本家[蒼見鳥]  >  もう一つの世界  >   SS  > 【蠱術師、兵馬倥偬の後、泰山竜王に見えるのこと】


 

SS:ヴーク



 
 
 村がある。

 ほんの少し前まで、打ち棄てられたように寂れていた、村であった。
 門代わりの柱は半ばから折れていたし、周りを囲む柵は崩れている。

 立ち並んだ家は、風雨に耐えかねているように歪み、そこから夕餉の煙が昇ることさえ稀であった。
 村の背後に広がる山襞から、豊かな水量を湛えた川が流れていたが、それを利用する筈の水車小屋は、屋根が落ち掛かっている。

 遠目には廃村としか見えなかった。
 しかし、住人はいる。

 亜人であった。

 戦火に焼かれ、人間に石もて追われ、流れ着いた者たちである。
 しかも、この村でさえ、彼らの安息の地に成り得なかった。
 亜人に向けられる悪意や敵意は、尽きることがない。

 村近くの山には百五十騎からなる騎士団が潜み、神の名を唱えて食糧を奪い、使命のように亜人を殺した。
 食い詰めた傭兵や野盗たちも、度々この村を襲い、亜人を殺し、攫う。

 その様な日々であった。
 だから、村が荒れても誰も修繕する者はいない。
 家や水車は、朽ちるに任されていた。

 今までは、そうである。
 しかし。

 それを変えた者が現れた。
 牙蟲という名の、蠱術師である。

 蠱術とは、蠱毒と蟲を操る法だ。

 大量の虫や、蜥蜴や、蛙などを、一つの壺に閉じ込めて共食いをさせ、生き残ったものを呪法の具として使う。
 これが蠱毒である。

 或いは、無為のまま、蠱毒が成ってしまうこともある。
 これが蟲である。

 加えて、星も見れば、天神地祇の意を判じることもでき、本草の深い知識までも、蠱術には含まれていた。
 生半な知識で、修めることの出来る代物ではない。

 とは言え、何か確固たる目的があって、牙蟲はこの村を訪れたのではなかった。
 偶然である。
 旅の途中、瀕死の亜人の女を見付けたことが始まりであった。
 その女からここの存在を知り、好奇心を刺激されて来たという、それだけの話である。

 村にとって異分子である牙蟲の行動は、気儘なものであった。
 勝手に家を建て直し、山に入って蜂蜜を採ってきては子供に配り、馬に乗って村の周辺を駆け回る。
 好き勝手、と言う形容が相応しい奔放さであった。

 因みに、牙蟲が乗る馬は、村を襲おうとした騎士から奪ったものである。
 動物的な本能で主従を判断しているのか、それとも訓練の成果なのか、牙蟲に対して従順な馬であった。
 背中に、亜人の子供を乗せて走ることもある。

 村が、野盗の襲撃を受けた日も、牙蟲は亜人の子を引き連れて馬を走らせていた。
 十人ほどの武装した男たちであったが、一人を除いて、全員が牙蟲に無力化される。
 残った一人も、牙蟲に鼻を削ぎ落とされ、這々の体で逃げ去った。

 その様なことがあって、村の住人は、牙蟲という異分子を受け入れることにしたのである。
 積極的な受容か、消極的な無視かの違いはあったが。

 比較的若い亜人は、牙蟲を手伝うことも多かった。
 折れた門を直したり、壊れかけた柵を修繕したりする。
 また、豆や麦を貯蔵するための倉も、幾つか建てた。

 今は、村の周囲を流れる川から、水路を引いているところである。
 川を堰き止め、流れを変えることで、村の背後に貯水池を造成する予定であった。
 水車小屋も、建て直さなければならない。

 少しずつ、亜人の村は、ありふれた農村の姿を取り戻していった。
 朝、痩せた土地を耕しに、男たちが畑に向かう。
 昼、村の通りで、女の亜人が子供を連れて立ち話をする。
 夜、スープを煮込むにおいが、村に漂う。

