本家[蒼見鳥]  >  もう一つの世界  >   SS  > 【淫魔と剣士と人狼と】


SS:ヴーク


 細い月が、天の端に引っ掛かるかのように残っている、夜。

 傷痕のような月から降りる、細い光を浴びて、黒い馬車が佇んでいた。
 それは、異様な馬車であった。

 全体が、鉄製の板で覆われており、その屋根には、槍の穂先のような、金属製の棘が並んでいる。
 窓はなく、扉には何重にも鎖が掛けられ、巨大な錠がぶら下がっていた。
 その、車輪までが、黒い。
 
 此処は、街道から随分と離れた、廃道である。
 深い森の内を、蛇がのたくった跡のように続く道であった。

 その廃道の真中に停まった馬車の前に、二つの影が立っている。

 一つは、歪な影であった。

 それは、真っ青な、一向に真っ青な巨大な獣。
 狼そっくりの頭部には、眼がある筈の部分に白い刃傷が疾っていた。
 捻じ曲がった背と分厚い胸板、そして、それを支える脚が恐ろしく太い。
 更に、その獣には腕が無かった。
 黒く変色した断面を、青い鬣が覆っている。
 見上げるほどに巨大な、人狼であった。

 いま一つは、すらりとした影である。

 使い込まれたブレストメイルを身に付けた、女剣士であった。
 両刃の剣を、腰から下げていた。
 緩く、自然なウェーブの掛かった見事な金髪が、夜の闇に映えている。
 澄んだ藍い瞳が、勁い意志の光を宿して、美しかった。

 今、この廃道に見えるのは、この獣人と女剣士、そして馬車を引いていた馬だけである。
 数刻前までは、この馬車を護衛していた傭兵もいたのだが、既にこの場には居ない。

 人狼と女剣士の手によって叩きのめされ、自分たちの馬で、逃げ去ったのである。
 と、言うよりは女剣士が、敢えて逃がしてやったのであった。
 その傭兵に尋いたところでは、この馬車を囲む錠前の鍵は渡されていないらしい。

 人狼が、馬車の前に歩を進めた。
 その獣臭に怯えてか、馬車を引く馬が嘶く。
 それを無視して、青い人狼の右脚が、つぅ、と天を衝いて上がった。
 すとんと、呆気ないほどに軽やかに、人狼の右脚が振り下ろされる。
 振り下ろされた先は、あの、馬車をぐるりと囲む太い鎖の束であった。

 ちん、と微かな音が、森の空気を震わせる。
 数瞬の静寂の後、じゃらん、と重い音と共に、何かが地に落ちた。
 見れば、鎖が真っ二つになって、死んだ蛇のように垂れ下がっている。
 その断面は、鏡のように滑らかであった。

「流石だな」

 女剣士は、短く称賛の言葉を発し、馬車の扉に手を掛ける。
 見た目よりも軽い手応えで、黒い戸が開いた。

「む?」

 女剣士が、声を上げた。
 彼女の目の前にあったのは、小さな、灰色の箱であった。
 手の平に乗るぐらいの大きさで、表面には、文字のような、紋様のような刻印で、びっしりと覆われている。

 不思議なことに、此処までの道程で、馬車自体はかなり揺れたであろうに、その小さな箱は丁度真中に位置していた。
 まるで、自分の居るべき場所はここで、それ以外の所に移る気はないとでも言いたげである。

 女剣士は、慎重にその箱に近付いていった。
 この、小さな箱が、女剣士と青い人狼が回収を依頼されたものである。
 とある教会の、古い宝物庫から盗み出されたものであり、危険な呪物だと言う。
 それを、木目の浮いた床から拾い上げ、女剣士は馬車から降りた。

「これで、依頼は完了か」

 呟いて、人狼の元に歩く。

「ぬ」

 女剣士が、小さく声を発した。 
 小さな箱が、自分の掌の中で、その色を変えているのだ。
 最初は、薄いオレンジだったものが、見る間に血のような赤に変わっていく。
 同時に、箱が、強烈な熱を発した。

「つっ」

 その熱が、篭手越しにも感じられ、思わず女剣士は箱を手放す。
 最早、真っ赤な溶鉄のような色と熱を発する箱が、地面に転がった。
 くるくると、回転する。

「ぬ」

 転がった箱が、固い土の上で回転するのを見て、女剣士が眉を顰めた。
 その箱の動きは、明らかに不自然であった。
 落下したときの勢いで回転しているのではない。
 まるで、見えない手が、その箱を独楽の代わりにして遊んでいるかのように、回転を続けていた。

 見る間に、回転する勢いが、速くなっていく。
 それにつれ、箱の色合いも毒々しいほどの赤に変じていった。

 箱の回る速度とその赤が、限界に達したとき――、
 かっ、と閃光が周囲を埋める。

「くっ」

 女剣士が、思わず眼を閉じた。
 その閉じた目蓋越しにさえ、突き刺さるように光を感じる。

 そして、女剣士が漸くその眼を開くと、一人の少女が『宙に』いた。
 女剣士よりも頭一つ分高い所に、何の支えもなく浮いている。

 幻惑的な、現実味のない光景であった。
 冷え冷えと美しい、少女であった。

 腰まで伸びた髪が、薄く、青みがかった銀髪で、今夜の月光を含んだかのようである。
 瞳の色は豪奢な黄金で、永久に色褪せない輝きが、傲岸なまでの光を放っていた。
 そして、ほんのりと桜色をした唇が、あるかなしかの笑みを浮かべている。
 身に付けているのは、星のない夜を切り取ったような、漆黒の夜会服であった。

