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SS:猫又

 


 ムイは、生まれながらに奴隷だった。
 生みの親も、生まれた場所も分らない。生後まもなく川岸に捨てられて、それを奴隷商人が拾った。それだけで、彼女のその後の運命は決定した。
 だから、特別つらいと思った事はなかった。
 周りにいるのもみんな同じ境遇の子供ばかりだったし、自分の素性を知らない分、妙な希望を持つ事もない。
 その身軽さを買われ雑技団に踊り子として売られた時もそうだった。周りからは良かった、良かった、と喜ばれたが、ムイには何の感情も湧かない。少し待遇が良くなっただけ。彼女にとっては、その程度の事でしかなかったのだ。
 空を知らなければ、飛ぼうともしない。飛ぼうともしなければ、落ちる事はない。そう、本当にただそれだけの事だったのだ―――

 その夜、ムイは久し振りの外出を許されていた。
 煌々と輝く赤と黄色、派手に響く爆竹の音、忙しない喧騒と人混み。
 眠らぬ歓楽街の場景を見て廻った帰り、ムイが獣小屋に立ち寄り、新しく買われてきた「そいつ」を見付けたのは、本当に偶然だった。
 第一印象は、不恰好な奴。
 熊を髣髴とさせる獰猛な体躯でありながら、どことなく愛嬌の漂う梟面。そして、その巨体を支えるにはあまりのも脆弱な翼。魔獣と呼ぶにはあまりにも不恰好なそれは、オウルベアと呼称される西洋産の魔物であった。
 ムイ自身、魔物を見るのは初めてではない。
 事実、彼女の所属する雑技団には、多くの異獣が見世物として飼育されていたし、ムイもそれらと競演する事も少なくはなかった。
 しかし、目の前に蹲るオウルベアは、ムイが今まで見たどんな獣ともかけ離れた印象を彼女に植え付けた。
 獰猛でも勇壮でもない。かといって万人から愛されるほどの愛嬌も可愛らしさもない。一言でいうならば、中途半端で不気味な生き物。
 ―――そう理解しているのに、ムイは目を離す事が出来なかった。
 その理由は分らない。でもその夜以来、彼女は暇になれば、オウルベアの檻へ遊びに来る事が多くなっていた。

 雑技団の中でのオウルベアの扱いは酷いものだった。
 動きが鈍いと罵られ、芸を覚えないと鞭で打たれた。他の獣と比べても圧倒的に悪い待遇であっても、オウルベアは決して反抗する事はなかった。調教師は臆病者だと笑っていたが、ムイは彼が優しいのだと知っていた。
 何よりオウルベアに不利だったのが、飛べない、という事だった。
 そもそも、オウルベアは飛べる種族ではない。両腕の翼は、かつて鳥種であった事の名残でしかないのだ。しかし、そんな事を極東の雑技団の団長が知る訳もない。団長は、彼が飛べないと知ると、激怒し、この金食い虫め、と罵った。
 結局、オウルベアはムイの演舞の前座として使われる事になった。
 翼があるのに飛べない獣と、翼もないのに舞う少女―――そんな謳い文句は、各地の公演で評判を呼び、ムイはいつの間にか、雑技団の看板スターになっていた。
 初めは実感が湧かなかったムイも、公演を重ねるにつれ、その喜びが分ってきた。
 雑技団に買われた時も、久々の外出許可が下りた時も、決してムイの中に根付かなかった感情。それは一頭のオウルベアと一緒なら、いとも簡単に掴み取る事ができる感情だったのだ。
 ムイは初めて、充実感というものを知った。

 その夜も、ムイには外出許可が下りていた。
 その歓楽街での公演も成功し、翌日の舞台に備えよう、という夜。眠れなくなったムイは、ふらりとオウルベアの檻までやって来ていた。
 檻の前には、先客がいた。
 団長と調教師。二人は檻の前で、何やらこそこそと話をしている。
 その夜は、風もないほど静かな夜で、聞き耳を立てずとも、二人の会話は自然にムイの耳まで届いていた。
 ―――オウルベアを売る。
 話は実に簡単だ。ムイの人気も安定してきた。これ以上引き立て役は必要ないだろう。ちょうど珍獣の剥製を集める好事家がオウルベアを買いたい、と言ってきている。ならこの機会に売ってしまうべきだ・・・・・
 会話はすぐに終わった。二人にとっては、議論するほどの話でもなかったのだ。
 結局、そこにはムイとオウルベアだけが残されていた。
 ムイは正直、驚いていた。オウルベアが売られ、剥製になるという事ではなく、自分がそれを知って驚いている、という事実にだ。
 同じように育った仲間が娼館に売られても、同じように訓練をつんだ仲間が事故死しても。ムイは今まで決して動揺する事はなかった。
 自分が不幸になろうとも、幸福になろうとも、それは自分とは関係ないと思って生きてきた。
 自分は奴隷なのだ。
 上に行く決定権も、下に行く決定権もない。それが運命なのだから―――そう、思っていたはずだった。
 ムイはいつの間にか泣いていた。
 そんな感情を知って知らずか、オウルベアは愛嬌のある眼で彼女を見つめ、慰めるようにそっと抱き寄せた。
 ムイは檻の中で、オウルベアの飛べない翼にそっと包まれた。
 翼があるのに飛べない獣と、翼もないのに舞う少女―――そんなのはとんでもない間違いだった。飛ばなくて良かったのだ。飛んでしまえば、いつかは落ちる。なら、見せ掛けだけの翼がずっと良い。
 このまま、彼とずっと居たい―――そう願いムイはオウルベアに確りと抱きついた。
 すると、まるでその願いが通じたかのように、ぴくりとムイの腹部に温かいものが、押し付けられてきた。
 それは、オウルベアの生殖器だった。
 巨躯に相応しい逞しさを備えたそれは、長さにして少女の前腕ほどはある。幹には体毛と同色の白い産毛が薄っすらと生えており、先端からはぷっくりと腫上がった亀頭が顔を覗かせている。
 その勃起が、ムイに対しての愛情からなのか、抱きついた事による生理反応なのかは分らない。ムイはただその肉棒に手を這わせると、撫ぜるように擦り始めた。
 オウルベアが軽く咆哮を上げた。
 その反応が彼の返事だと悟ったムイは、ごつごつと節くれだった肉棒を脚で挟み込むように、ゆっくりと愛撫し始めた。
 むわっと、獣の臭いがムイを包んだ。
 抱きかかえるそれは、決して綺麗なものとは言えない。それでも、ムイは自分の胸の中で脈打つそれが、愛おしくてたまらない。
 じんわりと、身体の芯が熱くなるのを感じていた。