 穏やかな日常であった。
 そんな村の、昼下がりのある日のことである。
 夜からの雨が未だ降り続き、畑仕事や水路を掘る作業は休止であった。
 お陰で、村の住民は家に閉じ籠もるしかない。

 しのつく雨が、藁で葺かれた屋根を湿らせていた。
 ありふれた造りの家の、簡素な部屋で座っている男にも、その湿気は伝わっているだろう。
 二十代の半ば頃に見える男であった。

 蓬髪である。
 髪質なのか、その先端が尖ったように鋭かった。

 右眼を閉じている。
 傷痕があるわけでもないのだが、その瞼はしっかりと下りていた。
 時折、その瞼の下で、小さな何かが動く。
 硬く、丸く、小さい何かであった。

 開いている左眼の瞳は、灰色の光を湛えている。
 鋭かった。

 若く、精悍な肉食獣を思わせる容貌である。
 牙蟲であった。

 法衣のようなものを、牙蟲は纏っている。
 コープと呼ばれる、司祭が身に付けるマントに似たものであった。
 その法衣の右肩に当たる部分が、内側から盛り上がっている。
 まるで、その内側に不気味な怪物が、潜んでいるかのようであった。

 胡座をかいて、部屋の中央辺りに牙蟲はいる。
 腹がくちくなった獣が、のんびりと自分の巣で寛いでいるような風情であった。

 質素な部屋である。
 寝台代わりに使っている架台が部屋の隅にあり、奥に水瓶が置いてあった。
 背の低いテーブルが、一つ置いてある。

 目に付く調度はそれぐらいであった。
 しかし、静かさなどはまるでない。

 牙蟲は一人ではなかった。
 周囲に、亜人の子供たちが大勢いる。
 長い耳の少女もいれば、ふさふさとした尻尾を持つ少年の姿も見えた。
 幼い。

「きばむしさまー、お話聞かせてー」

 野兎に似た耳を持つ少女が、言った。
 遮るように、丸い耳の少年が前に出る。

「森のお話ししてよ。かっこいい、じんろうが出てくる話!」
「ちがうわよ、次は人魚のお姫さまのお話よ」

 少年の発言に、狐の耳を持った少女が反対した。
 それを切っ掛けに、周囲の子供が口々に自分の好みを主張し出す。

 どうやら、雨が降って外で遊べない亜人の子供が、牙蟲の家へ押し掛けているらしかった。
 牙蟲も無聊を託っていたのか、別段、嫌そうでもない。

「良し! 今日は取って置きだ。砂漠の大怪虫、ドールの話をしてやろう」
「なにそれー」
「口はちんけな城なら一呑みにし、胴体は古代の塔の如く巨大、というミミズだ。何でも喰うぞ」
「えー」

 不評であった。
 抗議の声を上げる子供の中から、一際小さな影が進み出る。
 擦り切れた貫頭衣に身を包んだ、幼い少女であった。

 ちょこんと、丸っこい耳が髪の間から覗いている。
 素朴な容姿で、血統は良くないが気質は良い仔犬のようであった。

 隣に、少し目付きのきつい少女が寄り添っている。
 手を引いていた。
 少女の耳は、鼻の効く猟犬のように、ぴんと立っている。
 丸耳の少女は名をアユシュニと言い、尖った耳の少女はシュシュと言う名であった。

