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SS:三ノ宮


「リザードマンの恋の事情」」

息子が生まれた。
カイヤンは自分が白い毛並みなので、生まれてくる子も同じだろうと思っていた。
しかし、子供は以外にも普通の毛並み、黄色に黒の文様だった。
ところが、容姿が普通なのに対し、子供の成長は速かった。
妊娠三ヶ月後に腹から出てきたのだ。
乳を飲ませていたハルは、十日もすると授乳を嫌がった。
生まれたときから小さな歯が生えていたのだが、それが尖ってきたのだ。
しばらくすると、小さく切り分けた肉を食べるようになった。
そして一年を過ぎる頃は、息子のウルクは父親と同じくらいの体格になった。

食卓に並んだ大きな肉の塊は息子、ウルクのものだった。
表面を軽く焼いただけで、中身は殆ど生の状態のものを、この若き虎人の青年はぺろりとたいらげた。
その食欲にカイヤンとハルは驚かずにはいられなかった。

「足りなかったら、ほら」
半分ほど皿の上に残っている肉を、ハルは息子の方へと差し出した。
すると、ウルクは何故か、遠慮するような顔で父親の方を見た。
だが、皿が目の前に出されると、一瞬だけ彼女をちらりと見て、肉を口へと放り込んだ。
その様子に父親のカイヤンは自分の若い頃とは大違いだと思った。
我が息子ながら、何故、こんなに肉ばかりを食べるのか。
それにハル、彼女は甘すぎる。
自分より、息子に構ってばかりではないかと思うくらいで、時折嫉妬を覚えずにはいられなかった。


ウルクは何度か、母親の生まれた村に連れて行かれたことがあった。
それは仕事の手伝いだったが、全てが物珍しくて楽しかった。
何故なら自分と同じ獣人も人間も大勢いたのだ。
息子だと紹介されたウルクを皆が驚きの目で見た。
何度か言葉を交わして、顔見知りになると誘ってくる同族の雌、人間の女もいた。

勿論、断ることはしなかった。

ある日のこと、一人の老人が話しかけてきた。
「あんたが、ハルの息子かい」
不思議そうな顔で、父親も虎人なのかいというので、ウルクはそうだと答えた。
「戻って来るとはなあっ、それじゃ、父親は亡くなったのか」
老人はウルクの顔を見上げた。
「ハルに言ってやってくれんか、あの男、まだ、おまえのことをなあ」
そのとき、家の中から老婆が飛び出してきた。
「じいさん、あんた、くだらないこと喋っている暇があれば畑でも行きな」
老人の頭をはたくなり、老婆はウルクを見ると笑った。
「この人のいったことなんか、気にしないでおくれ」
「あの男って」
ウルクの言葉に老婆は思わず顔をぷいと明後日の方向に向けた。
「さっき、ハルがあんたのこと探してたよ、ほらほら」
気になりつつも、老婆の剣幕に押されてウルクはその場を立ち去った。

家の中から必要な仕事道具を持ち出して、荷造りを始めたハルは食事をしたら村を出ようと考えていた。
当分、この村には帰ってこないつもりだと考えていると背後から足音がした。
てっきり、息子だと思った彼女は遊びもほどほどにねと、言うつもりだった。
だが、そこにいたのは息子ではなかった。
全身が緑色の鱗に覆われた直立歩行の大蜥蜴、リザードマンだった。
驚く様子も見せず、彼女は背を向けて荷物の整理に取りかかった。
リザードマンは一瞬、目を細めた。
「元気そうだな」
返事はなかったが、彼は話し続けた。
「オレも最近、こっちに戻ってきたんだ。やっぱり、落ち着くみたいで」
背中に向けて話し続ける声は、まるで彼女の機嫌を伺っているようだった。
「息子が生まれたって聞いたぞ、よかったな」
その言葉に、ピクリと彼女の肩が震えた。
「まだ、小さいんだろ」
「おあいにく様」
ぼそりと低い呟きがリザードマンの耳に聞こえた。
「大きくなったわ。ところで、何の用」
あっちへ行けと言わんばかりの台詞と顔にリザードマンは内心焦った。
「話があるから来た、つまりだ・・・その、オレは色々と考えて、結論を出したんだ、最終的な答えというやつを」
何を言いたいのだろう、この男は?
荷物をまとめた早々に立ち去ろうと、立ち上がったとき、いきなり腕が伸びてきて、彼女の荷物を奪い取った。
「話を真面目に聞いてくれと言ってるんだ」
苛立ちの混じった声だった。

確か、ここら辺だったなと思いつつ、母親が昔住んでいた家の近くまで来たとき、声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声、だが一人ではない。
出ていっていいものかと思い、足音を立てないようにして近づく。
そんなウルクの目に飛び込んできたのは母親のハルが自分と同じくらいの大きい体格のリザードマンと話している姿だった。
気になったのは母親の顔だった。
不機嫌そうな、曇った顔つき。
いきなりリザードマンが彼女の肩に手を伸ばした。
ウルクは慌てた、こんなときは頭で考えるよりも行動が先だった。
二人に近寄ると、ハルの体を自分の方へと抱き寄せ、同時にリザードマンの顔に向かって拳を叩きつけた。
決まったなと思ったが、相手はふらりとよろけただけだった。
おまけに、自分の拳がじんじんとする。
鱗が頑丈なのかと思いつつ、今度は腹の部分に蹴りを入れようとした。
すると、相手も応戦しようと尻尾で地面を叩いた。
虎人とリザードマン、二人を止めるように入ったハルの声など届くはずもなかった。
たが、勝負はあっけなくついた。

