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SS:霜月


娘は川底の石をはぐると、そこにじっとしている小魚を捕まえた。
手の平くらいの大きさではあまり食べるところもないが、集まればそれなりの量になる。
彼女の腰にはウサギの皮を木の蔓で綴じて作った袋が提がっており、中にはすでに20匹程の小魚が跳ねていた。
生まれて初めて作った道具は、見た目が悪いがそれなりに役に立っているようだった。

娘が獣と暮らすようになって、一月以上が過ぎていた。
その間にすでに8回もこの森から脱出しようと試みてはいる。
しかし毎回どこかで恐ろしい魔物に出遭ったり、迷子になって動けなくなってしまった。
そして彼女が危険な状態になるとどこからともなく獣が現れ、ねぐらの洞窟へと連れ戻されるのであった。

やはり森を知らない者には森を自由に歩くことはできないのであろう。
それでも彼女は両親の待つ館へ帰りたかった。
そこで洞窟の周囲で食べ物を集めながら、少しずつ地理を憶えることにした。
まずは手始めに目印になる小川に沿って動くことにした。
多少は川から離れることがあっても、耳を澄ませばせせらぎの音が洞窟への道を教えてくれる。
迷うことはないだろう。

今日は朝早くから、娘は小魚を捕りながら探索を続けた。
魚を獲るのに夢中になっていて、気がつくとかなり洞窟から離れてしまっていた。
少し疲れた娘は川の水を一口飲むと、日なたの岩の上に座って休んだ。
水は相変わらず冷たかったが、木漏れ日はかなり暖かい。
ぽかぽかとした岩肌が冷えた手の平に心地良かった。

その時、遠くに人の声が聞こえた。
あまりに久しぶりなので、空耳ではないかと疑いながら耳を澄ませる。
「…そっちに…」
「…回り込め…」
間違いなく人の話し声だった。

娘は迷うことなくその声がする方向へと駆け出した。
「…よし、捕まえたぞ…」
人の話し声と、何か動物の鳴き声が段々と大きくはっきりと聞こえ出した。
大きな茂みを抜けると、そこには一ヶ月ぶりに見る人の姿があった。
娘は声を掛けようと大きく口を開けたところで、凍りついたように動きを止めた。


そこには二人の男と獣の声で泣き叫ぶ一人の少女がいた。
男たちは藪を歩くのに適した服装をしており、どうやら森に慣れているようだった。
一方の少女は全裸に荒縄で後ろ手に縛られており、口には布で猿ぐつわを噛まされていた。
しかもよく見ると少女の頭には猫のような大きな耳がピンと立っており、尻から生えたしなやかな尻尾を怒りに膨らませていた。

「これならいい値段が付きそうだぞ」
少女の胸の揉みながら片方の男がつぶやく。
「初物じゃないようだから、売る前に楽しませてもらうかな」
股間を調べていたもう一人がいやらしい笑みを浮かべた。

その様子をみて動けなくなった娘は、二人に気づかれないようにじりじりと後ずさりを始めた。
しかし耳元でいきなり声がした。
「子猫ちゃんがもう一匹いたか…」
振り向こうとする娘の後頭部に衝撃が走り、そのまま彼女は意識を失った。

目を覚ますと娘は檻の中にいた。
両手両足を縛られ、口には猿ぐつわをされている。
彼女が入った木製の檻とその隣の小屋はちょっとした崖にへばりつくように建っていた。
小屋の薄く開いた小窓からは、灯りと悲鳴、そして男たちのだみ声が漏れてきた。

「…お、こいつ凄い締め付けだぞ…」
「…おらおら、もっといい声で啼きやがれ…」
娘にも中で何が行われているのかは分かった。
おそらくあの少女が男たちの慰み物になっているのだろう。
その時、突然大きな声が響いた。
「…イテェっ!こいつ噛みやがった…」
「…この野郎、調子に乗りやがって…」
すぐに怒声とともに、殴りつける鈍い音が聞こえる。

