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SS:霜月





暗い闇夜の中にいくつも浮かび上がる柔らかな灯り。
そのひとつひとつがヒトの暮らしを示している。
彼女はこの磯に座り、遠くからその灯りを眺めるのが好きだった。
月の光や星の瞬きも好きだったが、それらはあまりにも冷たすぎる。
決して触れることができないと知りつつも、彼女は暖かな灯りに憧れていた。

白魚のような指が髪をかき上げ、腰まで垂れた濡れ髪を束ねなおす。
すると形の良い乳房が突き出され、惜しげもなく夜風に晒された。
滑らかな鱗に覆われた下半身はさざなみを受けてきらめき、優美な尾ビレが華のように広がる。
彼女はヒトから人魚と呼ばれる存在であった。
寄せては反す波音を聞きながら、ちろちろと揺れる灯りを静かに見遣る。

そこにいきなり海面を破り、黒い人影が水から出てきた。
蛙のように大きく裂けた口が、もがく魚をバリバリと齧っている。
硬い鱗が全身をよろい、刃物のように鋭いヒレが要所要所に生えていた。
それはある意味で彼女とは対極にある生き物、半魚人であった。
その半魚人が振り向くと、瞼のない目玉がぎろりと光った。
慌てて彼女は水に飛び込むが、その音で半魚人も彼女に気がついた。
そしてその恐ろしい生き物は彼女の後を追いかけてきた。

半魚人に捕まった人魚はどこかへと連れ去られ、二度と戻ってくることはないという。
実際彼女の友人が2年前に捕まったが、その友人の行方はそれ以来わからない。
武器を持たない彼女たちは、半魚人に出遭ったらとにかく逃げるしかないのだった。
幸い彼女たち人魚の方が泳ぐ速さには分があった。

泳ぎにくい浅瀬を抜け、思う存分泳げる深みに入ると彼女はほっとした。
ただまっすぐに泳ぐだけなら、半魚人に追いつかれる心配はない。
そう思った矢先に身体に絡みつくものがあった。
人間が仕掛けた網だった。
勿論普段ならこんな網から逃げることなど造作もない。
しかし今この時にあっては、それは致命的な遅れとなった。

絡まった網を振りほどいた途端に半魚人が彼女を掴む。
その力強い四肢が彼女をしっかりと抱え込み、太い右腕は彼女の首に喰い込んだ。
彼女は何とか逃れようともがくが、万力のような腕は少しも緩まない。
そして首を絞められ続けるうちに彼女の顔は赤黒くそまり、ついには力尽きて意識を失った。


絶壁の海岸線に出来た深い洞窟の奥に、新鮮な水を湛えた浅瀬があった。
直接外へは出れないものの、どうやら隙間から海水が流れ込んでいるようだった。
その浅瀬の真ん中に人魚の娘は横たわっていた。
どうやらここまで引き摺られて来たらしく、その全身には擦り傷が出来ていた。

身体中がヒリヒリと痛み、その痛みで彼女は目を覚ます。
特に痛むのは下半身の魚体の先、ヒレの根元であった。
そしてゆっくりと目を開けた彼女は、恐ろしい光景を目にする事になる。
何とあの半魚人が彼女のヒレを食べていたのであった。
彼女の自慢だった尾びれは既にズタズタに引き裂かれ、魔物の口からその一部がはみ出ていた。

悲鳴を上げる彼女は、何とか逃げようとしたが、潜ることも出来ない浅瀬では這い回るしかない。
すぐに半魚人に捕まって引き寄せられた。
半魚人は彼女のヒレを食い千切ると、まるで海草か何かのようにむしゃむしゃと食べ続ける。
彼女は死に物狂いで叩いたものの、その硬い鱗に覆われた魔物を叩くこぶしの方が痛い。
ヒレを守ろうとする彼女の悲痛な努力もむなしく、ついには根元までキレイに食べ尽くされてしまった。

爪や髪と同じく、ヒレもやがて伸びては来るが、元に戻るには何年も掛かる。
これでは当分の間、まともに泳ぐことすらできないだろう。
ぽろぽろと涙を流す彼女に、魔物はおくびで応えた。

ヒレのなくなった無残な魚体の上に、半魚人はどっかりと座り込む。
彼女は暴れるが、魔物の身体を跳ね除けるには至らなかった。
娘の両腕を水かきのついた異様に大きな手の平が押さえ込み、蛙のような口が開くと彼女の片方の乳房をぱっくりと咥え込んだ。
流石にヒレのように噛み千切りはしないものの、短く鋭い歯が肌に食い込み、口の中では骨のように硬い舌が乳首を削った。
その痛みに暴れる魚体を、がに股の両足がしっかりと抱えて逃がそうとはしなかった。


