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SS:ヴーク

 妙なことになったものだ。

 『彼』は、そう思った。

 『彼』は、人ではない。

 頭部は、沼や砂漠に生息するような、ある種の爬虫類に良く似ている。
 長い顎が特徴的で、その表面には鋭い棘も並んでいた。
 身体全体は固い鱗で覆われていて、その下には太い筋肉の束が何本も埋まり、逞しい隆起を形作っている。

 『彼』は、リザードマンであった。

 その『彼』の全身は、真っ黒な鱗で覆われていた。
 まるで、夜闇がそのまま凝ったような漆黒で、濡れたような光沢を持っている。
 背中から太い尾が伸び、それが、別個の意思を持っているかのように、うねうねと動いていた。

 黒いリザードマンが居るのは、険しい山間に建てられた、山城である。
 その城の、城主が騎士や家臣と謁見するための間に、リザードマンは居るのだった。

 謁見の間、などと言っても、ご大層なものではない。
 石造りのドーム状の屋根と、太い柱、そして細長い窓が見えるだけの、簡素な造りであった。
 リザードマンの鱗を、壁面に並ぶランプが照らしている。
 そして、中央の一段高くなった所に、僅かな象嵌が施された椅子があった。

 所謂、玉座である。

 そして、黒いリザードマンは、その玉座に、座していた。
 それだけではなく、その前には、小さな人間が跪いている。

 リザードマンは、尖った瞳を更に細めて、自分の腰の辺りの人間に視線を遣った。
 その人間は、まだ、幼さをその容貌に残す、少女である。

 柔らかそうな、真っ直ぐな髪が、長く、赤い。
 瞳は、澄んだ緑で、極上の宝石を想わせる。
 そして、肌が、真珠のように滑らかで、白かった。

 少女は、シンプルなデザインの、絹のドレスを身に纏っていて、それが却って、少女の優美な容姿を際立たせている。

 顔の造作だけでなく、身体のラインも、身に纏う空気も、繊細であった。
 花開く寸前の蕾から微かな芳香が漂うように、少女からは、可憐な気品が漂っている。

 しかし、その少女の小さな唇が触れているのは、リザードマンの股間からそそり立つ、二本の陰茎であった。
 リザードマンは、一部の爬虫類がそうであるように、生殖器が二股に分かれているのだ。

 その、二本の男根に、少女は熱心に唇を這わせているのである。

 くちゅり、くちゅりと、濡れた音が響く。

 少女が、一本の陰茎に舌を伸ばして、そのリザードマンの赤っぽいものを包んだ。
 棹の横の部分から、舌を絡ませ、頭を上下させて、なぞる。
 同時に、大理石のような白くて細い指で、亀頭を刺激した。

 少女の綺麗な赤毛の頭が動くたび、もう一本のリザードマンの陰茎が、少女の頬を叩く。
 それは、リザードマンが意図したものではなく、少女の動きにつられてのことであったが、少女は嫌がる風もなく、そちらの陰茎にも手を伸ばした。

 指で輪を造って握り、強弱をつけて、刺激を与える。
 ぴくぴくと、リザードマンの陰茎が脈動した。

 少女が桜色の唇を開いて、リザードマンの陰茎の先端を咥え込む。
「ん、ん」

 多少、苦しそうにしながらも、少女はリザードマンの陰茎の内の一本を喉にまで導いた。
 頬を窄め、それを吸い上げる。

 同時に、軽く、歯で口内を埋める生殖器を噛んだ。
 抵抗してでのことではなく、リザードマンに、更なる快楽を与えるためだ。

 甘く噛み続けていると、リザードマンの陰茎が、更にその大きさを増す。 
 その太さをいとおしむかのように、喉の奥で、少女は亀頭を吸い上げた。

 ぐ、ぐ、ぐ、と少女の喉を性器のように扱い、リザードマンは陰茎を捻じ込む。
 少女の柔らかい頬の感触と、喉の締め付けが心地良かった。

 リザードマンが少女の赤毛の頭を、ごつい手で撫でる。
 それに応えるように、少女が更に熱を篭めて、リザードマンのそれに奉仕した。

 びくん、と少女の口の内でリザードマンの陰茎が跳ね上がる。
 その拍子に、リザードマンの男根の先端が少女の口蓋に当たり、リザードマンの亀頭から、精液が激しく発射された。