 少女は、中空に浮かび、青白い月光を浴びながら、女剣士を見下ろしている。

「これは、珍しい……」

 よく通る、透明な声であった。
 決して、大きくはないが、どんな音にも掻き消されることはない。
 耳朶から沁み込んで、魂まで染めるような声である。

「久方ぶりに現し世に出でてみれば、女人の剣士と獣の組み合わせとはのう。ほほ、面白い……」

 如何にも愉しげに、少女は笑った。
 その笑いを遮るように、しゃらり、と金属音が鳴る。
 女剣士が、両刃の剣を抜いたのだ。

「何者かは知らぬが、異形異類のものなら容赦はせぬ。覚悟しろ」

 言って、女剣士は少女に向かう。
 両刃剣を下段に構えたまま、じりじりと間合いを詰めた。

「ほ、ほ、こわい、こわい」

 少女は、そのような言葉を発しながらも、その場から動く気配はない。
 現れたときと同じ位置で、留まったままだ。

 少女の金色の瞳に、ぬらりとした光が宿る。
 その光輝と、女剣士の眼光が交叉した。
 女剣士の視線が、射抜くように少女の白い貌を見据える。
 しかし、その眼光が、不意に弱まった。

 女剣士の膝が、知らず、震える。
 まるで、熱病に侵されたかのように、その震えが全身に回っていく。
 はぁはぁと、女剣士の息が荒いものへと変わった。

 何、だ? この、感じ……。

 身体の深奥から湧き上がる違和感に、得体の知れない恐怖を、女剣士は感じていた。
 意識が、急速にぼやけていく。
 ただ、目の前の少女の双眸だけが、女剣士の視界の中で輝いていた。

「ほ、ほ、どうした? 剣士殿?」

 少女が、澄んだ声で尋く。
 女剣士の膝が、がくんと、地を突いた。
 身体が、熱い。
 これでは、まるで……。

 身体が、疼くのかの、剣士殿?

 少女の声が、響いた。
 しかし、宙に浮く少女の唇は動いていない。
 今、その薄い桜色の唇は、あるかなしかの笑みを刻んでいるだけだ。

 金色の少女の瞳が、冷たく女剣士を見詰めている。
 それとは対照的に、女剣士の身体は熱く火照っていった。

 欲しく、なってきたかの、剣士殿?

 また、少女の声が響く。
 欲しい? 何が……?
 そのように自問する女剣士の脳裏に、少女の声だけが木魂していった。

 ほ、ほ、ほ。

 少女が、笑う。
 しかし、矢張り、その貌に変化は見られない。
 まるで、夜空に輝く金の月のように、何ものにも関わらず、ただ、そこに在るものとして、女剣士を見詰めていた。

 ああ、と女剣士が吐息を漏らす。
 その吐息は、明らかに濡れて、甘かった。
 かたかたと、全身が震える。

 欲しいのかえ?
 少女が尋く。
 
 欲しい……。
 女剣士が応える。

 何が欲しいのじゃ?
 少女が尋く。

 ――が、欲しい。
 女剣士が応える。

 なにが、ほしいのじゃ?
 少女が、更に尋いた。

 ああ。
 また、熱い吐息が零れる。

 ――の、――が、欲しい。
 全身を襲う、強い衝動に耐えながら、女剣士が応えた。

 ケモノの、――が欲しい……!

 女剣士がそう応えた瞬間、凄まじい力が、彼女のしなやかな身体を引き上げた。
 ――!?
 驚愕が、少女と女剣士の双方に疾る。

 何時の間にか、青い人狼が女剣士の背後に回り、その首を咥えて跳びすさったのだ。
 丁度、肉食獣の親が自分の仔にするように、人狼は女剣士の首をその顎で固定している。

 充分な距離を取って、人狼は少女に向き合った。
 そうして、人狼がその牙から女剣士を解放すると、そのまま女剣士は地面に横たわる。

「未熟者が、淫魔の邪眼に魅入られたか」

 人狼が、呟く。
 しかし、女剣士はその言葉に反応も出来ず、蹲ったままだ。
 代わりに、少女の方が人狼に向かって言葉を紡ぐ。

「妾の眷属を知っておるのかえ? 物識りな獣よのう」

 さも意外そうに、揶揄するような口調であった。
 人狼が、白い牙を剥き出して、嘲笑う。

「荒野で出会ったことがあるのでな。男の精を貪る下級魔族――。語るに足らん」

 その言い様に、少女の柔らかそうな唇が、微かに歪む。
 黄金の瞳が、人狼の潰れた両眼を見た。

「この妾を、そのような端女どもと同列に並べるでないわ、汚らわしい」
「ほう」
「妾は、夜魔王の直系の血を引く身であり、四辻の女王陛下にもお仕え申し上げておる。お主如き獣であれば、本来なら目通りさえ叶わぬのだぞ。弁えよ、下種が」