しばらくたった後、小屋の中から男たちが何かをずるずると引きずって出てきた。
そして、檻を開けるとまるでゴミか何かのように、それを中に放り込んだ。
やはりあの猫のような少女だった。
可愛らしい顔は無残にも腫れ上がり、天鵞絨のような産毛に覆われた身体は痣だらけになっていた。
哀れにも白目を剥いて泡を噴きながら、汚物を垂れ流している。
少女はすでに縛めは解かれているにも拘らず、動こうともしない。
それに怯えた娘は檻の隅へ這って逃げようとするが、頬に傷のある男にその足を掴まれた。


「目ぇ覚ましたようだな。それじゃ、続きはお嬢ちゃんにお願いしようかな。さぁ、こいつを咥えろ」
男は娘の猿ぐつわを毟り取ると、剥き出しになったままの下半身にぶら下がる肉棒を顔に押し付けてきた。
今しがたまで少女の中に入っていたそれは、濡れた亀頭部が赤黒く膨れ、鼓動にあわせてピクピクと揺れていた。

「いや!汚らしい!」
「汚いからお前の口でキレイにして欲しいって言ってんだろ。
 おとなしく咥えろっての」
男は顔を背ける娘の鼻をつまみ無理矢理口を開けさせると、生臭い肉棒をそこに押し込んだ。
深く喉を突かれた娘は、反射的に男のモノを吐き出した。

その娘の頬をごつごつとした男の平手が張り飛ばす。
「このヘタクソが!もういいから舌で舐めろ!
 袋も裏スジも忘れるな。もし歯ぁなんぞ立てたら、そこのバカ猫みたいに半殺しにするぞ」
恐怖に震える娘は目に涙を溜めながら、おそるおそる男の肉棒に舌を這わせ始めた。

もう一人のひげ面の男が、いきなり後ろから娘の女陰に一物を突き刺した。
その痛みに堪えながらも、娘は舌を動かし続ける。
「やっぱり濡れてない所にぶち込むってのが最高だな。
 この擦れて引っ張られる感触が堪らんぞ」
あの獣でさえ行為の前には愛撫があったというのに、この男たちはその程度の手間も厭い、ただ己の快楽を追求するのみであった。


娘にその気はなくても、行為が続けば女陰は濡れる。
そのおかげで痛みは消えたが、男の方は不満のようだった。
「この売女!純情そうな顔してもう濡らしやがって…これじゃユルユルだろうが!」
怒鳴り声とともに娘の尻を何度となく平手打ちすると、真っ赤に腫れ上がった尻たぶを鷲づかみにしながら陵辱を続ける。

やがて傷のある男は彼女の口の中に精液を撒き散らすと満足したのか、さっさと小屋の中に戻ってしまった。
一方残ったひげ面の男は彼女を仰向けにすると、正常位で犯し続けた。
ある意味もっとも人間らしい体位であったが、その行為には人間味は欠片もなかった。

すでに獣の大きさに慣れた彼女にとって、男の一物は脅威ではなかった。
彼女が真っ先に感じたのはただ“重たい”ということだけであった。
考えて見れば獣とは毎晩のように一緒に寝ていたが、一度として彼女に体重を乗せたことはなかった。
どんな体位であっても彼女が潰れてしまわないように、その巨体を預けるようなことはなかったのだ。
どうしようもなく下らないことではあるが、彼女は今頃になって獣がいかに自分を大切にしてくれていたかに気がついた。

彼女が自由に動き回れるようにしておきながら、危険が迫った時には何度となく助け出してくれた。
魔物の毒で動けなくなった時には、一晩中抱きしめて寝ずの看病をしてくれた。
あの激しく容赦のない性行為も、抑えきれない彼女への思いの表れではなかったのだろうか?
そもそもこういった人でなしの男達から助け出してくれたのが、彼との始まりではなかっただろうか?


「…帰りたい…」
犯されながら呟く娘に男が答える。
「帰る場所なんかあるものか。
 お前みたいなとり澄ました顔の女は、金持ち連中に人気があるからな。
 調教が終わったらすぐに新しいご主人様に可愛がってもらうことになる。
 まぁその前に飽きるまで楽しませてもらうけどな」
「…帰して… …私を家に帰して…」

娘は懇願し続けた。
しかし彼女の脳裏に浮かんだのは両親が待つ館ではなく、獣が寝そべる洞窟だった。
ひんやりと冷たい岩肌、指に絡む柔らかな毛皮、暖かな腕の中で聞こえる穏やかな寝息…。
昨日まではどうでも良かったことが、失われた途端にいとおしく思い出される。
娘は自分の気持ちにやっと気づいた。
自分はあの獣をもはや嫌ってはいない…いや、むしろ愛していたのだと…。

