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SS:霜月





「今頃お父様はどうしているのかしら…」
冷たく薄暗い洞窟の壁にもたれ、天井を見上げながら娘はポツリと言った。
しかし応える者は居ない。
人ならぬ獣が一匹、彼女のそばで寝息をたてているが、人語を解するとも思えなかった。
両親が自分のことを探して狂奔していることは想像に難くない。
だがまさかこんな場所にいるとは知る由もないだろう。

楽しみにしていた春祭り…
その最中に見知らぬ男たちに攫われ、更にこの目の前の獣に拉致された。
そしてその獣には昨日の晩から既に何度となく犯されてしまった。
あまりの出来事に哀しくて泣きたいのに、既に泣く気力も残っていなかった。
疲れすぎて逆に眠ることも出来ず、意味もなく一人でつぶやき続ける。
さもないとここはあまりに静かで、その静寂に押し潰されてしまいそうだったからだ。

「お腹が空いたな…」
娘は昨日から丸一日、何も食べていなかった。
彼女は生まれてこの方食べ物に不自由したことがなく、空腹感は耐え難かった。
しかし獣が投げて寄越した「食べ物」は食欲よりも恐怖感を誘うものでしかなかった。
血まみれの馬肉の塊から目を背けると、娘はふらつきながら立ち上がり外へと向う。
念の為ちらりと獣へ視線を向けると、大きな耳が動くものの目覚める様子はなかった。

洞窟のすぐそばには小川が流れていた。
深さは足首ほどしかないが、冷たい雪解け水がさらさらと流れ、火照った足先に気持ちよかった。
彼女はその澄んだ水を手で何度も何度もすくって飲んだ。
そして喉を潤し、顔を洗うと少しだけ元気が出てきた。

「そうだわ…この川に沿って歩けば、森を出られるかもしれない」
そう思った娘は小川の脇を歩いて下って行った。
転がる小石に足を取られがちだったが、藪の中の獣道を掻き分けて歩くよりはずっと楽であった。
痛む足を引き摺り、何度か途中で休みながらも彼女は歩き続けた。
しかし歩けど歩けど森は限りなく広がっているように思えた。
それでも半日近く歩いた頃だろうか、やっと前方が明るく開けてきた。

「もうすぐ…もうすぐ出られるわ」
自分を叱咤し、彼女は前に進んだ。
そしてこれで森が途切れるかと思われたが、途切れたのは川の方だった。
そこは滝であった。

身の丈の10倍はあろうかという落差を、飛沫を撒き散らしながら水は流れ落ちている。
右を向いても左を向いても同じ高さの断崖絶壁が続いていた。
つたって降りようにも足場はない。
ましてや飛び降りることなど出来ようはずもない。
更に眼下に広がるのは相変わらず見渡す限りの深い森。
遥か彼方に海が見えたが彼女の足では決して辿り着けはしないだろう。
それをみて彼女の心は挫けた。

疲労に負けて川岸にしゃがみこむと、思い出したように腹がころころと鳴る。
ここに居ても助けが来るはずもないが、もうこれ以上歩けなかった。
このままでは野垂れ死ぬのは目に見えていたが、彼女にはもうどうしてよいか分からなかった。
涼しい風が髪をなぶると、川面を見つめる瞳が涙に滲んだ。


しばらくたって風向きが変わると、どこからか甘酸っぱく芳しい果物の匂いが流れてきた。
現金なもので、動けなくなったはずの足が自然と動き出す。
その匂いに誘われるままに彼女は立ち上がると、ふらふらと風上に歩いていった。
そして程なく、林檎ほどの大きさの果物をたわわに実らせた大きな樹が1本見つかった。
枝から垂れ下がる蔓の先に、薄紫に染まったその実がいくつとなく揺れていた。

この春先にこんな果物が実るとは到底ありうることではなかった。
しかし彼女はなんの疑いも持たずにそれに手を伸ばした。
そして指先が触れる直前、いきなりその実が二つに割れた。
…と、同時に熟しすぎた果物の甘ったるい匂いが周囲に立ち込める。
その匂いを嗅いだ瞬間、彼女は意識を失った。


目を覚ますと、彼女は樹の根方に座っていた。
両手は頭上に縛り上げられ、身体も幹に縛られて動けなくなっている。
それにもかかわらず周囲に人の気配はない。
誰がこんなことをしたのか不思議に思っていると、身体を締める縄が少しきつくなった。
見るとその縄は自らうねうねと動いて、彼女が身動きできないように縛りあげているのだった。
それは縄ではなく魔物の触手だった。

彼女の口から絹を裂くような悲鳴があがるが、それはすぐに止んだ。
1本の触手が、彼女の口が開くその瞬間を狙っていたかのように、素早く飛び込んだからだ。
彼女は必死で吐き出そうとするのだが、それは少しずつ奥へと入り込んでいった。
思い切って噛み切ろうともしたが、その硬くしなやかな触手には歯が立たなかった。