 胸を僅かに反らし、虚空から人狼を見下ろしながら、少女は言う。
 人狼が、その姿にも、言葉にも無関心な風情で、ごきんと肩を鳴らした。

「御大層な物言いだが、貴様の出自なんぞに興味はない。さっさとあの箱に戻るか、それとも消え失せるかしろ。俺が貴様を滅ぼす前にな」

 しゅう、と人狼が呼気を吐きながら言う。
 その息が、白く、蒸気のように立ち昇った。
 火傷しそうなほどに熱い殺気を、それは孕んでいる。

 しかし、そのような強烈な殺気を受けて、少女は平然としていた。

「ほ、ほ。畜生が、己を知らぬというのは滑稽よの。お主が妾を滅ぼす? ほ、ほ、ほ」

 少女が、ころころと笑う。
 その、甘い蜜を含んだような笑みのまま、少女の眼が細まった。

 そして、その桜色の唇から小さな音が漏れ出る。
 それは、高く低く、人間には不可能な音律と韻を含んだ、不可思議な歌であった。
 その、少女の歌に合わせるように、人狼の周囲の空気が歪む。

 びきり、びきり、と空気が鳴った。
 その軋みに合わせ、小さな細い雷光が、人狼の周囲に現われる。
 青ざめた稲光が乱舞し、青い人狼の鬣を、更に青く染め上げた。

 無数の雷光が、不意に収束し、次々と爆発する。
 その爆発の後に、小山のように巨大で、異様な影が出現していた。

 その影の全体的なシルエットは、辛うじて人に似ている。
 しかし、頭部は、捩じくれた角が生えた、人間の骸骨そのものであった。
 全身が、なめした獣皮のようで、ごつごつとした隆起で覆われている。
 長い腕の先には、長い爪が伸びていて、その爪が分厚く、鋭い。
 背中からは、蝙蝠にそっくりな、黒い翼が生えていた。

「グレーターデーモンか。淫魔が上位魔神を喚ぶとはな。面白い」

 人狼が、自分の状況を愉しむかのように、言った。
 己が見上げねばならぬほどの、巨大な魔神に対し、些かの畏怖も怯懦もない。

「下種な獣には、過ぎた相手かの?」

 くすりと、少女が笑うと同時に、魔神が動いた。
 まるで、覆い被さるように、その巨大な腕を振るう。
 まともに受ければ、そのまま潰されてしまうほどの、圧倒的な一撃であった。

 その、途轍もない一撃を前に、人狼の口の端が吊り上っていく。
 嗤っていた。
 人狼は、切れるような嗤いを浮かべて、自分に向かって来る魔神の拳を待ち受けているのであった。

 人狼が、ふわりと、動く。
 魔神の、破壊衝動をそのまま具現化したような拳が、空気を裂いた。
 しかし、そこにはもう人狼の巨体はない。

 人狼の巨体は、風のように迅く、淀みなく動き、魔神の腕の外側に回り込んでいた。
 魔神の腕は、人狼が居た筈の地面を、深く抉っている。
 人狼の蹴りが、直線的な軌道を描いて、魔神の腕に向かった。

 ぎしっ。

 人狼の巨体が、揺れた。
 弾かれたのだ。
 人狼の蹴りは、狙い過たず、魔神の肘に当たっている。
 しかし、その強靭な外皮が、人狼の蹴りを易々と跳ね返したのであった。

 僅かに、魔神の肘に傷がついた程度である。

「ほ、ほ、ほ。どうする、獣? ご自慢の爪も通じぬぞ」

 少女が、虚空で愉しげに揶揄する。
 魔神の腕が、また、風を巻いて人狼に迫った。

 人狼が、その拳を紙一重で躱し、地を蹴る。
 通り過ぎる魔神の腕に、人狼がその巨体を着地させた。
 人狼が、呼気を吐き、一気に魔神の腕を駆け上がる。

 腕の先には肩があり、その盛り上がった肩の先には魔神の顔があった。
 魔神が、人狼の意図に気付いたのか、もう片方の腕で、自分の腕の上を駆ける人狼に拳を振るう。
 だが、それよりも、人狼の動きのほうが迅い。

 魔神の拳が、人狼の背を過ぎた。
 人狼の前に、無防備な、魔神の顔がある。
 力が、満ちた。

 人狼の全身が、びきびきと、堪らない殺気を放つ。
 ごう、と太い蹴りが魔神の顔面に向かった。
 狙うは、只、一点。
 魔神の、虚ろな眼窩であった。

 ごきゅり、と音がする。
 人狼の蹴り脚が、魔神の目玉に突き刺さっていた。

 ぐねぐねと動く魔神の筋肉と、抉られた眼球から吹き出る、青黒い体液の感触が、不気味である。
 人狼が、その不気味な感触の眼窩から、自分の脚を引き抜こうとした。
 同時に、魔神の掌が人狼の背後に迫った。

「ちぃっ」

 舌打ちをして、魔神の肩から離れようとする。
 しかし、魔神の目玉を包む筋肉が、人狼の動きを一瞬、封じた。
 そこを逃さず、人狼の太い右脚が、巨大な魔神の手で掴まれる。
 その手が、思い切り振り上げられた。
 人狼の巨体が、人形のように軽々と持ち上げられる。