「ほら、早く渡しなさい」

 シュシュがアユシュニを急かせた。
 おずおずと、丸耳の少女が手を牙蟲に伸ばす。
 小さな手の平の上に、柳の枝で編んだ、小さな馬が乗っていた。

 首の所が、折れてしまっている。
 よく見れば、それ以外の箇所も解け掛かっており、今にもばらばらになってしまいそうであった。

「これ、直せる……?」

 少女が、上目遣いに見ながら、牙蟲に言う。
 元々、この馬を作ったのは牙蟲であった。
 家の修繕で余った柳の枝を、再利用しただけの簡素なものである。

「材料も持ってきたのよ」

 目付きのきついシュシュが言って、束ねた柳の枝を牙蟲に差し出した。
 それを牙蟲が一瞥する。

「貸してみな」

 言うのと同時に、不気味なものが牙蟲の法衣の裾から姿を現した。
 右腕を、牙蟲が伸ばしたのである。

 しかし、それは明らかに人の腕ではなかった。
 分厚い、板金のような外骨格が表面を覆っている。
 荒野に捨てられた人骨のように、白かった。

 指は、三本きりである。
 太い。
 鋭い爪と一体化しており、肉食性で、獰猛な甲虫の顎に似ていた。

 手首から肘までが長く、立ち上がったとしても地面に指先が届きそうである。
 そして、甲や肘から、角とも牙とも見える突起が伸びていた。

 異様な腕である。
 しかし、その不気味な腕を見ても亜人の少女は脅えたりしなかった。
 突き出した歪な指が、アユシュニの小さな馬を摘む。
 牙蟲が、目の前に馬を運び、暫く眺めた。

「ぼろぼろだなあ」

 呟く。
 アユシュニの顔が、不安そうに曇った。

「ま、直るけどな」

 自信ありげに言うと、牙蟲は、尖った耳の少女から柳の枝を受け取る。
 それから、懐に収めていた左手を伸ばした。
 こちらの見た目は、常人のそれと同じである。

 両の手を動かした。
 早い。
 しかも、外観からは想像できないほど精密な動きを、その指は見せた。

 小さな馬の、傷付いた枝が瞬時に抜き取られ、新しい枝が編み込まれる。
 一度か二度、瞬きをする間に少女の馬は新品同様になっていた。

 代わりに、ささくれた柳糸が横に並んでいる。
 つい先刻まで、馬の一部であったそれを、牙蟲が手に取った。

「済まんが、こいつを貰えるか?」

 妙な申し出を牙蟲がする。
 アユシュニが、こくりと頷いた。
 それで、牙蟲は数本の枝を懐に仕舞い込む。
 新しくなった小さな馬を、牙蟲が手渡した。

 嬉しそうに、アユシュニが微笑む。
 余程大切にしているのか、枝で編んだ馬を抱き締めていた。

「あの、牙蟲さま」

 部屋に、少女が一人、入ってきた。
 歳の頃は、その場にいた子供より五つほど上であろうか。

 髪は菫色で、やや癖があった。
 そこから、ある種の犬のように垂れた耳が見える。

 晴れた空に良く似た瞳の色であった。
 ダルマティカと呼ばれる、袖口の広い筒型衣を身に纏っている。
 その裾から、茶色い尻尾の先が見えていた。
 仔犬のような雰囲気の、少女である。

「おう、セタか」

 牙蟲が少女の名を呼んだ。
 セタは、牙蟲と共にこの村にやって来た亜人の少女である。
 蠱術師である牙蟲の、弟子らしい。

「セタおねえちゃんだー」

 子供たちが、セタの周囲に集まる。
 柔らかく微笑んで、セタが幼い子供を迎えた。

「おねえちゃん、きばむしさまが酷いんだよ」

 兎のように長い耳の少女が、セタに訴える。
 しゃがんで、セタが子供の目線に合わせた。

「どうしたの?」
「おもしろいお話がして欲しかったのに、ミミズのお話をしたの」
「……」

 流石に二の句が継げないセタである。
 困ったような、助けを求めるような表情で牙蟲を見た。

「いや、ドールは凄いぞ。大陸一つを喰い尽くしたという伝説もあってな」

 力説するが、それに効果があるようには思えない。
 亜人の子供が、ほらね、と言いたげな顔をした。
 どうやら、味方がいないらしいことに気付いた牙蟲が、話題を変える。

