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SS:猫又

 沈んだ世界。
 そこは、そう呼ぶに相応しい場所だった。
 古の詩人達に、千年は晴れぬと詠われる濃霧に包まれる北方の大湿原。
 数多の生命の揺り篭であるこの場所では、灰色の霧の中に沈み、草木も、動物も、人も、曖昧な輪郭だけを浮き立たせている。その風景は、まるで光の届かない深海を思わせる。

「………クソッ、最悪」
 そんな深海の底を、一人の騎士が彷徨い歩いていた。
 王から賜った剣も鎧も、既に泥の中に捨ててしまった。ほとんど丸腰である騎士が握り締めているのは、自らを庇い息絶えた愛馬の残した手綱だけだった。
 首筋で切り揃えられた短髪、碧色に輝く双眸、そして小振りながらも豊かな胸の膨らみ。
 そう彼女―――イルマは、騎馬兵だった。
 帝国でも随一の精鋭と名高い辺境警備騎馬隊。
 その数十年に及ぶ歴史の中で、初の女性騎士が、イルマだった。
 卓越した技術と、男顔負けの度胸。そして何より、まるで馬と会話出来ているのではないかと思わせる絶妙な馬術。
 入隊数年で、イルマは、騎馬隊の主力になっていた。
 生来、馬と戯れるのが好きだったイルマにとっても、騎馬隊という職は、生涯をかけられる誇りある役目だと、そう思えたのだ。
 ――――そう、ほんの数時間前までは。

「……ジャンビーヤ……」
 戦場は、大湿原に沿うように広がる北方の国境地帯だった。
 元々、敵国の侵攻が多かった地帯で、今回の侵攻に際しては、付近の砦に滞在していた辺境警備騎馬隊が第一陣として迎撃する事になったのだ。
 戦力差は、歴然だった。
 いくら誉れ高き騎馬隊と言え、圧倒的な数の差を覆しきる事は出来なかったのだ。
 防衛に当たった騎馬隊は、ほぼ壊滅。
 先陣を切って突撃していたイルマも、遠距離からの爆破魔術に晒され、失神。愛馬であるジャンビーヤに連れられる形で、大湿原の中に逃げ込んだのだった。
「……お前は、私を生かそうとしてくれたのか……?」
 手負いの軍馬は、気を失った主を背に乗せて、力尽きるまで湿原を進み続けた。
 それが、どういう意図であったのか、確かめる術はない。
 しかし、冷たくなった愛馬の背中で目を覚まし、イルマは、漸く自身の矛盾を悟ったのだ。
「……私は、何故、騎馬隊などに入ったのだ」
 イルマは、純粋に馬が好きだった。
 その誇り高い眼差しが、圧倒的な存在感が、意外なほど繊細な気性が。
 出来る事なら、ずっと戯れ、ずっと一緒に過ごしていたい。
 だから、騎馬隊に入った―――筈だった。
 しかし、何の事はない。
 騎馬は、戦い、そして死ぬ運命にあるのだ。
 騎馬兵にとって馬は命を預ける相棒であるが、同じように最も信頼出来る武器でしかない。
 イルマには、それが理解出来ていなかった。
 いや、理解は出来ていたのだろう。自分の相棒は、決して死なせないという自負も、見合うだけの実力もあった。
 でも、自分を庇って死に絶えた愛馬の姿を見て、漸く悟った。
 それは、ただの幻想だった、と。

「………バカだ、私はッ!」
 既に、歩き始めて数時間が経とうとしていた。
 今、自身がどこにいるのかも、どこに向かっているかも分らない。そもそも、イルマには、自分が生き延びたいと思っているのかどうかすら分らなかった。
 ただ、自分を救ってくれたジャンビーヤに報いる為だけに歩く。
「……お前は、笑うだろうな……こんなにも後ろ向きな私を……」
 呟き、そんな自分を自嘲する。
 今、イルマには、誇り高き騎馬兵としての面影は、もう残っていなかった。
 ただ、何も考えず、死人のように歩き続ける。
 生き延びるつもりも、死ぬつもりもないイルマは、正しく死人だったのかもしれない。