挿絵

 どくどくと、人のものとは異なった、白濁した性汁が少女の口一杯を満たす。
 粘性はそれほどではないが、量が、多い。

 青臭いそれを、少女はこくこくと喉を鳴らし、嚥下した。
 うっとりとした表情さえ、そこには浮かんでいる。

 リザードマンが、ずるりと、少女の喉から自分のものを抜き出した。
 リザードマンが放った精と、少女の唾液が混じった白い液が、少女の唇から糸を引いて伸びる。
 リザードマンの赤黒い陰茎は、てらてらした光を放っていた。

「綺麗にいたしますね」

 少女が赤い舌を伸ばし、舌全体で、リザードマンの男根を舐め上げていく。

 妙なことになったものだ。
 リザードマンは、再び思う。

 元々、彼は、とある王国に属する、傭兵部隊の隊長であった。
 彼だけでなく、彼の部下も、リザードマンである。

 何でも、王国の付近に住み着いたリザードマンの集団に、幾許かの食料と、奴隷階層の女を与えたことが、その国が彼らのような異形の戦士を擁する契機だったらしい。

 しかし、詳しい経緯は分からない。
 彼に分かるのは、この国に居れば、戦いと、食料と、女が手に入るという、それだけである。

 そして、彼らのようなリザードマンにとって、何処か一つ所に留まるには、それで充分なのであった。

 在る時、彼は、隣国へ出征する騎士たちの群れの中に居た。
 戦乱の世のこと、出陣自体は珍しくない。
 しかし、騎士たちの極彩色の鎧の内で、漆黒の鱗の彼の姿は、魁偉なまでに目立った。

 彼の配下である、他のリザードマンも、大した鎧は身に付けていない。
 簡単な造りの胸当てと、傷だらけの篭手ぐらいが、防具の全てであった。

 強靭な鱗に包まれたリザードマンにとって、重い防具など、邪魔でしかないのだ。

 どう、と歓声が沸く。

 戦場に赴く騎士たちを見送りに、貴族のご令嬢たちが、テラスから見送りのために姿を現したのだ。

 繊細なレースで縁を飾られたハンカチを振ると、騎士たちがそれに応えて剣を掲げる。
 それは、深窓の姫君からの激励であると共に、有力な貴族の後見を自分が得ていることを示す、絶好の機会であった。

 競って、騎士たちが剣を頭上高くに捧げると、鋼の刃が陽光を跳ね返す。
 不意に――。

 その掲げられた剣が一斉に下ろされた。
 黒いリザードマンが、テラスの方角を見遣る。

 そこに、少女が一人、立っていた。
 澄んだ緑の瞳と、遠目からも分かる、珊瑚のような赤い髪を持った少女である。

 ああ、あの娘か。

 リザードマンの記憶野に、その少女に関する事柄が浮かび上がった。

 彼女は先代の王の、娘である。
 先王は、若い頃から放蕩で知られていたが、歳を重ねてもその悪癖は治まらなかった。
 少女は、先王が晩年の頃に儲けた子である。
 しかも、少女の母は侍女であり、所謂、御手付きというやつであった。

 通例なら、何処か郊外に家屋敷を与えられ、そこで暮らすのが少女の人生となっていたであろう。
 しかし、先王からの願いもあり、十歳の頃、少女は宮廷に入った。
 数年は、少女にとっても幸福な時間であったに違いない。