やがてそれは彼女の喉をもぞもぞと内側からくすぐりだした。
その喉の奥で動く感触に彼女は吐き気を覚え、空っぽの胃袋から胃液がもどる。
酸っぱい液体は彼女の喉を焼き、涙がとめどもなくこぼれた。
それでも彼女は力の限り歯を食いしばるのだが、粘液でぬめる触手はじわじわと確実に侵入し続けた。

やがて彼女は溢れる涙の為に、鼻で息が出来なくなってしまった。
我慢できなくなり、喘ぎながら口を開けると触手は一気に胃の中にまで侵入した。
そして居場所を見つけた触手は腹の中で元気に跳ね回るのだった。

不意に触手の分泌する泥臭くて苦かったぬめりが、少し甘くなったように彼女は感じだした。
それだけではなく喉の痛みが和らぎ、胃の中に感じる違和感が薄らいでいった。
むしろそのくすぐったさが心地よいとまで感じるようになった。
弛緩した顎が落ち、視線が宙を泳ぎ出す。
だらしなく開いた口元からは涎がだらだらと垂れ始めた。


すでに彼女の身体には何本もの触手が絡み付いていた。
両腕は高く吊り上げられ、血の気を失い青白くなっている。
そしてただでさえ細い腰は更にくびられ、縛り上げられた乳房はやや紫色に鬱血している。

縛られることで強調されたふくらみを、新たな触手がぐにぐにと揉みしだき始めた。
はちきれんばかりの乳房がいびつな形に押しつぶされる。
しかし何度責められようとも、乳房は弾けるように元の形にもどった。
だがそれが気に食わないのか、触手は執拗になぶり続ける。
そしてその触手が這い回った後には、緑がかった生臭い粘液が残されていった。

一回り細い触手の群れも更に参戦した。
小指程の太さの触手の先端は吸盤のようになっており、彼女の身体中に無数の接吻を繰り返す。
そのうちの2本が彼女の乳首に吸い付くと細かく震えだした。
そして乳首を咥えたまま限界まで引っ張りながら、微妙な振動を送り続けるのだった。
すると彼女の口から艶混じりの声が漏れ始めた。


意外なことに彼女は感じていた。
おぞましい触手の群れに蹂躙されているにも関わらず、彼女は快楽を感じていた。
痛みが麻痺し、それでいて触覚は残っている。
いやむしろその分だけ敏感になっていた。
触手が塗りつける粘液が触れた場所は、全てが性感帯へと変じていた。
身体全体が火照り、頭の中が軽くなる。

相変わらず空腹だが、それが他人事のように気にもならない。
いや、自分の生死ですらどうでもよくなっていた。
悲しみも苦しみもどこかへ消え去り、かりそめの至福感が彼女を充たした。

膝に絡んだ触手が彼女の脚を開く。
あらわになった彼女の陰唇は、獣の辱めを受けた時から無残にも赤く腫れ上がったままだった。
小蛇のような触手が数本がかりで二枚の花びらをつまむと、奥から引き出して大きく開く。
先程までここは触れるだけでも痛いはずであったが、彼女がこれに痛がる様子は全くなかった。

柔らかな茂みに囲まれて艶やかに咲き誇る花びらの頂上には、小さなめしべが膨らんでいた。
触手の一本がめしべに吸い付くと、釣り上げられた魚のようにその身をくねらせる。
やがて花びらがしっとりと潤むと、香り立つ蜜がとろとろと流れだした。
それを確認するように太目の触手が中に入り込んで内部をまさぐり始めると、彼女は無意識にこれを締め付けた。
しかし滑る粘液が塗りこまれると、そこも完全に脱力してしまった。

そして準備が整った。
触手は彼女の秘部から抜け出すと、新たな触手にうやうやしく場所を譲った。
最も太く短いその触手は普段の状態ならば到底彼女の中に入り込めはしない太さであった。
彼女が十分に濡れ、筋肉が弛緩し切った今だからこそ入るシロモノであった。
それが蚯蚓のように蠕動運動をしながら入り込んでいく。
その間も彼女はいびつな微笑を浮かべたまま身じろぎもしなかった。

触手は彼女の中でしばらくのたくっていたが、奥にこりこりと硬い部分を見つけるとそこを攻撃し始めた。
それは強引に子宮口に入り込もうとしているのであった。
わずかな隙間に頭を差し込むと、弛緩しているのをいいことに入り口を無理やり押し拡げる。
そしてその聖地に潜り込むと同時に、その触手の中を通って彼女に向けて押し出されてくるものがあった。

それはひとつの種であった。
扁桃程の大きさの種を彼女の子宮に植え付け、生きた苗床にする。
それこそがこの触手達の目的であった。
しかし彼女は身に迫った危険に気づかず、呆けたままだった。
涎の泡を吹きながら白目を剥き、快楽の海に溺れていた。
彼女の周囲では嬉しくてたまらないとでも言うように、まとわりついた触手の群れがさわさわと揺れる。