 ―――だが、当然、終わりはやって来る。
 ただでさえ歩き難い湿地帯を、休みすら取らず歩き回った代償。
 既に、イルマの体力は限界に達していた。
「……ごめん、ジャンビー……ヤ……」
 膝を突き、その場に倒れこむ。
 起き上がる力は、もう残っていない。朦朧とする意識を必死に繋ぎとめながら、イルマは、最期に見る事になるであろう、目の前の景色を焼き付けようと、目を凝らした。
「―――――え?」
 そこは、湖だった。
 直径は五〇メートルほどと小さい湖だが、湛えられた水は底が見えるほどに澄んで美しい。
 更に、乱れ咲く花々と、水底を駆ける魚たち。
 泥から発生するガスの影響で、一部を除いた生物の殆どが生息できないこの大湿原において、そこは、正しくオアシスだった。
 そして、何よりも不思議なのが、その光景が見て取れる、という事だった。
 大湿原全体を覆う、雲のように厚い霧。その濃霧が、目の前の湖には、一切かかっていない。まるで、濃霧だけを切り取ったように、その湖は存在しているのだ。
 だから、だろう。
 イルマには、はっきりと見えていた。
 清く澄んだその水面に立つ、その姿を―――
「………ジャンビーヤ………?」
 それは――馬だった。
 目が醒めるような蒼い胴体、水面に反射する銀の鬣、狂気を想わせる獰猛な瞳。
 全てが知的に洗練されていて、それでいて狂ったように猛々しい。
 相反する二つの印象を胸に抱く。
 けれど、あれはそんな矛盾すら、きっと軽々と超えていってしまう。
 そう、素直に信じられるほど、それは―――美しかった。
 千年晴れる事はないと言われる大湿原の白い濃霧。それを掻き分けるように、鏡面の様に整った静かな水面を、一歩、一歩、優雅に歩いていく。
「………………………………」
 イルマは、呼吸が出来なかった。
 あれは、ジャンビーヤではない。
 朦朧とした意識の中でも、それくらいは判別ができる。
 あの馬は―――この世のモノではない。
 馬が、ぴたりと、歩みを止めた。
 そして、煉獄のように燃え滾る赤い瞳で、イルマを―――視た。
「………………………………!!」
 魅入られた、と感じた。
 頭の中が漂白され、あらゆる事が無意味と化した。
 でも、たった一つ、たった一つの思いだけが、空っぽになった胸へと去来する。

「私は………貴方に、乗りたい………」

 呟きは、湿原に響く、馬の嘶きに掻き消された。

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 海を漂い続ける、夢を見た。
 泳ぐわけではなく、沈むわけでも浮くわけでもない。
 ただ、漂うだけ。
 静寂に、心が融けていく。
 こんな安らぎを感じるのは久し振りだった。
 幼い頃、無邪気に馬と戯れている時の感覚に似ている。
 そう。
 まるで、馬の背に跨っているような心地だ―――
「………………んっ」
 イルマは、ゆっくりと目を開けた。
 予期していた日光の眩しさは微塵もなく、ただ暗く湿った空気が充満している。
 どこかから響いてくる、ぴちゃ、ぴちゃ、という水の滴る音を聞いているうちに、現実が理解できるほどの感覚が戻ってきた。
 濡れた岩塊に囲まれた場所だった。
 恐らく、湿原の中にある洞窟の中なのだろう。
 イルマは、その洞窟の行き止まりにあたる場所に寝かされていた。
「……少し寒いな」
 大湿原を歩いていた時、邪魔だからと言って鎧を脱ぎ捨てていたイルマは、肌着同然の姿になっている。そんな格好で洞窟にいれば、寒いのは当然だろう。
 イルマは、体温を逃すまいと、ギュッと自分の身体を抱きしめる。
「……そうか、私は、あのまま……あの蒼い馬に乗って……」
 少しは落ち着きを取り戻した頭で、その時の事を思い出す。
 湖の前で、あの蒼い馬に魅了され、誘われるままに、その背中に跨ったのだ。
 自分がここにいる、という事は、あの馬がここへ連れてきたのだろう。
 しかし、一体何故―――