 一瞬の間があった。
 次の刹那、ごう、と人狼の耳に、轟音が響く。

 周囲の景色が、出鱈目に混ぜ合わされた色となって、後ろに流れた。
 魔神が、人狼を地面に叩きつけ、大地の割れる音が派手に鳴る。

 ぐがっ。

 人狼の顎から、派手に血が飛沫いた。
 同時に、堅いものが砕ける感触が、人狼の体内に拡がる。
 どうやら、肋骨が一気に折れたらしい。

 再度、魔神が人狼を掲げ、振り下ろす。
 ぎしゅっ。
 今度は、踏み固められた土が砕ける音と、濡れた音が、響いた。

 衝撃で、人狼の脇腹から折れた骨が、数本、飛び出す。
 その骨に、血塗れの筋肉や、内臓らしい細いものが絡んでいた。
 
 何度も、何度も、魔神が人狼を地面と激突させる。
 六度目、魔神が人狼を高く掲げたとき、その足元に、影が走り込んだ。

「その手を離せ、化け物め……!」

 金髪の剣士であった。
 数本のダガーを、人狼を掴む魔神の手に向かって投げつける。
 しかし、それは魔神の外皮に阻まれ、辛うじて引っ掛かった程度であった。

「くっ」

 女剣士は、魔神の足に向けて、剣を打ち込む。
 だが、その打ち込みには常の鋭さは無かった。
 先刻の邪眼の影響が残っているのだ。

「どうした、今少し、頑張らぬか。獣が死ぬぞえ」

 少女が、囃し立てる。
 魔神が、五月蝿そうに人狼を掴んでいないほうの手で、女剣士のいる位置を払った。

 女剣士が、咄嗟に姿勢を低くし、それを躱す。
 そして、自分の頭上を過ぎる魔神の手首に、両刃剣を切り上げた。
 がきり、と鋼の刃が跳ね返る。

「ほほほ、役に立たぬ剣士殿よ。意地を見せぬか、ほほ」

 少女が、逆さまに吊り下げられた人狼に向き直った。
 その貌には、獲物を見下ろす肉食獣の余裕がある。

「進退窮まったのう。どうじゃ、命乞いの一つでもしてみるか?」

 その言葉に、人狼が応えようとして口を開いた。
 ごぼり、と少なからぬ量の血が吹き零れる。
 それだけではなく、普通なら致命傷となるであろう深い傷が、胸にも腹にも覗き、絶え間なく血が流れ出ていた。
 指で、ほんの少し傷を開けば、身体の中身が全て零れてしまいそうである。

「あの、女剣士は、充分に、役立つ……」

 人狼が、牙を自分の血で赤く染めながら、言う。
 潰れた眼が、在る筈のない視線で、少女を見ていた。
 そこには、得体の知れない圧力が籠もっている。

「ふ、ふん。虚勢を張るのも――」

 少女の台詞を無視し、人狼は、女剣士を追う魔神に向かって、声を発した。
 皮肉な響きを、たっぷりと籠めた声である。

「女の尻を、追いかけるのがお得意か、下僕野郎」

 ぴくり、と魔神の肩が震えた。
 その気配を感じ、人狼が言葉を続ける。

「目玉を抉った人狼には、恐ろしくて構えぬか、堕ちた神が」

 その言葉が終わると同時に、魔神が人狼を洞窟のような眼で睨む。
 そこには瘴気が渦巻いていた。

 人狼が口の端から、血を滴らせ、嘲笑う。
 掴まれていない方の左脚が、動いた。
 その指の間で、金属特有の光が見える。

 それは、女剣士が投げつけたダガーであった。
 魔神を攻撃するためではなく、人狼に渡すために、女剣士はダガーを放ったのだ。
 ――!?
 魔神の無表情な貌に、動揺が浮かぶ。

 人狼が、蹴りを放つ要領で、左脚を振るった。
 一条の光が、魔神の眼窩に疾る。
 ダガーが、人狼が抉った魔神の眼球を、正確にぶち抜いた。

 ごあああぁぁあっ!!

 魔神が吼える。
 忌々しい人狼を放り出し、のた打ち回った。
 人狼が、宙で身体を回転させ、着地する。

「済まん、人狼、大した助力にはならなかった」

 女剣士が、人狼の元に走り寄り、最初に口にしたのはそれであった。
 全身の青い獣毛を鮮血で染めながら、人狼が応える。

「ふん、十二分よ」

 人狼は、自分の内にひりひりと、焦げ付くようなものを感じていた。
 久しく無かった、強大な敵との闘い。
 何と、心震えることか。

「何をしておる! 異界の魔神が、獣如きに後れを取るか!!」

 少女が、苦鳴を上げる魔神を叱咤する。
 それを受けてか、魔神が無事なほうの眼で人狼と女剣士を睨んだ。

 こ、おお、お、お。
 魔神が、唸る。
 その地響きのような唸りと共に、空中に、何かの力が集まっていった。

 更に、魔神が吼える。
 空中に凝縮しつつあった力が、遂に、一つの形象をもって、現出した。
 その形象とは、巨大な炎の塊であった。

 ごう、とその炎が、人狼と女剣士に向けて迫る。
 まるで、太陽が天から降ってきたかのようであった。

「舐めるな……」

 人狼が、牙をきりきりと噛む。
 血臭と共に、圧力を持った殺気が吹き出る。

 真昼の太陽の如き光と熱を放つ炎が、既に人狼たちの眼前にある。
 空気が水分を失って、きしきしと、軋んだ音を立てた。
 人狼が、その体躯を半身に構える。

「化外の法を持ち込んだ程度の虚仮威しが、通じるものかよ!」

 太い、鍛えに鍛えた人狼の脚が、放たれる。
 蹴りが、魔神が造り出した炎に向かって吸い込まれた。
 水平に、流れるように無駄のない軌跡を描く、見事な蹴りである。

 その蹴りに巻き込まれるように、炎が、逆巻く。
 ごおう、ごおう、と空気が震えた。

 炎が、散っていく。
 巨大な太陽の様であった灼熱の塊が、人狼の蹴りを受けて、散っていった。
 はらはらと、花弁を風に撒くように、呆気ない散り様である。
 そして、熱も光も、霧散して消え果てた。
 