ベッドの中で目を覚ましたリザードマンは、そばで自分を見下ろしている女を見ると驚いた顔になった。
起き上がろうとしたが、腹のあたりがずきずきと痛み、助骨にヒビが入っていると聞かされて、そうかと頷いた。
「あれが、おまえの亭主か」
自分に殴りかかってきたときの虎人の顔を思い出し、リザードマンは尋ねた。
すると彼女は首を振り、息子よと答えた。
「・・・でかいな、歳は幾つだ」
もうすぐ一年たつと聞かされてリザードマンは黙り込んだ。
「オレを運んだのも息子か」
「ウルクっていうの、で、痛むの?」
「たいしたことはない」
部屋の中を見回しながら、その息子はどうしたと尋ねた。
「先に帰らせたわ。説明するのも嫌だし」
そういって彼女は出て行こうとする、リザードマンは待ってくれと彼女の腕を掴んだ。
今まで、溜め込んだ感情を暴露するような行為は恥ずかしい、だがこれで進展して変わるならと必死だった。
彼女と別れた後、腹立ち紛れに同族の雌と寝てみても、人間の女としてみても、そのときはいいのだが、いつも後味が悪くて何かが、しっくりとこない。
昔の喧嘩の理由など、今の自分は思い出せないというと彼女も頷いた。
もしかしたら、とても些細な事だったのかもしれない。
「オマエが村に戻って来たときだけでもいい」
言葉につまるが、綺麗事をいうつもりはなかった。
誤魔化したところで、最後は自分もそうしたいと思う自分がいるのは事実だった。
「リゾルド、あなた、変わったわね」
黙り込んだリザードマンに向かって、初めて彼女が名前を呼んだ。

一度だけと真面目な顔で、近づいてくる彼女の行動に彼は、まさかと思った。
以前の自分なら、ただ単純に喜んだかもしれなかった。
だが、これを素直に甘んじて受け入れるわけにはいかないと
突然、彼女の体を引き寄せるように自分の腕に抱き寄せたリザードマンは、ベッドの中に彼女を押し倒した。
自分を見上げる視線に抵抗するように、リゾルドは言葉だけを繰り返した。

ところが、彼女の方はというと相手とは正反対の心情だった。
押さえつけられている圧迫感、服を着ていてさえ伝わってくる鱗の感触。
昔の彼なら何も言わずに抱いたはずだと思った。
これでは自分の方が、体どころか、顔まで熱くなってしまいそうだった。
すると、何かを察したように、リゾルドは、ほんの少し体重をかけた。
少し、ほんの少し、体を動かすだけで彼女の反応が伝わってきた。
昔とは随分と変わったものだと思った。
感情がわずかに高まり、口から出たのは、やっかみにも似た言葉だった。
一緒になった虎人とは毎晩やっているんだろう。
途端に下腹部に激しい痛みが走った、蹴られたのだ。
続いて怒声が響く。
妊娠して、子育てにと色々忙しくて、疲れて、男みたいに暇じゃなかったと。
その様子にリゾルドは、あっけにとられたというより拍子抜けした。
反対に彼女の方は声も沈んだものになった。
「そんな顔をするな」
黙ってしまった彼女の体を抱きしめ、リゾルドは大きく息をつき、声をかけた。
「悪かった」


爬虫類であるリザードマンの生殖器は二股に別れている。
普段は体内に隠れている、二つの肉棒、今はわずかに飛び出ていた。
その先端を眺めながら、本当は挿入すればよかったと一人になった今、彼は、改めて
そう思った。
あのとき、彼女を抱きしめた後、そのままなだれこむようにしてしまえばよかったのだ。
だが、そうはならなかった。
下半身の肉棒よりも、滑らかに流暢に動いたのは自分の舌だった。
首筋を、耳たぶを、瞼を嘗め、息苦しさに開いた唇の中に舌を入れ。
ゆっくりとかき回し、苦しそうな彼女の呼吸に舌を抜くと、また繰り返した。
まるで、舌が欲望の分身のようだった。
とうとう我慢ができず、服を脱がせようとしたが、視線で拒まれた。
そんな目をするなと思いつつ、両手を胸の膨らみにのせて揉み始めた。
服の上からだというのに、あまりにも正直な反応、だが長くは続かなかった
突然、彼女は体をのけぞらせ、声を漏らした。
それは絶頂に達したことを意味していた。

頭の中も体もぐったりとしていた。
裸になって、セックスして絶頂に達するよりも恥ずかしかった。
まるで、地に足が着いていないような気分だった。
今から家へ帰るのは無理だった、今夜は昔の自分の家に泊まろう。
そして明日の朝、夫と息子の待つ家に。
別れ際のリゾルドの抱擁と言葉が頭をよぎったが、今は何も考えずに眠りたかった。

以前、住んでいた自分の家、部屋に入ると倒れ込むようにベッドに倒れ込んだ。
ところが、シーツの感触のかわりに男の声が聞こえ、ハルは驚いた。
「ウルク、あんた、帰ったんじゃなかったの」
息子の顔を驚いて見下ろしながら彼女は、ふと顔をそらした。
「あいつ、何かしたのか」
「リゾルドの事、何もないわよ。それより、ここは私のベッドなんだけど」
「一つしかないからな、この家、だったら一緒に寝よう」
そういって若い虎人は、母親を抱きしめるとごろりとベッドに倒れ込んだ。
「ちょっと、重いでしょ」
「甘えたいんだよ」
体を包み込むようなぬくもりと毛の感触に、彼女は少しだけほっとした。
そして眠りに落ちたが、目を覚ましたのは翌日の夕方だった。


                           終わり

 


-モドル-

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