彼女の下腹部には一筋の亀裂があった。
彼女の生殖口とそのすぐ下の排泄口である。
普段は目立たないその場所が、半魚人の股間に擦られるうちにうっすらと充血してきた。
そしてあまりにきつい締め付けに、中に隠れていた肉の花弁が押し出されるように顔を覗かせる。

一方の魔物の排泄口の脇には左右の腹ビレと共に、一対の丈夫な竿状の物がぶら下がっていた。
それは魔物の交尾器であった。
その硬い交尾器をざりざりと花弁に擦りつけながら場所を確かめると、片方を彼女の生殖口に差し込む。
濡れてない膣の摩擦をものともせずに、更に奥にある子宮の中にまで一気に押し込んだ。
すると交尾器から軟骨でできた突起が飛び出て、いくら暴れても抜けないようになった。
魔物は粘り気のない精液をいきなり子宮に注ぎこむと、かくかくと交尾器を動かし始めた。

魔物の腰が縦横無尽に動き回り、それに合わせて交尾器の先端が子宮に精液を擦り込む。
そして突起が内壁を掻き毟る痛みに、彼女は狂ったように跳ね回った。
魔物がやっと交尾器を引き抜いた頃には、暴れ疲れた娘はぐったりと動かなくなっていた。
しかし魔物は心配するでもなく、まるでもう興味を失ったかのように彼女はそのまま放っておかれた。


こうして彼女は魔物の虜囚となった。
朝晩2回の食餌を与えられるが、その前に必ず魔物は彼女を犯した。
だが排卵期でない以上、いくら子種を注ごうと子供が出来るとは思えない。
かといって、行為の最中に魔物が快楽を感じているようにも見えなかった。
その為何を考えて魔物がそういう行動を取っているのかが、彼女にはさっぱり分からなかった。
もっとも瞬きもしない魔物の目には、感情らしきものが浮かぶことは一度としてなかった。
魔物の見た目も恐ろしいが、彼女には窺うことのできないその異質な思考の方がはるかに怖ろしかった。

もちろん娘は何度も魔物から逃げ出そうとはした。
だが浅瀬から上がり、洞窟を這って進むのは彼女にとって容易ではない。
それでも一度などは半魚人が餌を取りに出た隙を狙って洞窟から逃げ出せたのだが、ヒレがないので上手く泳げない。
すぐに見つかって捕まり、再び洞窟の奥に引き摺り戻されてしまった。
結果として鱗が剥げ落ち、痣の数を増やすだけに終わった。

飼われ始めて数日たつと、彼女は体調の変化を感じた。
下腹部に鈍い痛みが続いてどこか熱っぽく、常に乳房が張るような感じがしだしたのだ。
それは彼女が排卵期に入る前兆だった。
彼女は知らないことではあったが、魔物が彼女の子宮に塗りたくる精液には、捕まえたメスの排卵を促す作用があったのだった。

そして一週間後には、彼女は下腹部の痛みの為に眠ることができなくなってしまった。
それは彼女の左右の卵巣が排卵し、その卵が子宮へ向かって卵管を降りて行く為の痛みであった。
幸い夜明けには痛みが治まったのだが、本当の苦しみはそれからであった。

その翌朝、やはり食餌前に半魚人は彼女と交尾を始めたが、彼女の変化に魔物も気づいたようだった。
そして子宮の中に精液を注ぎこむと、卵にムラなくかかるように何度も何度もかき回す。
ここまではさほど変わらないが、いつもと違ってこれ1回で終わりとはならなかった。
交尾器を抜き取るとすぐにもう1本の交尾器を彼女に差込み、再び交尾を再開する。
しかも魔物は先程よりも激しく彼女の内臓をかき回した。
それが終わったと思うと、また逆の交尾器を使って彼女を犯す。
魔物はただ機械的に生殖行為を続け、途中で彼女が泡をふいて失神してもその腰が止まることはなかった。


翌日から彼女は身体が痺れてほとんど動けなくなった。
意識がぼやけてしまい、そもそも動こうという気も起きなかった。
ただ口の中に押し込まれる餌を咀嚼し飲み込むだけの毎日が続く。
半魚人はしばしば彼女の生殖口をまさぐって様子を確かめ、成長を促すかのように彼女の胸を揉みしだいた。
だが熱に浮かされた彼女は、その最中も眠り続けたままだった。

そして半月程がたった頃、彼女の中のものが激しく暴れだした。
出産の時がきたのだった。
だが彼女自身は「いきむ」ということもできなくなっていた。
そこで半魚人が彼女の腹を踏みつけて、無理矢理に押し出した。
すると身体をくねらせながら魔物の幼生が彼女の生殖口から這い出した。