 先王の保護があり、その王の歓心を得ようと、多くの貴族や王族が彼女に傅いた。
 少女自身は、それで高慢な態度を取ることもなく、常に慎み深かったし、悪い評判を聞くこともない。

 だが、先王が逝去してからは彼女の境遇は一変した。
 先王は多くの庶子を儲けたが、正統な後継者は男子が一人きりである。

 先王が死ねば、王位はその息子が継ぐ。
 となれば、平民の血を引く少女に取り入る利点はない。
 それどころか、叛意の疑いまで懸けられかねなかった。

 そもそも、先王の息子――現在の王――は、この少女が嫌いであった。

 自分の父が、息子である己より愛情を注ぐから、この少女が嫌いである。
 家臣たちが、その立ち居振る舞いを称するから、この少女が嫌いである。
 赤い髪や、緑の瞳や、白い肌が、どの貴族の娘よりも美しいから、この少女が嫌いであった。

 その現王の嫌悪を、周囲も承知していて、彼女は急速に孤立していった。
 寧ろ、彼女と関わりを持つことを恐れるようにさえ、なったのである。

 それで、彼女の姿がテラスに現れた途端、騎士たちはその剣を下ろしたのだ。

 ふん、と黒いリザードマンが、鼻を鳴らす。
 そして、自分の持つ武器を見た。

 多くのリザードマンは、シミターと、円形の盾を好んで身に付ける。
 しかし、彼が持っているのはハルバードであった。
 長い柄を持ち、先端は巨大な斧と矛に、横に伸びる鋭い鉤が組み合わさって、構成されている。

 人間が作ったものではなく、彼の部族に伝わるもので、恐ろしく重く、ごつい武器であった。
 ハルバードは、かなり完成された武器であり、そう言ったものを受け継いでいるということは、彼の部族が、唯の蛮族ではなかったことを示唆している。
 しかし、今の彼には、余り、興味のないことであった。

 その、巨大な武器を、暫く眺めていたリザードマンの黒い腕が、唐突に動く。

 腕は、彼の頭上へ向かって、動いていた。
 その手には、得物であるハルバードが握られている。

 天に向かって、ハルバードの穂先が掲げられた。
 鋭いハルバードの矛先が、ぎらぎらと陽光を跳ね返す。

 ざわざわと、リザードマンの周囲を埋める騎士たちが騒ぎ出した。

 漆黒のリザードマンが、先王の娘に対して、己の武器を掲げ、応えたのである。
 それだけではない。

 黒いリザードマンの部下たちまでも、次々と、自分の武器を天にかざしだした。
 漆黒のリザードマンも、その部下も、この行為の意味は承知している。
 今、テラスに居て、この光景を見ているであろう赤毛の娘と、現王の確執も知っている。

 しかし、そんなものに、彼らは興味を持たなかった。
 現王の狭量さも、赤毛の姫の境遇にも、関心はない。
 強いて言えば、日頃、騎士道だの博愛精神だのを謳う連中を、皮肉っただけのことだ。

 これが、闇が滴って固まったような鱗を持つリザードマンと、赤毛の姫君との、最初の出会いであった。

 その後、彼と配下のリザードマンは武勲を重ねたが、あるとき、一人の使者が黒いリザードマンの元を訪れる。
 虚勢を張って、矢鱈と声は大きいが、腰の引けた使者であった。

「国王陛下よりの下賜である。謹んで受け取れ」

 そう言って、彼に託されたのは、何と、あの赤毛の姫君であった。
 しかも、この少女が望んで、リザードマンに『降嫁』することを選んだのだと言う。

「どういう心算だ」
 使者が去った後で、黒いリザードマンは、姫君に問うた。
 彼の周りは、他のリザードマンが興味津々と言った風情で、取り巻いている。

「どう、とはどう言う意味で御座いましょう?」
 逆に、赤毛の少女が訊き返す。

「オレの処に、王家の血を引くお前が何ゆえ降る?」
 爬虫類的と言うよりは、鉱物的な無機質さの視線で、黒いリザードマンは姫を見据えた。
 大の男でも、その視線には震え上がりそうである。