種がゆっくりと触手内部を這い登り、膣を抜け、子宮口へと辿り着いた。
そしてついに中に吐き出されようとした。
…がその瞬間、触手ごと引き抜かれた。

太い指につかまれて、緑の大蚯蚓が暴れる。
その先端から大切な種がポトリと地面に落ちてしまった。
だがこうなると、もはや娘に植えつけるすべはない。
その落ちた種を踏み潰し、ニヤリと笑うものがいた。
それはあの獣だった。


突然の闖入者に対し大量の果実が一斉に弾け、ねっとりとした芳香を放つ。
それは並みの生物なら一息で昏倒する代物だった。
更に無数の触手が飛びつき、獣を絡め捕ろうとする。
しかし獣は慣れたもので、掴んだ触手を地面から引き抜くと、爪で根元から断ち切った。
…無言の絶叫が周囲に走った…

蠢く触手の群れがみるみる萎びていく。
獣は自分に絡んだ触手を無造作に引きちぎると、彼女の戒めを爪で切り裂いていった。
そしてあらかた取り除いた頃、風が匂いを吹き散らした事を確かめてから深々と息をした。
彼女にとって恐るべき魔物も、獣にとってはただの雑草も同然だったらしい。
いや、この程度で苦労するなら、今まで彼は生きてこれなかっただろう。
ここはそういう場所…異形の棲まう魔の森なのだから…。

探していた玩具を見つけた獣は、嬉しそうにそれを拾い上げるとねぐらへと戻っていった。

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耳元で聞こえる咀嚼音に彼女はぼんやりと目を覚ました。
ふかふかとした柔らかいものがしっかりと彼女を包んでいる。
白濁した意識の中で、そのぬくもりが心地よかった。
いつまでもこのまま微睡んでいたかった。

そこへいきなり口の中に何か柔らかいものを入れられ、彼女は反射的に飲み込んだ。
そしてそれが腹の中に納まると、胃が音をたてて急激に動き出した。
すかさずもう少しだけ、そのぐちゃぐちゃとしたものが口に入れられる。
ほのかに甘く、塩味を含んだそれを彼女は喉を鳴らして飲み込んだ。

空腹は最高の調味料である。
それは今まで食べてきたどんなに手の込んだ料理よりおいしいと彼女は感じた。
至高の美味は彼女が口を開くたびに、少しずつ少しずつつぎ足される。
そうやって自分を世話してくれるものの姿を見ようと、彼女は薄目を開けた。
半ば予想していた通り、やはりあの獣だった。
あの獣が肉の塊を食い千切り、それをよく噛み砕いてから彼女に口移しで与えていたのだった。

眠っていた飢餓感が目を覚まし彼女を苛む。
その空腹のあまりに彼女は目前の恐怖を忘れた。
しっとりと唾液を含み、温かく柔らかくなった肉の欠片は食べやすかった。
彼女は初めはゆっくりと…やがては貪るように食べ始めた。
獣が次の肉の塊を噛み砕く間すらも彼女は待ち切れない様子だった。
そして短いヒゲがちくちくする口に自ら唇を寄せ、仔犬のように餌をねだるのだった。

こぶし程の大きさの肉塊が消えた頃、満腹とはいかないまでも空腹感は薄らいだ。
再び強い眠気に誘われ、彼女は目を閉じて身体を丸めた。
その口元から垂れる涎を獣が舐め取る。
そして長く温かな舌は彼女の全身を清めるべく、休むことなく動き続けた。
毛深く力強い腕に身を委ねて、彼女は深い眠りに落ちた。

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それから10日ほどが過ぎた。
もう身体の痺れもほとんど残ってはいない。
もっとも始めの2、3日は歩くこともできず、食事も水も口移しで、用を足すのにも苦労をした。
唯一の救いは夜毎に求められる獣への奉仕が、さほど苦痛を感じずに済んだこと位だろうか。
それはさすがに心地良いとは感じないものの、今では痛みを我慢できる程度には慣れてしまった。
ついでにいえば生肉を食べることにも、もう抵抗は感じなくなっていた。

それが怖くて彼女は1日も早く帰りの道を探そうと思っていた。
この状況に馴染んでしまうのが怖かったのだ。
今回は数日分の食料も用意した。
干からびた馬の骨に熊の爪という武器も洞窟で拾った。

今度は慎重に行くつもりだった。
ここが魔の森だとすると、領主である父の館からは西の方角にあたる。
だから東…日が昇る方角に向かえば館へは帰れるはずであった。
準備を整えた彼女は、昇る朝日に向かって歩き出したが、途中で振り向いて洞窟を見た。

すると先程寝付いたばかりの獣が、入り口で長々と横になっているのが目に入った。
どうやら邪魔される心配はなさそうだった。
彼女はひとつ大きく深呼吸をすると、再びきびすを返した。
そしてしっかりとした足取りで歩き出した。
その後ろ姿は数日前とは比べられないほど逞しくなっていた。


獣は出て行く彼女に気づいていないのか、目覚める様子はない。
ただ大きな耳だけが、彼女の後を追うように楽しげに動き続けていた。


【 fin 】


-モドル-

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