ひげ面の男が娘の顔を殴る。
「うるせぇっ!これ以上グチャグチャいうなら二度と喋れないようにしてもいいんだぞ」
娘は涙を浮かべた目で見上げる。
「…お願い…助けて…」
その言葉を聞いて男はニヤリと笑う。
だが、男は勘違いをしていた。
娘は男に許しを求めているのではなかった。
男の後ろ…檻の天井の隙間から覗く切り立つ崖に翻る、黒い影に話しかけていたのだった。


月明かりが降り注ぐ森に、獣の雄叫びが響く。
ぎょっとした男のモノは彼女の中で萎えしぼんだ。
ひげ面の男は慌てて彼女を投げ捨て、檻から駆け出て小屋に飛び込んだ。
そしてすぐに完全武装になって仲間達と外へ出てきた。
手に武器と松明を持った男たちは全部で5人。
輪を描くように並び、全員が外側を向いて襲撃に備えた。

「…この遠吠えって、もしかしてヤツじゃないのか?森の東側で暴れてるとかいう…」
「馬鹿野郎、こんな所まで出張ってくるかよ。それより気を抜くなよ。どっから来るか分からんぞ」
男たちは目を皿のようにして、暗い周囲に目を配る。
しかし彼らは迫り来る黒い影を見つけることが出来なかった。
彼らの唯一の死角…真上から獣が降ってきて、頬に傷のあった男を踏み潰して着地したからであった。
他の4人が慌てて振り返った時には既に獣の姿は闇に消えており、あとには胸郭を押し潰された死体が一つ残されていた。

「畜生がっ!人間サマを舐めるなっ!」
「待て!」
仲間の制止を無視し、一人が獣の後を追って闇の中に走って行った。
だが身の毛のよだつ絶叫が響き渡り、すぐに静かになった。
その恐ろしい悲鳴を聞いて、残された3人は怖気づいた。
「暗いとこっちが不利だ。朝まで小屋に立て篭もろう」
手に持った松明を投げ捨て、男たちが小屋に入っていくと、扉にかんぬきを掛ける音が聞こえた。
すると獣が再び現れ地面に落ちた松明を拾い集めると、開いたままの小窓から小屋の中へと放り込んだ。

「…絨毯に…水だ、水をかけろ…って馬鹿野郎!酒かけるんじゃねぇ」
「消せっ!いいから消せっ!」
「…ゴホッ…火ぃ消えたって…ゴホッ…こんなに煙たいんじゃ無理だ。外出るぞ」
怒鳴り声が聞こえると、男たちは再び走り出て来た。


目を赤くした小男は、涙をぽろぽろと流しながら目を開くが真っ暗で何も見えない。
彼は一瞬、自分の目が見えなくなったのかと心配になった。
しかしすぐに彼は気がついた。
目の前が真っ暗なのは目が見えなくなったのではなく、視界一杯に黒い物が立ち塞がっているからだった。
恐怖で動けなくなった彼の首を、闇の獣が優しくつかむ。
男が目だけを動かして頭上を見上げると、獣の口元がにやりとつり上がる。
小男は自分の頚椎がへし折れる音を確かに聞いた。


長髪の男は走った。全力で走った。
髪を振り乱し、一度も後ろを振り向かず、とにかくこれ以上走れなくなるまで走った。
息が上がって限界になり、やがて彼が立ち止まった所には大きな岩があった。
それは彼らにとっては人里へ続く道の目印でもあった。
ほっとした男がよく見ると、その岩にもたれ掛かる様にして足を投げ出している人影をみつけた。
彼が後ろに置いて来たはずの仲間の小男であった。
いつの間にか彼を追い抜いてここまで来ていたらしい。

「…はぁ…はぁ…お前も…何とか…逃げられたんだな…はぁ…」
そう言って彼は、座っている仲間の肩に手を掛けた。
しかし相手は何の抵抗もなくそのまま地面に倒れ込む。
そしてその首はありえない方向にダラリと伸びた。
「…ひっ…」
悲鳴を呑み込み、よろめくように後ろに下がる長髪の男の背中が、何か柔らかい壁に当たる。
反射的に振り向く彼が最期に見たものは、月明かりにきらめく黒い爪であった。