「……!」
 イルマには、その疑問を考える余裕は与えられなかった。
 目の前の岩陰から、イルマを連れて来たであろう、蒼い馬が姿を現したのだ。
「………くっ」
 ごくり、と息を呑む。
 気を抜いていると、再び意識を奪われてしまいそうな、圧倒的な美しさ。
 目の前の蒼馬は、馬として完璧な美しさを兼ね備えている。
 だが、よく観察すると、やはり馬ではない事が分る。
 足先には蹄ではなく、先の分かれたヒレが付いているし、尻尾や耳の造型は水中生物を思わせる。
「――――お前、魔物か?」
 当然、答えはない。
 蒼い馬は、一歩、一歩、イルマに詰め寄ってくる。
 ここは、洞窟の最深部だ。逃げる場所などどこにもない。
「私を……食べるつもりなのか?」
 相手は魔物だ。
 その魔物が人間を攫う目的など、それ以外に考えられない。
「……皮肉だな。馬の化け物が、私を食い殺すなんて……」
 イルマは自嘲した。
 これは報いなのだ。
 愛馬を危険に晒し、命を奪い、馬が好きだったのだと、嘯いていた自分への報い。
 抵抗する気は、なくなっていた―――
「――――好きにしろ」
 口に出すと、覚悟は思いの外あっさりと決まった。
 言葉の通じない魔物相手にも分るよう、身を正し、目を瞑る。
 それを察したのか、蒼馬の気配が一気に近付いてくる。
 相手はもう目の前だ。
「………………………」
 果たして自分はどのように殺されるのか。
 頭からか、それとも柔らかい腹からか。
 そんな不安が一瞬、イルマの脳裏を過ぎった瞬間――――

「―――ひゃっ!?」
 ぬるり、とした生暖かい感覚だった。
 覚悟していた死の感覚とは、余りにも異なる感覚に、イルマは、思わず目を開けてしまった。
 飛び込んできたのは、懸命にイルマの股間に舌を伸ばす、蒼馬の姿だった。
「な、なにをしているんだ…お、お前はっ!」
 その捕食とは余りに懸け離れたその行為に、イルマは身を捩るが、そもそも逃げる場所などない。
 蒼馬は、そんなイルマの動揺を意に介さず、ひたすらショーツに舌を這わせている。
 運動性を重視し、出来るだけ薄い布で作られたイルマの下着は、見る見る唾液に侵食され、未発達な性器にぴったりと張り付いて、その形を露わにしてしまう。
「……い、いやっ! なんのつもりだっ!」
 思いがけない羞恥に、なんとか腰を浮かせ、逃れようとするが、蒼馬は押さえ込むように、口唇を押し付け、イルマの抵抗を許さない。
 そもそも体格が違うのだ。
 こんな不利な体勢から、イルマが魔物を押し退けて逃げる術など、ないに等しい。
 それでも必死に抵抗を試みるイルマは、右に左に身体を揺らし、なんとか蒼馬の側面に回り込もうと身を捩る。
「―――――!!」
 そこで、イルマは異様なものを目にした。
 大きさは、成人女性の腕くらい。ぬらぬらと妖しい光沢を湛え、凶暴なまでに猛っている。
 初めの位置からは、蒼馬の頭が邪魔になって見る事が出来なかったソレは、馬体の下部、ちょうど、股間の位置から生えていた。
 ―――こいつの、性器、なのか?
 位置や形状から推測するに、それは魔物の性器である事に間違いはないだろう。
 だが、異様なのは、その形状だった。
 まず、本来の馬のものとは、大きく懸け離れている。大きさで言えば、普通の馬のものより、一回りほど小さいだろう。根元から、先端にかけて徐々に細くなっており、亀頭にあたる部分だけ見るならば、植物の蔦のようにも見える。
 魔物の性器に驚いて動きを止めていたのは、ほんの数秒間であったろう。
 だが、それは蒼馬が次の行動を実行に移すには、充分すぎる時間だった。
「……んんんっ!? くっ、こいつ!!」
 温かい感触が―――侵入してきた。
 蒼馬は、器用に肌着をずらすと、そのまま舌をイルマの秘部へと直接入れてきたのだ。
「くふぅぅぅ! ちょ、調子に乗る……ふわあぁぁぁ!」
 唐突な感覚に、身体が、二、三回痙攣する。
 蒼馬の舌は、遠慮もせずに、恥肉を掻き分け、膣内を奥へ、奥へと進んでくる。
「こ、こいつ…! 舌が…な、長すぎる…! 凄い、凄いトコまで入ってきたぁッ!!」
 騎士であるイルマとて、男性経験がない訳ではない。
 だが、魔物の舌が舐っているその部分は、今まで何者にも犯された事のない、イルマの膣の最深部。子宮の入り口だった。
「やめッ、やめてッ! 奥まで…入りすぎだ! やめろッ!!」
 蒼馬の舌は、余りにも長く、細かった。
 当然、馬の舌はここまで長くない。長くする必要がないからだ。
 だとしたら、何故、この魔物の舌はここまで長く細いのか。まるで、この為だけに舌があるように―――