 しかし、姫君の表情には、格別怯えの色はなかった。
 緑の瞳が、清浄な光を湛えて、リザードマンを真っ直ぐに見ている。

「わたくしの母は平民の出自です。それではご不満でしょうか」
「ふん……」

 リザードマンが、表情を変化させないままで、赤毛の姫を凝視する。
 人間の容姿――髪や肌や瞳――は、リザードマンのそれとは全く異なっているが、この少女は単純に美しいな、と黒いリザードマンは思った。

 しかし、この娘が何故自分の下に来ることになったのか、そこを明確にしなければ、要らぬ厄介事を抱え込む羽目になる。
 人間どもの政争は鬱陶しいだけだが、その対処まで放棄するわけにもいかなかった。

「何故、オレなのだ」
 訊く。
 赤毛の少女の表情は、矢張り、落ち着いたままであった。

 その表情のまま、少女が口を開く。
「選べ、と言われたのです」
 そのような言葉を呟いた。

「『選べ』?」
 リザードマンが、少女と同じ言葉を返す。

 少女が語ったのは、次のようなことであった。
 一ヶ月ほど前、国王からの使者がやって来た。

 少女は、その使者が余り好きではなかった。
 所作は丁寧なのだが、その端々に何処か態とらしいものが有る。

 しかし、使者自身はそんな彼女の心中には頓着せず、淡々と、少女の成婚について告げた。

 唐突な話である。
 少なくとも、彼女には覚えのない話であった。

 しかし、使者は落ち着き払って、これがすでに決定事項であることを述べ、ついては嫁ぎ先を少女が選択するように言った。

 尋常な話ではない。
 どういう思惑があるにしろ、貴族階級の婚姻がそのように恣意的に行われる筈がなかった。
 そもそも、結婚することだけが決まっていて、その相手が未定とはどういうことか。

 そこまで考えて、少女ははたと思い当たった。
 どういった家門に嫁ぐにせよ、先方にとってこの縁談は迷惑なものであろう。
 彼女は、自分が王から疎まれていることを知っていたし、そのことは周知の事実でもあったからだ。

 しかし、先王の血を引く『姫君』の降嫁を、無下にするわけにはいかない。
 受け入れるしかないであろう。それ以外の選択肢があるとは思えない。

 そうなれば、嫁いだ先の人間が、少女をどう扱うか。
 或いは、嫁いだ先で、少女がどのような日々を過ごすか。

 何にせよ、彼女の人生が楽しからざるものになるのは間違いない。
 つまりは、王の、嫌がらせなのだ。

 一国の王のすることにしては、随分と陰湿であるが、この王には、そういう酷薄なところがあった。

 そういう考えに至り、改めて、少女は目の前の使者の顔を見る。
 その顔は、冷静を装っていたが、矢張り、どこか白々しかった。
 その薄い慇懃さの皮の向こうに、嘲笑が潜んでいるのが、見て取れる。

 この使者も、自分が仕える王の思惑を知っているのだろう。
 そして、少女の境遇についても充分に分かっているに違いない。

 それで、少女の運命を嗤っているのだ。
 ぴしり、と少女は、自分の胸の奥に亀裂が入る音を聞いたような気がした。
 そして、次の瞬間、少女は我知らず、口を開いたのである。

