瞬間がミーアはたまらなく好きだった。

小屋の中を静寂が支配する。全身の力が抜けたような彼女を抱えて、アンリはそのままベッドへ移動する。
「……すごかった…」
いまだ惚けたような彼女がポツリと呟く。
「‥プっ…」
アンリは思わず噴き出してしまった。彼女はハッと気がついて、すぐにむくれる。
「何よ…!アンリがやったくせにっ」
「あははっ…、ゴメンゴメン。でもミーアのも凄かったから、おあいこだ…」
彼は彼女の頬をなでてやる。――お願いだからそんなふくれっ面はしないでおくれ…。でもそんな顔もかわいいね、とでも口を滑らせたらきっと、ますます膨らむんだろうな…――なんてバカなことを考えながら。

 

 

 

 翌朝、目を覚ました彼が外に出てあくびをする。ドアの外に落ちている袋に気がついた。中身を確認する。―――金貨が二枚―――。どうやら昨日のヤツはチンピラに毛が生えた程度のヤツだったらしい。

 なんてことはない。ただ彼はもうすでに完全に巻き込まれてしまっている。それだけの事だった。

【To be continued…】



-モドル-

是非、作家さんの今後の製作意欲のためにも感想や応援を、拍手やBBSなどによろしくお願いします。 m(^о^)m

(拍手される場合作家さんの名前を始めに入れてくださると誰への拍手なのか特定できて尚嬉しいです♪)