 人狼が、己の脚をゆっくりと戻した。
 しゅうしゅうと、人狼の爪が、白煙を上げている。
 それだけでなく、その全身から、無数の細い煙が立ち昇っていた。

 その煙は、人狼の傷から上がっている。
 そして、その白煙と共に、青い獣毛の隙間から覗く深い傷が、見る間に塞がっていった。
 しゅしゅうと音を立て、びきびきと肉を鳴らし、人狼の体躯が再生していく。

 しかし、人狼の潰れた両眼と切り落とされた腕が、再生する気配はなかった。
 そうか。
 人狼の胸に、何とも言えぬ想いが去来する。
 そうか。我が技、我が身、未だ彼奴には及ばぬか。

 自分の眼と腕を奪った男の貌を思い出し、人狼はにやりと笑う。
 まだまだ、往くべき高みは遠い。

 人狼が、魔神に向き直り、どん、と地面を蹴りつけた。
 一息に、その眼前まで、跳ぶ。
 魔神が、人狼を見た。

 人狼の脚の筋肉が、みしりと盛り上がる。
 前蹴りが、一閃した。
 唯の、何の変哲もない、しかし、満身の力を篭めた前蹴りである。

 ぐじり、と人狼の前蹴りが、魔神の固い額をぶち破った。
 衝撃で、魔神の潰れた眼孔から、ぶじゅり、と青い体液が噴き出す。

 ぐ、ああ、あああぁぁ……

 魔神が、呻いた。
 天を、仰ぐ。
 ゆっくりと、その身体が崩れていった。
 子供が積み上げた泥細工が、乾ききって、自然と朽ちていくように、ぼろぼろと崩れていく。

 そして、人狼が大地に降り立ったとき、もう、魔神の姿は、影も形も無かったのであった。

「ふん……」

 顎を少し開いて、人狼が息を吐く。
 宙に浮かぶ淫魔の少女が、人狼に憎悪に満ちた視線を向けた。

「この……っ」

 少女の、金色の瞳が、ぬめった輝りを放つ。
 それは、女剣士を呪縛した、淫魔の邪視であった。
 空気が、ねっとりと人狼の巨躯に絡み付く。

 その空気が、不可視の蛇のように、人狼の強い獣毛をすり抜け、皮膚を越え、肉の奥へと染み込んで行った。
 人狼の鼓動が、どくん、と跳ね上がる。

 少女の、太陽のような、不遜なまでの輝きを持つ瞳が、笑みの形に細められた。
 ――この獣を、妾の下僕としてくれよう。
 自分の邪眼がもたらす結果を、少女は確信していた。

「笑止の極み」

 青い人狼の、その言葉を聴くまでは。
 獣が、吼えた。

 地が、震える。
 天が、震える。
 世界が、震える。

 人狼に纏わり付いていた粘液質の空気が、消し飛んだ。
 少女が、宙でバランスを崩し、大地に倒れ込む。
 地面に触れるなど数百年振りのことであったが、今の少女にはそれを感じる余裕はなかった。

「お主は、一体、何なのだ……?」

 呆然と、少女は人狼に尋く。
 人狼は、まるで堅牢な塔のように、少女の前に聳え立っていた。

「獣だ。遙けき高みを目指し、その途上にある、な」

 その言葉に、少女は、頭を振る。
 信じられないものを見たとでも、言いたげであった。

 人狼は、その様な少女の態度には、特に興味を持たず、女剣士のほうを振り向く。
 この淫魔の少女と、それを封じていた箱の扱いを、確認しようとしたのである。
 しかし、その女剣士が、いきなり人狼に抱きついた。

「ぬ?」

 驚く間も無く、女剣士が、自分の舌で人狼の唇を割る。
 舌を差し込んで、人狼の舌全体を、自分のものでなぞった。
 そこから、口内で自分の唾液を混ぜ合わせる。
 躊躇うことなく、女剣士はそれを呑み込んだ。
 たっぷりと、人狼の舌を味わってから、やっと女剣士は獣を解放した。

「す、済まん、人狼……。耐えられ、そうにない」

 頬を赤らめ、上目遣いに人狼を見詰める。
 淫魔の邪眼の効果であろう。
 女剣士の身体は、限界以上に火照っていた。

 それに、言葉で応える代わりに、人狼は女剣士の首筋を軽く噛む。
 女剣士の、引き締まった身体が、びくん、と跳ねた。

 崩れるようにして、女剣士は地面に跪く。
 息を荒げながら見ると、目の前に、人狼の陰茎があった。
 籠手と、鎧の留め金を外すのももどかしく、真っ先に、その先端を口に含む。

 人狼のそれは、未だ、柔らかかったが、女剣士は口全体を使ってそれを吸い上げた。
 女剣士の口腔に、雄の匂いが拡がる。
 舌先で、生殖器のえらの張った部分をなぞり、尿道に舌を差し込んだ。

 口から、粘ついた唾液が零れて、女剣士の白い顎を汚す。
 人狼の陰茎が、女剣士の口内で、徐々に固くなっていった。
 それを、喉の奥まで呑み込んで、しごく。
 何回か、その動きを繰り返して、不意に、女剣士は人狼のものを吐き出した。