ひげ面の男は檻の中に駆け込むと扉を閉めた。
内側からは錠をかけることは出来なかったが、外に立っているよりは遥かに安全だと思ったからだ。
しかしすぐに男は自分の失敗に気づいた。
当然のことながら、ここには逃げ場がないのである。
そして大して時間も経たないうちに、黒く大きな影が扉の前に現れた。

追い詰められた男は床に横たわっていた娘を引き起こすと、生きた盾ででもあるように自分の前に立たせた。
もちろん男は獣と娘の関係を知らないし、人質になるとも思ってもいない。
ただ獣が彼女を襲っている隙に逃げ出せるかもしれないと考えたからだ。
引き毟られるように扉が開いた瞬間に、男は獣に向けて娘を突き飛ばした。
すると意外な事に、獣は彼女を両手で優しく受け止めたのだった。

これ以上の隙はない。
ひげ面の男は剣を腰だめに構えると、娘ごと貫き通す勢いで獣に向かって身体ごとぶつかっていった。
勿論娘には避けることなど出来るはずもなかった。
しかし彼女の身体にその刃先が触れることはなかった。
庇うように差し出された、獣の太い左腕がその剣を受け止めていたからである。

突き立った刃を獣の強靭な筋肉が締め付け、男が押せども引けども抜けなくなる。
男は剣から手を離すと、獣の眼光に気圧されるように後ろに下がった。
そして死を覚悟してその場にへたり込んだ。
しかし獣は己の腕から剣を抜き取ると無造作に投げ捨て、男への興味を失ったように背を向けた。
そして娘を抱きかかえ、闇の中へと消えていった。

自分が助かったことがにわかに信じられず、男は呆けたように獣が消えた方角を見つめていた。
なぜなら男には、獣が復讐よりも娘の安全を優先したのだとは、想像もつかなかったからだった。
その時、脱力した男の身体に衝撃が走った。
見下ろすと自分の胸から剣の切っ先が飛び出している。
男は叫ぼうとするが口にまで血がこみ上げて来て、ゴボゴボという音しかでない。
伸ばされた腕も虚しく前のめりに倒れ伏した彼の背後には、冷たい猫の瞳を持った少女が立っていた。

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いつもの洞窟に戻ると、娘を抱きしめたまま獣は横になった。
だがその目は閉じられてはいるものの眠っていないのは、背中に感じる鼓動と息遣いで分かった。
娘もまた眠れなかった。
暖かな毛皮に包まれていながら、身体の震えが止まらないのだった。
彼女の身体に回された力強い腕には、生々しい傷跡が残っている。
もっとも流石は魔物だけあってその生命力は凄まじく、既に出血は止まり傷口も半ば塞がりかけていた。
それは避ける事もできたのに、彼女を護る為にあえて受けた傷だ。
一筋の涙が彼女の頬を伝う。

「…ありがとう…」
人語の通じない事は分っているが、言わずにはいられなかった。
彼女は何度となく彼に助けられてきたのだ。
しかし彼女にはしてあげられることが何もない。
感謝の言葉が無意味と分っていても、彼に報いる方法が他に思いつかなかったからだ。
だがすぐに彼女はひとつだけあることに思いついた。


彼女は後ろに回した手で、彼の股間をさすりだした。
獣はそれを止めようとはせず、ただ片目だけ開けて彼女を見ると、すぐにまた目を閉じてしまった。
ゆっくり優しく撫でているうちに、その膨らみの先端から剥き出しの肉が頭を出した。
彼女は彼の腕から抜け出すと股間に顔を埋め、心臓のように脈打つそれを口に含んだ。
慣れない行為ではあったが、歯を立てないように気をつけ、丁寧に舌を這わせる。
口に溢れる獣臭は先程の男とは比べ物にはならないほど強烈なものがあった。
しかし不思議なことに、あれほど汚いと思われた行為が今回は全く気にならなかった。
ただ少しでも彼を喜ばせて上げたいとの思いだけがあった。