「――それで、オレの名を出した訳か」
「はい……」

 小さく、呟くような声で少女が言った。

「ふん」
 黒いリザードマンは、感情の篭もらない声で、鼻を鳴らす。
 尖った黒い瞳を細め、値踏みをするかのように、少女を見詰めた。

「無謀なことをするものよ」
 やがて、リザードマンが平坦な口調で言う。

「オレは、リザードマンだ」
 続けてそう言うと、ごきりと、肩を鳴らす。
 逞しい筋肉の繋がりが、リザードマンの動きに合わせてうねった。

「その状、狂猛にして血を好み、人を喰らう、と言われているのだぞ」
 そう言って、リザードマンは歯を剥き出した。
 ずらりと並んだ、鋭い牙が覗く。

「オレがお前を喰おうとしたら、どうするのだ?」
 リザードマンは、赤い舌をぞろりと伸ばした。
 まるで、ほんの先刻まで生き血を啜っていたかのように、真っ赤な舌である。

 その長い舌を、少女はじっと見ていたが、その表情に、目立った変化は見えなかった。
 そして、慎ましやかに、唇を開くと、
「そうなったら、多分、困ります」
 そのように、言った。

 リザードマンの、顎から這い出ていた舌の動きが止まる。
 ――それは、困るだろうよ
 赤毛の姫の、やや角度のずれた反応に、漆黒のリザードマンも間の抜けた感想を抱いた。

 リザードマンと少女が、お互いを見遣る。
 少女が、何かが胸中に不意に浮かんだのか、その頬に小さな笑みを浮かべた。

「どうかしたか」
 この状況に余り相応しいとは思えない少女の貌を見て、リザードマンが尋ねる。
「申し訳御座いません。少し、思い出してしまいました」
「何をだ」

 重ねて、リザードマンが問う。
 少女は、はにかんだ様に少し目を伏せた。

「わたくしが、貴方の御名前を出したときの、御使者のお顔です」
「ほう」

「呆気に取られておいででした」
「だろうな」
「それで――」
「それで?」

「胸が、すっと致しました」

 まるで、他愛のない悪戯が露見した幼児の如き表情で、頬を赤く染めて、少女の姫は言ったのだった。
 その言葉に、リザードマンの眼が、丸く見開かれる。
 しゅ、しゅ、しゅ、と何か、空気が漏れるような音がした。

 少女の目の前で、真っ黒なリザードマンが、大きくその口を開いていた。
 く、か、か、か。
 リザードマンの喉の奥から、そういう音が漏れる。

 リザードマンは笑っているのであった。
 黒いリザードマンだけではない。周囲の彼の部下であるリザードマン達も笑っていた。

「そうか、すっとしたか。く、く、く」
 堪え切れぬように、黒いリザードマンが身体を揺らして笑う。
 赤毛の少女は、余りに周りの異形の戦士たちが笑うので、ますます身を縮めた。
 その様子を見て、また、リザードマンたちが笑う。
 これが、黒いリザードマンと、赤毛の姫との二度目の出会いであった。

 それから、リザードマンは今居る山城への常駐を命じられる。
 国境付近ということもあり、国防強化の一環であるなどと称されては居るものの、要は、異様なリザードマンの集団を遠方に追いやっただけである。

 そういう訳で、漆黒のリザードマンと、赤毛の少女は、この山城に移ったのであった。
 自分の股間に顔を埋め、熱心に奉仕を続ける少女を見ながら、リザードマンはそんなことを思い出し――、

 妙なことになったものだ。

 その思いが、また過ぎった。 

 赤毛の姫が、リザードマンの陰茎をちろちろと舐める。
 少女の白い指が、滑らかにリザードマンのものをさする。

 もじもじと、少女が何かに耐え切れない様子で、腰をくねらせた。

「あ、あの、も、もう……」

 潤んだ眼で、リザードマンを見、懇願する。
 緑の瞳に溜まった光が、リザードマンの情欲を誘った。

「欲しいか?」
 敢えて、リザードマンが尋くと、少女は頬を赤く染めながらも、こくんと頷く。
 その赤い髪を撫でてから、リザードマンはひょいと、少女の華奢な身体を抱き上げた。

「好きな方を選べ」
 自分の膝の上に少女を乗せて、リザードマンが言う。
 好きな方、と言うのはリザードマンの二本の陰茎のことだ。
 少女は、ドレスの裾をそろそろと引き上げ、ほっそりとした腰を顕わにした。