「………ま、まさか、こいつッ」
 イルマは、そこで思い至った。
 細く長い舌、馬の一回りほど小さい、蔦のような男根……
 これは全て、人間の女を犯す為の仕組みなのではないか。
 この蒼馬は、初めから食べるつもりではなく、犯すつもりで自分を攫ったのではないか。
「お、お前は……んんっ!? んんんあああぁぁぁっ!!」
 蒼馬が、激しく舌を蠢かせ始める。
 長い舌を素早く出し入れし、膣全体を刺激する。動きとしては単純だったが、イルマに快感を思い出させるのには、それで充分だった。
「待てっ! 止めてっ! 止め…くううう、うわぁぁ!!」
 激しく素早いストロークは、鋭利な槍の一突きを思わせる。
 その槍に容赦なく刺し貫かれる肉壷は、引き抜かれる度に、派手に蜜を撒き散らし、無残に、そして強引に、拓かれていく。
「そ、そんなの…違う、違うのにっ! んんんんっ! ……違う、はずなのにィ!!」
 それは、イルマの想像の範疇を超えていた。
 目の前の魔物が、自らを犯そうとしているという事実、そしてなによりも、自分がその行為に快感を覚えているという事実。
 いくら否定しようとしても、舌が膣内で暴れる度に、快楽という名の強烈な波が、イルマの半端な自己暗示を押し流していってしまう。
「……こ、こいつは、こいつはっ! ジャンビーヤじゃ…ないッ! う、馬でもないッ…のに!」
 不意に口をついた言葉に、なによりイルマ自身が驚いた。
 目の前の魔物が……ジャンビーヤであったら、馬であったらよかったという吐露。
「ち、違うッ!!」
 イルマは、それを必死に否定する。
 そんなはずはない。そんな疾しい気持ちは、自分にはない――否定する度に、身体の底から抗えない快楽がせり上がって来る。
「わ、私はッ!! くうぅううう! んんッ、い、一緒にッ……!!」

 ――――まだ、私が小さかった頃、突然、父は、私が厩舎へ近付くのを禁じた。
 ――――父は、繁殖期がどうの、と難しい説明をしたが、私にはちっとも理解できなかった。
 ――――だから、私は、父に黙って、こっそりと厩舎へ向かった。

「……いたかった、だけでッ!! んんん……ひっ、ひぎぃぃぃ!!」

 ――――馬たちは、酷く興奮していた。
 ――――私は、そこから目を背ける事ができなかった。
 ――――その、強く、太く、逞しい………

「やああぁぁぁッ!! イ、イクッ……ぎ、ひぃぃぃっ、イッちゃうぅぅぅ!!」
 何かが、決壊した。
 イルマの身体は、数度狂ったように激しく痙攣すると、劈くような悲鳴と共に絶頂を迎えた。
 今までの比ではない大量の愛液が噴出すのを見て、蒼馬は相手の絶頂を悟ったのか、ゆっくりと、舌槍を膣から抜き出した。
 どろり、と蜜壷の奥で、何度も何度もかき回され、泡立った液汁が溢れ出してくる。
「……う…そ、うそ…いや……私、イッたの…? イッたの……?」
 乱れる呼吸を整えながら、イルマは、焦点の定まらない瞳で、自らの惨状を目の当たりにした。
 散々責め抜かれた秘唇は、真っ赤に腫上がり、彼女の思いとは裏腹に、牡を迎える準備を整えている。
 そして何より、全身を包む、心地良いほどの爽快感と満足感が、イルマの残った理性を激しく打ちのめした。
「……なんて、何てザマだ…私は…こんなにも…惨めで……!」
 自然と、涙が溢れ出した。
 死を覚悟していた筈だったのに、弱った心の隙を快楽で塗りつぶされた。
 しかも―――幼い日の、想いまで道連れにして。
 

―――私の心は、こんなにも弱かったのか?

―――それとも、私はこれを望んでいたのか?
 答えはなかった。
 ただ、ずきずき、と劣情と欲望が一緒くたになって心を炙っている。
「……本当に、私は…もっと、一緒にいたかった…だけ、なんだ……」
 そんなイルマの独白を掻き消すように、蒼馬はゆっくりと身体を動かし始めた。
 器用に、二本の前脚を振り上げると、足ヒレで岩を掴む。まるで壁を駆け上がろうとするような姿勢のまま、起立した男根をイルマの鼻先に押し付けてきた。
「……今度は、私の番だ…とでも言いたいのか、お前は…?」
 魔物の余りに即物的な行動に、イルマは笑みを溢す。
 だからなのだろうか。イルマは、今まで生きてきた中で、一番素直に、自分の想いを、願いを確認する事ができた。