「で、何か用なのか」

 尋ねた。
 上手い切り返しではないが、取り敢えずセタは自分の師に合わせることにする。

「あの、ノヤさんが来られて……」

 答えるのと同時に、亜人の女がセタの後ろに現れた。
 歳は、二十代の半ばほどだろう。

 日に焼けた、茶色っぽい髪をしていた。
 その髪が長い。
 肩を越えるほどの長さであった。

 黒猫のような三角の耳が、見える。
 眼は切れ長で、琥珀のような光がそこにはあった。
 美しいと、その様に評しても殊更反対するものはいないだろう。

 地味なカートルに身を包んでいて、それが却って、容姿の華やかさを目立たせていた。
 すらりとした体型と、豊かな胸の隆起が男の目を引く。
 猫のように細い尻尾が、床の上で動いていた。

 村に至る道の途上で、飢えと渇きで倒れていたのがノヤである。
 牙蟲が村まで運び、快復するまで面倒を見たのであった。
 以来、事あるごとに牙蟲の元をノヤは訪れている。 

「お邪魔でしたでしょうか」

 丁寧な口調で言った。
 気にした様子もなく、牙蟲は首を横に振った。

「いや、別に」
「それは良うございました」

 艶やかに笑ったノヤは、籐籠を提げている。
 そこから、何やら良いにおいが漂っていた。

「ウーブリを焼きましたので、お持ちしたのです」

 小麦粉と卵で作った生地を丸く焼いた素朴な菓子が、ウーブリである。
 そのまま食べたり、中にジャムを包んで食べたりする。
 香ばしいにおいの元は、それであった。

 においに釣られたのか、亜人の子供が、わらわらとノヤの元に集う。
 小さく微笑んで、ノヤが籐籠の蓋を開けた。
 一層、焼き菓子のにおいが強くなる。

 子供たちの眼が、輝いた。
 そうそう、菓子など口に出来るものではない。

「たくさん作ってきたから、順番よ」

 言って、一つずつ小さな菓子を籠から取り出した。
 子供たちが、嬉しそうにそれを受け取る。

 菓子が全員に行き渡ったのを確認し、ノヤが頷いた。
 そして、胡座をかいている牙蟲の傍に、ふわりと腰を下ろす。

「牙蟲様もどうぞ」

 しな垂れ掛かりながら、ノヤが牙蟲の口元にウーブリを運んだ。
 女の指に摘まれると、地味な焼き菓子が、妙に艶やかである。

「おう、済まんな」

 細くて白い指を気にせず、牙蟲は差し出されたウーブリにぱくついた。
 見計らったように、ノヤが自分の指を牙蟲の口の中に差し込む。

「む」
「あ!」

 牙蟲が唸り、セタが声を上げた。
 笑みを浮かべたまま、ノヤが牙蟲の唇をなぞる。
 それから、自分の指先を口に含んだ。
 指に付いた、焼き菓子の欠片を拭うためなのだろうが、やけに扇情的である。

 呆気にとられたように、セタがその光景を眺めていた。
 しかし、我に返ると、声を上げる。

「牙蟲さま!」
「お、おう、何だ」
「少し、お待ち頂けますか」
「え、あ、おう」

 常には見掛けたことのない、亜人の少女の迫力に押されて、牙蟲は頷いた。
 返事を聞いたセタが、急ぎ足で部屋から出る。

 すぐに、セタは戻ってきた。
 手には小さな甕を持っている。
 酒が入っているらしい。

「牙蟲さま、咽喉が渇きませんか」

 尋ねた。
 妙に力が籠もっている。

「あ、ああ」

 答えを返す。
 殆ど同時に、セタが牙蟲の目の前に立った。

 甕の中身を口に含む。
 それから、牙蟲と唇を重ね合わせると、酒を流し込んだ。
 ちゅ、と濡れた音がする。

 何か言いたげな表情を牙蟲が見せるが、取り敢えず、口中の酒を嚥下した。
 咽喉が、こくこくと動く。
 ゆっくりと、セタが唇を離した。
 赤い舌先が、牙蟲の口腔から引き抜かれる。