程なく彼の一物は大きくなって、彼女の口には収まりきらなくなった。
彼女は顔を上げると、その熱い欲望の塊に自らの股間を擦り付けながら、彼の分厚い胸にしなだれかかった。
股間が摺り合わされるうちに、彼の熱さが彼女にも伝わったかのように、蕩けた陰唇から愛液が滲み出した。
そして、彼女は彼のものを自らに導くと、ゆっくりと腰を落とした。


身体を引き裂かれるような痛みが走る。
しかしもう何度も繰り返しているので不安はない。
苦しいことには変わりがないが、相手が彼ならば我慢ができる。

彼女は痛みに耐えて、自分から腰を動かした。
やがて股間が十分にほぐれて潤って来ると、彼女にも余裕が出てきた。
だんだん大きく腰を上下させると、それに合わせるように獣の腰も動きだす。
どうやら獣もじっとして居られなくなったようだ。
彼女を抱きかかえると床に寝かせ、そのまま覆いかぶさって尻を振る。
指先で彼女の胸を愛撫している間でさえ、獣は器用にも肘と膝とで体重を支えて、彼女に負担をかけようとしなかった。

その気遣いが可笑しくて、悪戯心を出した彼女は獣の身体にしがみつく。
そしてまるで小猿のように彼の腰にぶら下がった。
獣は初め怪訝な目つきをしていたが、すぐにニヤリと笑うと、いきなり繋がったまま夜の森へと飛び出していった。
そんな獣の悪ふざけに彼女は黄色い嬌声を上げる。
枝から枝へと飛び移り、風のような速さで駆け抜け、周囲の森をぐるりと回ると二人は洞窟へと戻った。

あまりに笑い過ぎて、娘の腹筋が痛む。
見れば彼女だけではなく、何と獣までが笑っていた。
ぐふぐふという間の抜けた笑い声を聞きながら、娘は自分が心から笑ったのも久しぶりなのに気がついた。
別にここに来てから笑わなくなったのではない。
淑女たるべき者が大口を開けて笑うなどとは、館では許されなかったからだ。


ひとしきり笑ったあと、獣は彼女を地面におろした。
そして真顔に戻るとゆっくりと腰を振り、愛撫を再開した。
見下ろす彼の視線が真っ直ぐに彼女に突き刺さり、彼女もまた彼の瞳を覗きこむ。
これほど穏やかな気持ちで見つめ合うのは初めてのことであり、彼女はその透き通った瞳に吸い込まれそうな気がした。

真っ赤に燃え上がる瞳は恐ろしいほど力強いが、その奥深くには孤独の色を湛えていた。
この恐れを知らぬ生き物はただひとつだけ…彼女を失い再び独りになることを恐れていた。
彼女が彼の助けを必要としている以上に、彼は彼女の存在を必要としているのだった。
それに気づいてしまった彼女は、彼を置いて行こうとした自分に罪悪感を感じずにはいられなかった。
そしてこの子供のように純粋で残酷な生き物をあらためて愛しいと思った。


優しく動きながら彼女の中の彼が一回り大きくなると、大量の粘液が吐き出される。
しかし本番がまだこれからだということを彼女は知っていた。
いつもならここで恐怖に慄くところであったが、今ではむしろ待ち遠しいとまで感じていた。
彼女の中で段々抑えきれなくなった彼が暴れだすと衝撃がはらわたに響いた。
だが娘はその痛みと共に彼の激しい思いを受け止めた。
その甘美な痛みを味わっているうちに、彼女は生まれて初めて絶頂に達した。
真っ白になって薄れゆく意識の中、身体の奥深くで熱いほとばしりを感じた。
そして彼女の心も満たされていった。


彼女が目覚めると、まだ二人は一つのままだった。
大立ち回りの後の行為だけに流石に疲れ切ったのか、獣は彼女の下でぐっすりと眠っている。
そんな恐ろしい魔物の無邪気な寝顔を、彼女は可愛いと思った。
そして穏やかに動く胸に顔をうずめながら彼女は考えた。
自分が傍にいることで彼が慰められるのならば、それもまた意味のあることだろうと…。
物思いに耽る娘の冷えた肩を、獣が無意識に抱きしめる。
その毛深い腕はとても暖かかった。


その晩新しい命が宿ったが、彼女がそれに気がつくのはしばらく先のことであった。




【 fin 】


-モドル-

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