 馬が好きだ―――という偽らざる思い。

 それが愛情なのか、愛欲なのかは、未だに分らない。
 だから、イルマは、まず――目の前の欲望に答えてあげる事にした。
「……仕方のない奴だ。いいか、じっとしてろよ…?」
 イルマは、腕ほどもあろうかという蒼馬の肉棒を、そっと触った。
 凶暴な外見とは異なり、余り硬くはない。寧ろ、しなるような強さがあり、それも植物の蔦を連想させた。
 だが、掌に感じる体温は間違えなく動物のもので、先端から、こんこん、と溢れ出す分泌液のぬるりとした手触りも、それを一層に際立たせる。
「へぇ……不思議なもんだな……お、おい、こら! あんまり動くな!」
 イルマのソフトタッチでは物足りないのだろう。蒼馬は、嘶きを上げながら、身体を揺さぶる。
 その子供染みた仕草に、可愛らしさすら感じたイルマは、その男根を掴んだまま、先端に軽く口付けをした。
「………ちゅ……ん、やっぱり……臭いはキツイな……」
 すっと、鼻粘膜に青臭い牡の香りが付着する。
 だが、不思議と不快感はなかった。寧ろ、咽るような牡馬の淫臭が、イルマの性欲を刺激し、倒錯した気分を強調させてくれる。
「ふふ……私は、本当に可笑しくなってしまったようだな……んんっ、ちゅる…ぺろっ……」
 イルマは、その勢いのまま、魔物の亀頭へと舌を這わせる。
 酷い味わいだった。恥垢はクリームのように濃厚に舌先に絡み付き、饐えた牡の臭いが絶え間なく鼻腔を襲う。
 だが、イルマは、そんな事を意に介さず、積極的に口奉仕を続ける。
「んちゅちゅ…れろっ……ん、ん、んぷっ…ぷはぁ! ……ちゅ、ちゅ…んくっ…ずっずずずず…んふぅ…じゅくっ…」
 唾液を塗した後、こびり付いた恥垢を舌先でこそぎ落とし、カリ首まで口に咥え、丹念に、丹念に啜り上げる。
 まるで、掃除でもするかのような積極的過ぎるイルマの舌。
 限界まで飲み込んでも、三分の一ほどしか口腔に収まらないほどの巨根も、送られてくる快感に耐え切れず、びくり、と痙攣を繰り返す。
「ちゅぷ…ずぞっ……んん、んはぁ! …は、ふふ…そんなに、気持ちいいのか…?」
 唾液と先走りの混ざった液体で、イルマの顔はぐちゃぐちゃになっていた。
 持て余すほどの大きさの肉茎を顔全体で愛撫しながら、イルマは、そっと、その茎の根元へ手を伸ばした。
 ずっしりと重い、二つの袋。
 ここに、こいつの精液が詰まっている―――その事実に倒錯した劣情を覚えたイルマは、身体を倒し、肉袋へとしゃぶり付いた。
「んんちゅ…れろっ…くぷくぷ…んっ、ここも…気持ちいいだろ? …ちゅぷっ…あんっ、私にも分るぞ…もう射精そうなんだな? ここで、お前の精子が…渦巻いているのが分る…」
 まるで、イルマの言葉に答えるように、蒼馬は激しく嘶いた。
 それを射精の予告なのだと察したイルマは、姿勢を正し、先端へのフェラチオを再開した。
「くちゅ……ぷちゅ、んんっ…ちゅば、ちゅば、ちゅ…ちゅっ! ず、ずずずっ!」
 先程とは、比べものにならない速度で、懸命に舌を絡ませるイルマ。
 その一層に激しさを増した口奉仕に、蒼馬は、一瞬にしてその限界を超えた。
「ふぁっぷ、ちゅぷ…!? んっ、んんんっ…! んんんんんっ!!」
 それは、正しく濁流だった。
 熱い奔流が口腔に勢いよく流れ込み、イルマの意識を一気に漂白する。
 その勢いに耐え切れず、すぐさま口から吐き出すが、そんな事お構いなしに、魔獣の剛直は、粘着質の精液をぶちまける。
 時間にして二、三分であっただろうか。
 なすすべなく、その射精を身体中に浴び続けたイルマは、白濁に染まっている。
「……す、すごい……射精しすぎだ…ぞ…おまえ……」
 声が裏返るのが自分でも分った。
 全身に付着したその白濁を掬い取り、掌で遊ばせる。
 例えるなら、生卵。
 その白身の粘り気を更に濃くし、白色に染め上げたかのようなその液体は、それ自体が生きているかのように錯覚させるほど、生々しい。
 ぞくり、と寒気がイルマの身体を襲った。
 ―――これなら、孕む。
 この精子なら、種族の壁など超越して、相手を確実に孕ませる事ができる。
「………………………」
 イルマは、蒼馬の男根に目を向けた。
 今、射精し終えたばかりだと言うのに、その硬さは一向に衰えていない。
 それどころか、次なる行為への期待から、より一層猛っているようにも見える。
「………現金な、奴だな…」
 イルマは、軽く笑みを浮かべ、壁に向かって両手を突く。そしてそのまま、唾液と、愛液に塗れた美尻を魔物の前に差し出した。