 少女の脚の合わせ目から、粘っこい愛液が溢れているのが見える。
 自分の未成熟なそれを、少女自ら、リザードマンの男根にあてがった。
「ん、ぅん……」
 そこから、赤毛の姫が、ゆっくりと腰を沈めていく。
 少女が選んだのは、リザードマンの二本の生殖器のうち、やや下方から生えているものであった。

 ず、ず、ず、と少女の胎内に、リザードマンの長い男根が呑み込まれていく。
 赤いそれが少女の膣の内壁を擦るたびに、少女の口から濡れた吐息が漏れた。
 少女の真っ白な腹が、リザードマンの陰茎でぽっこりと膨らんでいる。

 その様子を見ながら、リザードマンは、どうしてもこの少女とこういう仲になった契機を思い出せないでいた。

 自分が、この少女を無理矢理襲った、ということはない。
 黒いリザードマンには、泣き叫ぶ女を犯して悦ぶ、という趣味はなかった。
 別段、彼が倫理観に富んでいるということではない。
 単に、人間の娘の喚き声が、彼には耐え難いだけである。
 喧しいのは好かん、と簡潔に言ってしまえるだろう。

 だから、自分ではなく、少女が誘ったのではないか、と彼は考えていて、実際にそう少女に尋いたこともあるのだが、赤毛の姫君は頑としてそれを認めなかった。

 そんな恥ずかしいことは致しません、とのことである。
 では、何故この幼い容貌の少女と情を通じ合わせるようになったのか。
 この話をすると、何時も、闇色の鱗のリザードマンと、赤毛の少女は喧嘩になるのであった。

 まあ、良い。

 黒いリザードマンは、そう首肯して、少女の膣に、腰を動かして刺激を与える。
「あ、ん、ん」
 少女が、甘く欲情した声を上げる。

 リザードマンの動きに合わせて、少女のほっそりした腰も上下した。
 少女の胎に入らなかったもう一本の男根が、リザードマンが少女を突くたびに、ぺちぺちと少女の腹を叩く。

 その刺激さえ、少女にとっては快楽なのか、びくびくと膣壁がリザードマンのものを締め付けた。
 少女の膣内は、狭く、きつかったが、充分に濡れていて、心地よい。

 少女の動きと、リザードマンの動きが徐々に激しいものになっていった。
 少女の吐く息が、せわしないものになる。

「しっぽ、しっぽぉ」
 少女が、切羽詰って、呟いた。
 リザードマンの太く、ごつい尾が、持ち上がる。

 その尾の先端がするすると伸びて、少女の口に近付くと、少女が唇を軽く開いて、その黒い尾を口に含んだ。
 白い滑らかな歯が、鱗に包まれた尾を噛む。

 それは、少女の身体の内で、快楽の波が一際大きくなったときの、癖であった。
 元々は、挿入したときの少女の苦しそうな貌を見て、気が紛れればと、リザードマンが自分の尾を咥えさせたのが始まりである。

 どうも、それが彼女の内で刷り込まれたようで、随分と慣れてきた今も、少女はリザードマンの尾を求めるようになっていた。

 ん、ん、とくぐもった声を上げながら、少女が一心に腰を動かす。
 赤く美しい髪が、綺羅を纏って弧を描いた。
 そして、少女の胎内の奥をリザードマンの男根が突くたび、少女が咥えた尾を強く噛む。

 強く、とは言っても所詮は人間の、それも少女の力である。リザードマンの堅牢で、しなやかな鱗に包まれた尾には大した刺激ではなかった。
 些かの痛痒も感じぬ、と言う訳ではないが、精々、むず痒い程度である。