生まれたばかりの幼生は自力で彼女の身体をよじ登ると、張り詰めた彼女の胸に吸い付く。
そして後を追うようにしてもう一匹が這い出すと、やはりもう片方の胸に吸い付いた。
小さな手足で乳房にしがみつき、棘のように細かな歯を立てて母乳を啜り上げる。
一方の彼女は自らの子供を抱き上げるでもなく、浅瀬でぐったりと横たわってなすがままになっていた。


娘は食欲もだんだんなくなり、日に日に体力を奪われていった。
逆に魔物の幼生は、彼女の乳を吸いながらぐんぐんと成長し、一週間もたつと自分で浅瀬の小魚を取れるようになった。
そうなるともう乳の出の悪くなった娘の方には見向きもしない。
どうやら彼らにとって、彼女はただの栄養源であったらしい。
使えるだけ使われ、搾れるだけ搾り尽くされた娘はまるでボロキレのようになっていた。

その晩魔物は動かなくなった彼女を引き摺って、もはや用済みとばかりに洞窟の外に投げ捨てた。
すると渦巻く潮の流れに乗って、流木のように彼女の身体は流されていく。
冷たい月の光が傷だらけの裸身を照らすが、気にとめるものなど誰もいなかった。

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小さな島に建つ網小屋に一人の青年が住んでいた。
もっとも対岸の集落へは舟で毎日魚を売りに行っているし、彼なら泳いででも渡れた。
ただ漁の季節は夜中に舟を出すよりも、いっそのことここに泊まった方が楽なのでそうしていたのだった。

今日も夜明けと共に舟を出し、網を引き上げる。
潮の流れが変わる前に作業を終えないとならない為に、彼はいつものようにせわしなく網を引き上げた。
その日の網はやけに重たく、彼は大漁を期待した。
毎日の作業で鍛えられた筋肉がうねり、日に焼けた半裸の身体に玉の汗が浮かぶ。
そして引き上げた網から多くの魚とともに、娘の上半身がごとりとこぼれ落ちた。

「うわぁっ!!」
青年はそれを見て心臓が止まる程驚いた。
「…ドザエモンだがね… …って生きてるだか?」
彼は始め、てっきりその娘を水死体だと思った。
だがわずかにその瞼が震えたのに気づくと、彼は急いでその冷え切った唇に息を吹き込んだ。
すると応えるように娘の口からもかぼそい息が返って来る。

それに安心した青年は腰を下ろすと、気が抜けたように自然と笑みがこぼれる。
決して美男子とは言えないが、その笑顔は彼の朴訥とした性格を表していた。
そして青年は眠り続ける娘の横顔を見つめながら、彼女の素性に思いを馳せた。
何しろこの近くの集落には彼女のように年頃の娘はいない。
ひなびた漁村だけに皆次々に大きな村へと出て行き、もはやむさ苦しい男たちしか残っていないのだった。
青年が不思議に思いながら娘に被さった網をめくると、魚の下半身が目に入った。
噂にしか聞いた事がない人魚を目の当たりにして、彼は驚きのあまり絶句した。

「…これって…人魚…だか?」
青年は改めて彼女の全身をながめた。
真っ白な上半身は痣と擦り傷に覆われ、虹色に輝いていたであろう下半身は鱗があちこち剥げていた。
そしてヒレに至っては無残にも根元から引きちぎれている。
しかし彼はそんな彼女を美しいと感じた。
穢されて傷つき、息も絶え絶えになった娘の中に、切なくなる程に悲愴な美しさを感じたのだった。

彼が十数年ぶりに見る女性の乳房には、歯形のような痛々しい傷がいくつもついていた。
おそるおそる手を伸ばすと、忘れかけた懐かしい柔らかさが返ってくる。
穏やかに呼吸を始めたふくよかな唇に血色が戻ると、その薄紅色に魅入られたように彼はもう一度だけ口接けをした。
すると呻くような声と共に娘の瞼が震え、動揺した青年は飛びすさる。
しかしそんな青年の慌てぶりとは裏腹に、娘は目を覚ましはしなかった。

その時、足元の娘を見下ろしていた青年は、己の下半身の変化に気がついた。
褌の中がかなり勇ましい状態になり、今にも飛び出てきそうになっている。
青年は恥ずかしさに顔を赤らめ、娘に背を向けると褌を締めなおした。
そして漁を中断すると舟を網小屋に向けた。
とにかく何としてでもこの娘を助けてあげたいと思ったからだ。


そして彼女は暖かな灯火を手に入れることになる。





【 fin 】


-モドル-

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