「……犯してくれ……もう、後悔なんてしなくていいように……」

 震えるような、か細い声だった。
 きっと目の前の魔物に、イルマの気持ちなど伝わらないだろう。
 相手の目的は、人間の雌を犯し、仔を残す事。
 イルマは、ただ利用されているに過ぎない。
 だからこそ―――それに縋る。
 馬鹿馬鹿しくても、倒錯していても、狂っていてもいい。
 ただ、偽らざる想いを遂げる。
 それが、イルマの下した決断だった。
 馬が、一際大きく、嘶いた。
 それが合図だったのか、蒼馬はイルマの身体に、覆いかぶさるように姿勢を正すと、細長い肉棒を器用に動かし、狙いを定める。
「あ…熱いな…さっきよりも、か……硬くなってるんじゃないか…?」
 皮肉を言うつもりが、渇きで、上手く舌が回らない。
 蛇のような男根が、這い回るたび、身体が硬直してしまう。
「あっ……あっ、そこ……そこだ…んんっ……」
 熱い欲望の塊が、イルマの入り口を軽く叩く。
 お返しに、淫唇が物欲しそうに、亀頭に吸い付く。
 異種族の交わりなど、既に関係がなかった。
 人を犯す、という子孫繁栄の本能に従い、蒼馬は挿入を開始した。
「ふっ……はぁっ、はいっ!……入って…はああああああっ、ああああああああ!」
 淫膣を押し広げるように、魔根が蠢いた。
 細く長い男根が、明らかな質量をもって、牝筒をゆっくりと押し開いていく。
 先程の長舌とは異なる、みっしりとした重さと、熱さが襞の一枚、一枚を捲り上げる。
 まるで、ドロドロの粘土を注ぎ入れられるような感覚。
 イルマの口から、感涙の嬌声が漏れた。
「はぁぁぁぁ…あああああ…っ、んん…あああっ…ふぅ…ああぁぁぁ」
 みっちりと隙間なく、膣穴を埋めていく異形の肉。
 イルマの恥肉は、歓喜に打ち震え、肉棒へと絡みつく。
 二つの肉は、互いに求め合い絡み合い、最深部に到達する頃には、まるで一つの肉と化していた。
「し、信じられない……届いて…るっ、はあああっ…!そこ、一番……深いっ…んんっ」
 歓喜と緊張の入り混じった震えが止まらない。
 これから行われるであろう想像を絶する性行為。
 その未知の恐怖と背徳に、全身が弾けるように痙攣する。
 だが、その感覚も、魔物である蒼馬には、何ら意味を持たない。
 器用に腰を下げると、砲撃を思わせる一撃をイルマの子宮に打ち込んでいく。
「ひぎぃぃぃっ…!!んぁあああっ!」
 一突きで、肺の中身が空になった。
 腰使いに激しさはないものの、大人の腕ほどはあろうかという長物が胎内を蠢く衝撃に、イルマの思考は、閃光と共に砕け散ってしまう。
「あぐぅっ、あぐっ、あぐっ!あひぃっ、あんっ、あぐっうう!!」
 髪を振り乱しながら、悲鳴にも近い嬌声が漏れる。
 熱をもって腰を押し込む魔物と、その動作に踏ん張り続ける少女。
 それはまるで、壊れた玩具を振り回す、童子の姿を思わせる。
「ひぐぅ…あぐっ!も、もう…やめ……てっ!イク……イッちゃうぅ!」
 次第に、輪郭がぼやけていく。
 もう、自分がどうなっているのか分らない。
 剛直が蜜壷を押し潰した瞬間、意識が炸裂し、喜悦のあまり淫液を噴出す。蒼馬はそれを掻き出すように腰を引き、更なる狂喜を怒涛のように打ち込んでいく。
 暴風にも似た蹂躙。