 尤も、リザードマンも、これはこれで良い、と考えている。
 少女に、快楽と多少なりの苦しさがあるように、自分にも快楽と多少の違和感がある。
 それで、良いではないか。
 等値、とは言えないまでも、何とはなしに、バランスが取れているように、黒いリザードマンには思えた。

 リザードマンが、少女の子宮口をじぶんのものでこつこつと叩く。
 少女の白く、滑らかな背が反り、きつく、少女の内が締まった。

 少女の胎の中、一番奥で、リザードマンの長い陰茎がびくびくと脈動する。
 その先端から、二度目とは思えないほどの大量の精液が噴出した。

 少女が、強く、強く、リザードマンの尾を噛んだ。
 鈍い痛みと、痺れるような激しい快楽が、リザードマンと少女の身体を同時に貫いた。

 そして――。

 リザードマンの傭兵部隊が、国境付近に追いやられて数ヶ月が経った。
 今、リザードマンの目の前には、王都から派遣された騎士の一団が居る。

 騎士たち全員が、白銀の鎧に、派手な象嵌が施された盾を持ち、国王から拝領した広刃の剣を腰に帯びていた。
 黒いリザードマンは、あの簡素な玉座に座して、その一団に視線を遣る。

「……斯様に、我が帝国内には永年の御恩も忘れ、恐れ多くも陛下に叛旗を翻す賊徒どもが頻出しておる。奴らに正義の鉄槌を下し、もって、秩序と平穏を取り戻さねばならぬ。然らば、この聖戦に参戦する栄誉を御主らにも与えよ、との陛下からの仰せだ。御主の武勲に、陛下も期待されているぞ」

 一息に、この騎士団の指揮官であろう、厳つい顔付きの男が、リザードマンに告げた。
 黒いリザードマンは、言葉を発せず、ただ、騎士たちを睥睨するままである。

 この男の言う通り、国内は騒然としていた。
 国王の政治は余りに身贔屓で、先王から仕える老臣も、有能な若い功臣も遠ざけ、碌な経験も知識もない自分の友人に、恣に位を授けているのである。

 これでは報われぬ、と言うことで、重職に在った多くの人材が去り、結果、国政は更に乱れた。
 後に残ったのは、王権を玩具のように扱う王と、それにおもねる自称『忠君愛国の士』のみである。

 この現状に、国内の緊張は高まり、内乱の勃発は時間の問題とされているのであった。
 リザードマンの城に、態々、王国騎士団がやって来たのは、そう言う事情があってのことである。

 しかし、リザードマンは唯、黙していた。
 その沈黙に耐えかねてか、男が再び口を開く。

「無論、御主たちリザードマンにも、陛下のへ御恩と、忠義の心があろう。なれば、我ら善なる王軍に与するのが……」
「恩と忠義、だと?」

 リザードマンが、初めて言葉を発した。
 その言葉には、明らかな棘がある。

「百の砦を落とし、千の軍団を破り、万の勝利を重ねた我らに、御前たちが何を与えたと言うのだ? 僅かの金と、僅かの食料、それだけであろうが。嗤わせる」
 眼を細め、口の端を吊り上げて、リザードマンが嗤った。

「そも、我らは傭兵よ。恩だの忠義などは腹の足しにならんわ。我らを使うなら、形のあるものを貰おうか」
「な、何を望むと言うのだ」

「そうよな、この国の半分は貰おうか」
「な……!」

 男が絶句した。
 しかし、言った方のリザードマンはさも妙案といった風で、言葉を続ける。

「この戦、負ければ御前らが仕える王は死に、御前らも唯では済まんぞ。妥当なところだろうが」
「ぐ、く、く」
 男が唸る。
 無論、それは納得した表情ではなかった。

 成程――。
 リザードマンの胸中に赤毛の姫君の言葉が蘇る。
 確かに、すっとするな。

「ふ、ふざけるな、高がトカゲの化け物が! 図に乗りおって!!」
 叫ぶと、男は腰の剣を抜き放った。
 鋼が、ぎらりと光を反射する。
 男の背後に立ち並んでいた騎士たちも、同時に剣を抜いた。