 はあはあと、喘いで、空気を吸い込む。
 しかし、そうやって、呼吸をしながらも、女剣士は人狼の陰茎に舌を這わせることを止めなかった。

「おい、息ぐらいは、しろ。苦しかろうが」

 人狼が言っても、女剣士の舌は、動き続けている。
 口だけではなく、細い指を使って、陰茎の棹の部分を握り、上下に擦っていた。

「あ、だって、これ、好き、だから……」

 返事になっているような、なっていないようなことを言って、手と口での奉仕を続ける。
 女剣士と、身体を重ねることは何度もあったが、これ程積極的なのは珍しい。
 邪眼の影響もあるのだろうが、普段、抑えていたものが溢れたのかも知れない。

 赤い唇で、人狼の陰茎を啄ばみ続けていると、その背後から何やら、濡れた音がしてきた。
 女剣士が見遣ると、淫魔の少女が、夜会服の裾に手を入れて、自分自身を慰めているのが見える。

「こちらに、来るか?」

 常なら、決して口にはしないような言葉を、女剣士は発した。
 少女が、桃色の唇から、吐息を吐く。

「良いのかえ……?」

 尋ねながらも、少女の指は止まらない。
 実際のところ、今まで感じたことのない程に、彼女の身体は発情しているのであった。

 彼女が、人狼に仕掛けた邪眼――。
 それは、完全に退けられている。
 その、発現しなかった呪力が、今、少女の肉の内で荒れ狂っているのだ。

 そろそろと、四つん這いでにじりながら、少女が近付いていく。
 人狼の、ごつごつと隆起した生殖器が、見えた。
 それだけで、自分の指を差し込んだ膣壁が、きゅう、と締まる。

 指で自分の秘所を弄りながら、遂に、少女は女剣士の隣にまで、辿り着いた。
 そこには、彼女が欲する、人狼のものがある。
 犬のように、舌を突き出して、淫魔の少女はそれに触れた。
 人狼の陽根は、熱く、固く、びくびくと震えている。
 堪らず、少女は、その小さな口で人狼の男根を咥え込んだ。

 くちゅくちゅと、卑猥な音が、森に響く。
 女剣士が、陽根の棹の部分を、側面から舐め上げた。
 二人の舌での奉仕を受け、人狼のものがてらてらとぬめる。

「気持ち、良いか? 人狼……」

 女剣士が、尋ねる。
 人狼が、眼を覆う傷を僅かに歪めた。

「そういうことを、雄に訊くな」
「ん、済まん……」

 そう言いながら、女剣士は自分の胸をはだけさせる。
 白い、豊かな乳房が夜気に曝された。
 その、ピンク色の先端は、既に固くしこっている。

 双つの隆起で、女剣士は人狼の陽根を挟んだ。
 陽根の先は、今は、少女の口の中にある。
 その少女の口から、唾液と人狼の性汁が混じったものが溢れて、それを、女剣士は舌で掬い上げた。

 舌で転がすようにして、味わう。
 粘つく液体を、喉の奥に流し込んで、女剣士は自分の胸を上下させた。
 合わせるように、少女が夜会服を肩からずらすと、あっさりとその上半身が露になる。

 少女の胸は、女剣士のそれと比べると幼ささえ感じられるが、透明な白い肌が、妖しいまでに美しかった。
 慎ましやかな膨らみを持つ胸を、人狼の男根に擦り合わせる。

 少女の尖った乳首の感触と、女剣士の柔らかい乳房の感触が、人狼の陽根を刺激した。
 更に、舌での刺激が続く。
 小さくて、熱く、人狼の陽根の隅々まで舐め取ろうとするのが、淫魔の少女の舌であった。
 少女のものよりは、長くて、人狼が一番快楽を感じる所を、直向きに愛撫するのが、女剣士の舌である。

 二人の唇が、人狼の男根の先端を、同時に吸い上げた。
 人狼の陰茎が、一際、膨れ上がる。
 びゅくん、とその先端が爆発した。

 白濁した、濃い精液が盛大に溢れ出す。
 女剣士の口の中にも、少女の口の中にも、白いものが溢れた。
 躊躇わず、二人は、それを嚥下する。
 喉が、こくこくと鳴った。

「すごく、濃い……」
「喉に、引っ掛かる……」

 二人は、そう言って、獣の精液を味わう。
 それだけでは足りないのか、人狼の陰茎から、まだ零れている白濁液を舌で舐め取っていった。
 互いの唇と舌が、触れる。

「んむ……」

 どちらが先かは判然としないが、舌と舌が、絡み合った。
 そうして、互いの口腔に残っていた精液を交換し合う。
 それさえも飲み干して、唇を離すと、精液と唾液が混じったものが、細い糸のように繋がった。

「じ、人狼……」

 女剣士が、潤んだ瞳で、人狼を見る。
 その頬も、肌も、赤く上気していた。

「欲しいのか?」
「う、うん」

 その言葉に、人狼は少し考えを巡らせる。
 そして、女剣士を自分の方へ導いた。

「俺の、上に乗れ」
「上に?」
「下は、砂利だからな」

 それだけを、言った。
 別段、特別なことを言った心算はないのだろうが、女剣士の白皙の頬が更に赤く染まる。
 言われた通り、人狼の腰に跨り、そろそろと腰を下ろしていった。

 人狼の陽根が、先端から女剣士の秘裂に呑み込まれていく。
 その肉の隆起が、自分の膣壁を擦る感触に、女剣士の鍛えられた身体が痙攣した。
 根元まで、自分の胎内に導いて、柳眉を顰める。