 先に決壊したのは、当然、イルマの方だった。
「んんんぐぅぅ!イ、…ぎぃぃぃっ、うぐああああああああああああああああ!!」
 湿原中に響き渡るような絶頂だった。
 致死量の悦楽が、意識を刈り取っていく衝撃。
 裸のまま、真空に投げ出されたような喪失。
 瞬間、イルマの全身から力が抜けた。薄紅色に火照った身体が、冷たい岩盤の上に崩れるように倒れ込む。
 同時に、彼女を責め突いていた勃起は、ずるずると膣内から抜け出て、ぽっかりと開ききった膣口は、だらしなく白濁に泡立った牝液を垂らしている。
「う…う……あっ、ん……あ…く…うあ、うう……」
 全身を襲う、複雑な感情の渦。
 女としての喜悦を知った充実感、そして、それを人ならざる魔に刻まれたという喪失感。
 イルマは、その相反する感情の狭間で、移ろっている。
 呼吸も、意識も、感情も、乱れて整理がつかない。
 だが、そんなイルマとは対照的に、半ば強制的にオアズケを食らう形となった蒼馬は、未だ興奮状態にあった。
 淫水に塗れ妖しい光沢を放つ剛直を、ぶるん、と震わせると、まるで催促するかのように、それをイルマの身体に数度打ち付ける。
 しかし、それでも反応が得られないと、魔物は自らの前足を使って、器用にイルマの体勢を、うつ伏せから仰向けにひっくり返した。
「……待って、ま…まだ……んっ…身体が……あんっ」
 身体に力が入らない。意識が混濁する。
 そんなイルマの様子にはお構いなし、魔物は亀頭を上手く、秘唇にはめ込み、そのまま一気に肉勃起を突き入れた。
 浮遊するイルマの意識とは裏腹に、散々に嬲られたイルマの媚肉は、喜びに戦慄き、馴染み始めた異形の男根を咥え込む。
「あっ…あっ、んあ……ま、またっ…来たぁ!凄いの……来たっ!!」
 蒼馬は、肉棒を限界まで侵入させると、そのまま自分の身体を圧し掛かるように、イルマの裸体の上へ被せた。
 言うなれば、馬が座り込む仕草。
 大きく違うのは、その腹の下に若い娘を敷いている事。その娘と生殖器を結合させている事位なもので、まるで休息をとっているような格好だった。
「あ……すん、すん……ジャンビーヤ…の、匂いがする……」
 蒼馬の逞しい腹を抱えるような形になったイルマだが、ぎりぎりで調整しているのか、重量は全く感じない。それどころか、鼻先には、懐かしい残り香が漂っている。
 それは、かつての愛馬の匂い。
 その匂いが、幻か、それとも本物の香りなのか。
 そんな事は、イルマにとってどうでもいい事だった。
 この匂いに抱かれているという事実だけが、イルマに刹那の安らぎを与える。