「元より、貴様らが与せぬなら排除せよ、との命も受けておる! この場で始末してくれるわ!!」
 その言葉に、リザードマンが牙を剥いて嘲笑する。
 激高する男とは対照的に、リザードマンは落ち着いた口調で言った。

「城内で血を流すのは礼に反するぞ。ここは東夷の蛮地とは言え、城は城だからな」
 からかうような口調で、黒いリザードマンが男と騎士たちを見遣る。
 男の肩が、ぶるぶると震えた。

「貴様らトカゲに礼など不要だ! それとも臆したか!!」
「ほう、我らには礼は不要か。確かに、な。では……」

 漆黒のリザードマンが、玉座から立ち上がる。
 その巨大な体躯から、圧倒的な威圧感が立ち昇った。

「存分に血を流すとしようか!!」
 リザードマンが言うと同時に、あらゆる物影から無数のリザードマンが現れる。
 柱の影から、窓の影から、壁の張り出しから。

 そして、恭しく二体のリザードマンが巨大なハルバードを捧げ持ち、闇色のリザードマンにその得物を差し出した。
 人外の膂力を誇るリザードマンでさえ、二体で運ばなければならないそれを、黒いリザードマンは軽々と左手一本で持ち上げる。

「トカゲがぁ!!」
 厳つい顔付きの男が、リザードマンに向かって渾身の力を篭めて剣を振るう。
 リザードマンが、左手一本でハルバードを横に薙ぎ払った。

 ぎぃいん、と金属同士が衝突し、凄まじい音と火花が宙に舞う。
 男の広刃の剣が、易々と弾かれて、男の前面ががら空きになった。

「鈍い上に非力な剣だ。話にならん」
 言い放って、リザードマンがハルバードを突く。
 鋭く、迅く、強烈な、一撃。
 ぐしゃりと、堅いものと、弾力のあるものが同時に潰れる手応えが、リザードマンの手元に伝わった。

 男の鎧と胸板をぶち抜いて、ハルバードの矛先が、その背中まで貫通している。
 そのまま、リザードマンは、ハルバードをゆっくりと揚げていった。
 その角度が急になるに連れ、男の自重で、更に深くハルバードの穂先が男の体躯を進んだ。

 びくびくと痙攣を数度繰り返し、男がそれきり動かなくなる。
 周囲でも、彼の部下のリザードマンが、騎士たちと剣を交えていた。
 しかし、騎士たちは二、三度リザードマンと切り結ぶのが精一杯で、瞬く間に倒されていく。

 ふん。
 黒いリザードマンが、鼻を鳴らす。

 ハルバードを思い切り振り下ろすと、最早、唯の肉塊になった男の身体が、地面に叩きつけられるようにして、穂先から抜けた。
 その無様な死体を見ながら、リザードマンは考える。

 この後、この国は荒れに荒れるに違いない。
 国王への不満は強く、更に、先王の庶子は多い。
 それぞれの勢力が、好き勝手に先王の落胤を掲げ、それぞれに都合の良い正統性を主張して争うだろう。

 ならば。

 それに、あの赤毛の姫君が加わって何の不都合がある?
 あの、薄幸で儚げな、そのくせ、何処か強いものを秘めた姫君に、一国献上奉るも、また、一興よ。

 漆黒のリザードマンは、にやりと嗤った。
 面白い、面白いぞ。
 
 あの姫君に仕え、騎士を気取るも、また、面白い。
 そうなれば――。

 リザードマンは暫し黙考した。

「黒鱗の騎士とでも名乗るかよ」
 黒いリザードマンが呟くと同時に、最後まで抵抗していた騎士が、彼の配下によって倒された。

 これが、周辺国家をも巻き込み、数十年続いた激しい内乱の、幕開けであった。

                                   了

 


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-モドル-