 人狼の陽根の形と固さを味わうように、女剣士の秘肉が震えた。
 ぽたぽたと、愛液が滴り続ける。

 腰が、自然と動いた。
 それに合わせて、人狼も腰を突き上げる。
 その度に、人狼のものが女剣士の子宮口を突いて、痺れるような快感が、弾けた。

 段々と、その動きが激しくなっていく。
 金色の、女剣士の髪が汗で煌めいた。
 赤い唇から漏れるのは、欲情しきった雌の吐息である。

「妾を、忘れるな……」

 女剣士の背後から、細い華奢な手が伸びた。
 淫魔の少女のものである。
 その指が、無遠慮に、女剣士の胸を鷲掴みにした。

「ひあっ」

 悲鳴が、上がる。
 それに構わず、少女の指が、女剣士の乳房の先端を摘み上げる。
 びくんびくんと、女剣士の身体が震えた。

「は、ふ、うん」

 少女は喘ぎながら、女剣士の括れた腰に、自分の秘所を擦る。
 その淫靡な律動が、更なる快感を生んだ。
 全身が快楽の受容器になったようで、胸も子宮も、与えられた刺激に過剰に反応し、また新しい快楽を生む。

 きゅんきゅんと、女剣士の膣壁が締まった。
 人狼の陽根が、その内をごりごりと抉る。
 女剣士の背中が、弓なりに反った。
 その体勢のまま、何度も痙攣を繰り返す。

 不意に、ぐったりと、人狼の分厚い胸に倒れ込んだ。
 汗と女の匂いが、人狼の鼻腔に届く。

「気をやったか?」

 人狼が、軽く女剣士の耳を噛みながら、尋ねる。
 女剣士が呼吸を整えながら、人狼の貌を見遣った。

「そ、そういうことを、雌に、訊くな」
「ふん、そいつは済まんな……」

 徐々に、女剣士の呼吸は収まっていったが、相変わらず、人狼の男根を柔らかく締めてくる。
 その度に、人狼のものも微かに動いて、女剣士の胎内に刺激を与えていた。

「な、なあ」
「何だ」

 女剣士が小さく呼ぶと、人狼が短く応える。
 暫し、躊躇った後、言葉を続けた。

「その、続ける……か? まだ、いってない、だろう?」

 言いながら、女剣士は腰を揺する。
 そうすると、濡れた音が、繋がったままの部分から聞こえた。
 苦笑に似た表情が、人狼の貌に浮かぶ。

「そうだな……」

 人狼が、敢えて思案顔をすると、女剣士の脇から少女がにじり寄った。
 黄金色の瞳が、発情して、人狼を見詰めている。

「妾も、妾も、欲しい……」

 切羽詰った口調で、淫魔の少女が言う。
 四つん這いになり、高く上げた尻からは、失禁したかのように愛液が垂れ続けていた。

「ぬ」

 人狼が、唸る。
 女剣士が、人狼と少女を見比べた。
 少しの間考えると、自分の腰を引いて、人狼のものを引き抜く。

「良いのか?」
「ん、我慢、する……」

 そう言った女剣士の女陰は、ぱっくりとその秘裂を開き、ひくひくと物欲しそうに蠢いていた。
 白濁した体液で光るそれは、随分と扇情的である。

「後で、たっぷりと犯してやるから、待っていろ」

 からかい半分で言ったのだが、女剣士は、子供のような素直さで、こくんと頷いた。
 上目遣いで、人狼を見る。

「うん、待ってる」

 その言葉に、人狼は頭を軽く振った。
 偶に、自分が幼子を相手にしているような、そういう気分になるときがある。

 そうして、少女の方に向き直れば、もう、我慢しきれないのか、脚を大きく開いて、自分の指を小さな秘裂に出し入れしていた。
 腰を浮かし、充血した秘肉を、弄い続けている。

 少女は、白い、滑らかな曲線を描く尻を向けて、人狼に自分の性器を見せ付けていた。
 今度はそれを指で広げる。
 あからさまな光景が、人狼の眼に映った。

「早く、早く、此処におくれ」

 ねだる少女のそこに、人狼が一気にその陽根を差し込む。
 ぎちゅぎちゅと、少女の膣壁が淫猥な音を立てた。

「ひ、ひあっ、す、すごっ、すごい、ひうっ」

 少女が、口の端から涎を垂らしながら、喜悦の声を上げる。
 その膣内は、狭く、きつく、熱かった。
 人狼が、自分のものを動かすのも苦労するぐらい、締め付けてくる。
 腰を引くと、それを逃すまいと、膣の入り口が亀頭を締めた。
 そこから、奥まで突き刺せば、膣道全体が、わなないて陰茎を刺激する。

「もっと、もっと、もっとぉ」

 四つん這いの、獣の姿勢をとって、少女が幼い腰を振った。
 人狼が、何度も何度も、腰を叩き付ける。
 少女の嬌声が、高く上がって、森に響いた。

「んあ、んん、んー!!」

 どうやら、一突きされるたびに絶頂しているらしい。
 それでも足りないのか、自分で小さく尖ったピンクの乳首を摘んでいた。

 人狼が、後ろから少女の細い首筋に牙を立てる。
 ひっ、と声が少女の唇から漏れた。
 滑らかな肌に、珠のような汗が浮かぶ。

 一際、少女の内が締まった。
 そこから、白い肌を尖った牙でなぞると、何本も赤い跡が残る。
 その刺激が与えられる度、ぶる、ぶる、と少女の全身が震えた。

「こう言うのが好みか?」
「うん、こう言うのが良いのじゃ。もっと、もっと、しておくれ」

 それに応えて、人狼が一層強く、少女の肩に牙を立てる。
 血が、滲んだ。

「ひぃ、ああーっ」

 薄く色付いた唇を開いて、少女が声を上げる。
 同時に、人狼の陽根が、少女の子宮口まで押し付けられた。
 びゅくり、と少女の膣内に熱いものが溢れる。
 獣の精液が、次々と吐き出されて、小さな子宮を蹂躙していた。