 二人の息遣いが響いていた。
 檻の中で、横向きに転がる魔物。
 その魔物の内に抱かれながら、性器を全身で擦りあげる少女。
 衣服はいつの間にか脱ぎ捨てていた。ムイは口を、舌を、胸を、手を、腰を、脚を使ってその肉棒を愛撫し続ける。
 その背徳的な情景は、知識も経験もほとんど持たないムイの身体をじっくりと劣情で焦がし始めていた。
 それはオウルベアも同様であったようで、次第に先から漏れ始めた粘着性の液体は、全身愛撫の良い潤滑剤となり、ぐちゅ、ぐちゅ、と淫猥な音が獣小屋に響き出した。
 がしゃん、がしゃん、と檻が揺れる音がする。
 目の前で分泌される牡の臭いに酔っていたムイは、その音で軽く正気を取り戻した。
 それは他の獣たちが激しく檻を叩く音だった。ムイとオウルベアの情事を察したのだろう。小屋中の獣が興奮気味に、檻の中で暴れ回っている。
 ―――こんなに五月蝿かったら、いずれ誰かが気付いてやって来る。だから、その前に・・・・・・・・
 そんなムイの気持ちに気付いたのだろう。オウルベアはゆっくりと起き上がると、覆い被さるように彼女を押し倒した。
 そして己の肉棒を、ゆっくりとムイの秘裂に押し込んでいく。ぷちゅ、と限界まで潤んだ陰裂から蜜が溢れ出した。オウルベアはそれを掻き分けるように、ムイの処女孔を押し広げていく。
 痛みは一瞬だった。
 充分濡れていたからだろう。驚くほど簡単に挿入は完了していた。ムイが腹部を撫ぜると、そこがこんもり膨らんでいるのが分る。
 実際、生殖器は半分ほども収まりきっていない。しかし、オウルベアは満足そうに声を上げ、子宮口を数回突いた。ムイはそれに痙攣という形で反応し、二人が完全に繋がっている事を歓び合った。

 それは、まさに睦み事だった。
 オウルベアがムイの身体を包み、軽く腰を振動させる。膣内を隙間なく埋め尽くした肉棒は、その振動を余す事なく伝え、ムイは歓喜の声を上げる。
 ムイは熱い吐息と共に貪欲に舌を求め、オウルベアは嘴でその舌を甘噛みする。オウルベアはその所有権を主張するかのように、唾液を垂らし、ムイの顔を己の欲望に染めていく。
 それは、既に異種族同士の性交ではなかった。
 もしこの情事を目撃した第三者がいたならば、この二人を初めからこうある生物だと勘違いしたかもしれない。
 それほどまでに、二人は深く繋がりあっていた。
 時間にして五分にも満たない行為。
 それでも人生の中において、最も濃密な時間。
 その最後に、オウルベアは今までで最も大きな咆哮を上げ、愛する者の体内に、ありったけの精をぶちまけた。
 オウルベアの射精は数分間におよんだ。まるでポンプのような音を立てながら、ムイの子宮に大量の白濁を注ぎ込んでいく。
 膣内に入りきらなかった精液が、結合部から溢れ出してきても、オウルベアは気にしなかった。射精しながら腰を揺すり、愛の形を刻み込んでいくという行為。彼はそれを実践しているにすぎないのだ。
 ふわり、と身体が浮くような錯覚。
 いや、それは錯覚ではない。ムイはその瞬間、確かにオウルベアの腕の中で、空を飛んでいたのだ。
 胎内で最も愛しいものの子種が、次々と命として結ばれていく―――そんな感覚に身体を震わせながら、ムウはゆっくりと意識を放棄した。

 結局、夜明けまで、雑技団の面々が獣小屋の異変に気付く事はなかった。
 空になった檻には、何かと何かが交わっていただろう、という痕跡こそ見られたが、ムイとオウルベアの姿は既になかった。
 一人と一頭の行方は結局見付からず、雑技団の看板スターの失踪という、小さな事件へと発展したあげく、歓楽街界隈を少し騒がせて終わった。

 ―――そして、これは後に聞いた話だが。
 ちょうどその日の明け方。朝帰りをしていた酔っ払いが、奇妙な二人組みを見たという。
 白い梟のような顔をした熊と、それに抱えられた全裸の少女。
 梟熊は酔っ払いの方を一瞥すると、それはそれは立派な翼を広げ、少女と共に東の山へと飛び去って行ったそうだ。
 これ以降、二人の姿を見たものはいない。



【 fin 】


-モドル-

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