 そう、束の間の―――

「………え?」
 魔馬が、一際大きく嘶いた。
 次の瞬間、肉膣から炸裂するような激震が走った。
「……ひぎいいいいいいいいぃぃぃっ!!」
 それは、文字通り、激震、だった。
 胎内が爆発するような衝撃、そして時間差で押し寄せてくる喜悦の津波。
 イルマは、訳も分らぬまま、壊れた人形のように、震え狂った。
「ひぐああっ!がっ…ああああああぁぁぁっ!?」
 バチン、バチン、と下腹部から音がする。
 それは、膣筒の中で、異形のペニスが、撓り跳ねる音だった。
 先程の交尾の姿勢とは異なり、今の姿勢では腰を引き、突くといった腰使いをする事が出来ない。だが、蒼馬の巨根は、まるで鞭のように、その幹を撓らせる事で、人間とでは有り得ない形の、性行為を行っていた。
「くわぁ、ダメッ…し、死んじゃ…うぅぅっ!!死んじゃうぅぅぅぅっ!!」
 暴れ跳ねる肉竿は、信じられない力強さで、熟れ切った媚肉を捲り上げ、有り得ない速さで、快感を刻み込んでいく。
 脳が沸騰するような悦痛に、イルマは身を捩って逃れようとするが、魔物の巨体に乗られたままではそれも敵わない。
 しかも、この姿勢では、先程のように、イルマが絶頂を迎えたとしても、肉棒が膣内から引き摺りだされる事は、決してない。
 蒼馬が、己が性欲を満足させ、退くしか逃れる方法はない。
 ―――そこで、漸く、イルマはこの姿勢の意味を悟ったのだ。
「はひゃあああああああぁぁぁっ……んんぎいいいいいいぃぃぃっ!!」
 昇りつめ、降りてこない絶頂。
 感じるのは、鈍く、重い、痛々しい程の快楽だけ。
 もう、自分が何をしているのか分らない。
 もう、何が正しいのかも分らない。
 一体、何がしたかったのかも―――
「んあああああああああああああああああああ…ッ!!!」
 魔物の下で、イルマの身体が狂ったように痙攣した。
 子宮が捩れてしまうほど、強烈な絶頂。
 まるで、その動きに合わせるように、蒼馬の身体も大きく震え始めた。
 そして、まるで本物の馬のような嘶きを上げながら、欲望を―――解き放った。
「ひぐうううううううううううううううううッ! んっ…ん、んんんんんっ!!?」
 どく、どくっ…と、砲撃が着弾したような音がした。
 二回目にしてなお勢いを失わない蒼馬の精は、イルマの膣へと怒涛のように流れ込み、その全てを淫らな白色に染め上げた。
 泥塊のような子種が注がれるたび、彼女の身体は飛び跳ねる。
 それは着床、というよりも、寄生。
 容赦なく、暴力的に、胎内で新たな生命を結んでいく。
「あ…あ…あつ…あ、あッ…あつい…あつ…い…ッ」
 魔物に種付けされる、という感覚。
 イルマは、鮮烈にそれを感じ取っていた。
 だが、そこには罪の意識も、後悔の念も存在しない。
 全てが、白濁に攫われていく。
「…あ、んんんっ…おぼ…おぼれ…ちゃう、あ…溺れちゃう…ッ」

 海原が視えた。
 美しき水を湛える蒼い海だ。
 そこに、馬と戯れる少女の姿が見える。
 きっと―――あれは、自分だ。

「………んんっ」
 幻視は、肉棒が胎内から引き抜かれる感覚で、霧散した。
 生命を結ぶ事のなかった大量の精液が、音を立てながら噴出してくる。
 イルマは、そっとお腹を撫でた。
 何故か、愛おしいという想いが込み上げてくる。
 これは、イルマが望んだ結末とは明らかに違っているというのに。
 ジャンビーヤはもういない。
 魔物に犯され、やがてはその母となるだろう自分。
 不思議と―――悲しくはなかった。
「……なぁ、お前」
 呼び方が分らず、結局、ぶっきらぼうに声を掛ける。
 激しい性行為に体力を使ったのか、洞窟の端に横になっていた蒼馬は、イルマの呼び掛けにゆっくりと反応した。
「…一度眠って、もう一度子を作ったら…もう一度だけ、お前の背中に乗せてくれないか…?」
 それは、どんな意図だったのか。
 馬は、静かに一度だけ嘶くと、すぐに瞼を閉じてしまった。
 イルマは、その仕草に微笑みつつ、沈むように眠りに就いた。

 勿論、見る夢は決まっている
 草原を駆ける―――馬と少女の夢だ。

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 歴史書によれば―――
 両国間に発生した戦闘は、数度の軍事衝突を招いたものの、数週間後に和睦、休戦協定が締結されている。
 当然、女騎士と、その愛馬、そして蒼い馬の魔物など、記録には残っていない。
 だが興味深い説話がこの地方には残っている。
 “ケルピィ”―――という魔物についてである。
 曰く、その魔物は蒼い馬のような姿をしていて、北方の大湿原に住むという。
 人を背中に乗せると、そのまま泉に飛び込み、溺れさせるという恐ろしい化け物だが、気に入った人間を見付けると、自らを駆る事を許すという。
 さらに、伝承には続きがあった。
 人を背中に乗せたケルピィは、雨を呼ぶ力を得る。
 三日三晩降り続けた雨は、やがて蒼い海原を作り出すのだという。
 勿論、全ては伝説の中のお話だ。
 イルマと言う女騎士の物語も、残念ながら、確認する事は出来ない。
 何故なら、戦闘の起ったとされる北方の国境地帯は、既にないのである。
 歴史書によれば―――
 戦闘の後、天変地異とも思える大雨が降り続け、国境地帯は、蒼い湖に変わり、そのまま大湿原に飲み込まれてしまったのだそうだ。
 その時―――
 蒼い馬と、それに跨った少女が目撃されたという伝承も―――ここに付記しておく。

【 fin 】


-モドル-

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