 性汁を出し切ると、人狼は、自分のものを引き抜く。
 それでも、淫魔の少女は腰を高く掲げたままで、その肉の裂け目からは、白濁した精液が、零れていった。

 尤も、人狼には、絶頂の余韻に浸る少女を、悠長に観察する暇などなかった。
 柔らかく、肌理細やかな感触の腕が、人狼の胴に絡んできたのである。
 当然、女剣士のものであった。

「じ、人狼……」

 女剣士が、人狼のものに手を伸ばし、ねだる。
 分かっている、と言わんばかりに、人狼の陽根は未だに硬度を失わず、天を衝いていた。
 結局、この後、人狼は、女剣士と淫魔の少女を、夜明けまで相手することになるのであった。

 そして、数日後――。

 帝国王都の一角の、とある酒場で、ちょっとした騒動が起こっていた。
 その酒場には、傭兵や、魔導士だけでなく、亜人や獣人、キメラまでが居て、喧騒が渦巻いている。
 ここは、そういう場所なのだ。
 余り、真っ当な人間が、好んで近付く所ではない。

 現に、一つのテーブルには、巨大な青い人狼が座っていた。
 そして、その隣には、月光を思わせる銀髪の少女が、ほとんど人狼の首にぶら下がるようにして、取り縋っている。

「なんで、お前がいるのだ、淫魔……」

 人狼と少女の前に立った金髪の女剣士が、穏やかではない口調で言った。
 しかし、言われた方は、意に介する風もなく、人狼にべったりとくっ付いたままである。

「良いではないか。きちんと、一旦は教会に戻ってやったことでもあるしな。その後、どうしようと、妾の勝手であろう?」

 淫魔の少女が、言い放つ。
 実際、その通りで、この淫魔の少女は素直に小さな箱に戻り、女剣士と人狼の依頼された仕事は完了したのであった。
 そう、完了した、筈なのだが。

「だったら、好きな所に行けば良いだろう」
「うむ、故に此処におる」
「何が!」

 女剣士が叫ぶと、少女が、悪戯っぽく笑う。
 そして、妙に熱の篭もった視線で、人狼の傷に覆われた貌を見た。

「妾の邪眼を退け、魔神をも斃す漢――。実に興味深い……」

 陶然とした口調には、何やら、妖しげな響きがある。
 む、と女剣士が少女を睨んだ。
 その視線を返すように、少女が、女剣士を見遣る。

「そもそも、妾が人狼の側に居て、何か不都合があるのかえ?」

 尋いた。
 女剣士が、何か言おうとして、一瞬、言葉に詰まる。

「そ、それは、その……」
「困るのかえ?」
「う、う」
「こ、ま、る、の、かえ?」

 何やら、愉しげに問いを繰り返す淫魔の表情に、女剣士は押されがちであった。
 その圧迫感を振り払うように、ばん、とテーブルを叩く。

「そ、その人狼はわたしの剣の師匠で、大事な相棒なのだ。お前のような淫魔に誑かされるのを、見過ごすわけにはいかん!!」

 その台詞に、淫魔の少女は意味有り気な微笑を浮かべた。
 見せ付けるように、人狼の胸板に、自分の顔を埋める。

「安心しろ、この人狼がそう易々と堕ちるものか。それとも、信用できぬのかえ? 自分の『師匠』で、『相棒』を?』

 そう言われて、女剣士が、むう、と唸る。
 一方の少女は、竜に止めを刺した勇者さながら、勝ち誇った表情であった。
 それを見ていた女剣士が、意を決したように、人狼を挟んで、淫魔の反対側に立つ。

 そして、いきなり、人狼に抱き付いた。
 女剣士は、酒場と言うこともあって、鎧などは身に付けておらず、麻のチェニックを纏っているだけである。
 お陰で、豊満な胸の感触が人狼の太い首に直截伝わった。

「む」
「むむ」

 少女と女剣士が、人狼の首に互いの腕を絡ませながら睨み合う。

「貴様ら……」

 それまで、黙って二人の遣り取りを聞いていた人狼が、初めて口を開いた。
 一斉に、女剣士と少女が、人狼を見詰める。

「飯ぐらい食わせろ」

 その言葉通り、人狼の目の前には、アカ鹿のローストが並んでいたが、まだ、手を付けられていなかった。
 しかし、人狼の言葉に反応して、二人が同時に動く。

 ナイフを器用に操って、ソースがたっぷり掛けられた肉を切り取り、フォークに刺して人狼の口元に差し出した。
 タイミングは、全く同時である。

「いや、そう言う事ではなくてな……」

 人狼が、珍しく、溜め息交じりに言葉を吐いた。
 そうして、面倒臭そうに、大きく顎をひらくと、

 ぱくり、

 二人が差し出した肉を、一遍に、喰ってしまったのだった。



【 fin 】


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-モドル-