 セタが、じっとノヤを見た。
 ノヤが、視線を返す。
 興味深そうな色が、その表情に浮かんでいた。

「け、けんかはダメだよ、セタおねーちゃん、ノヤおねーちゃん」

 アユシュニが、不穏な空気を察して間に入ろうとする。
 隣にいたシュシュが、猟犬のような耳を動かして、首を振った。

「あれは喧嘩じゃないわよ」
「?」
「修羅場って言うのよ」

 何処で覚えたんだ、と牙蟲は肩を竦めた。
 しかし、それで事態が改善されるわけもない。

「では牙蟲様、もう一つどうぞ」

 平然と、ノヤがウーブリを差し出した。

「牙蟲さま、お酒の用意はいつでもできていますから、ご安心下さい」

 気合いを入れて、セタが小さな甕を構える。
 やれやれと、牙蟲は溜息を吐いた。
 結局の所、セタとノヤによる、牙蟲を挟んでの遣り取りは夕刻辺りまで続いたのであった。

 日々が過ぎていく。

 安穏とした日々だが、それが何時までも続くものではないという予感も、またあった。
 骨の髄を蝕む腫瘍のように、亜人の心には運命への不安が巣くっている。
 そして、その不安は現実となって、牙蟲の前にあった。

 屍体である。
 男の亜人の屍体であった。

 ここは、村から見て東北に位置する山の中である。
 太い、白木の枝を組んだ台の上に、男の屍体は置かれていた。

 日の辻には、あと数刻ほどある時間帯である。
 しかし、周囲は薄暗い。
 捻れた枝を持つ?の木が、葬送の参列者のように立ち並んでいた。

 男の屍体は仰向けになっていて、眼は閉じられている。
 赤茶けた髪をした、痩せた男であった。

 肌が、蝋のように白い。
 どうやら、体内に殆ど血が残っていないらしかった。

 ぞっとするような苦悶の表情が、その顔面には刻み込まれている。
 余程、苦しい死に様であったのだろう。
 食い縛った歯から、今にも断末魔の叫びが漏れ聞こえそうであった。

 身に付けているのは、ずたずたになった脚衣だけである。
 裸形に近い。

 牙蟲は、法衣のような、マントのようなものを身に纏って、地面に直接座っていた。
 異形の右腕に押されて、法衣の輪郭は歪である。

 小さく、牙蟲は何かを唱えていた。
 この大陸の言葉ではない。

「オン・キリカクウン・ソワカ、オン・キリカクウン・ソワカ、オン・キリカクウン・ソワカ……」

 繰り返し、繰り返し、唱える。
 牙蟲の脳裏に、今朝の光景が蘇った。

 日が、山裾から昇り始めたばかりの時刻――。

 トゥナという亜人の家に、牙蟲とセタはいた。
 男の屍体が村の入り口近くで見付かったと言うことで、呼び出されたのである。

 村の指導者のような立場にあるのが、トゥナである。
 疲労と歳月の重みが、伸し掛かっているような容貌であった。

 毛の抜けた耳をしているのだが、その上半分が千切れて、無い。
 肌が、乾ききった枯木のようであった。
 眼は白く濁っていて、視線が何処にあるか、判然としない。
 百を越えた歳だと言われても、不思議ではなかった。

 身に付けているのは、他の住人と同じような、貫頭衣である。
 指導者とは言え、特に裕福なわけではない。

 主な役割は、作物の分配や衣料の調達であった。
 村が襲撃された際に、住人を避難させるのも役目の一つである。

 トゥナの家は、村の他の家よりも大きかった。
 寄合の場所に使われるためである。

 その家の、大きめの部屋の真ん中に、男の屍体が安置されていた。
 苦痛に歪んだ顔をした屍体である。
 死に際の激痛が、未だにこの男を苛んでいるようであった。
 その骸を挟んで、牙蟲とトゥナは対峙している。

 牙蟲と向かい合っているのは、トゥナだけではなかった。
 村の男たちの多くが、ここにいる。

 トゥナが黙って目配せをすると、脇に控えていた男が屍体を俯せにした。
 背中が、牙蟲とセタの眼に露わになる。

 セタが、息を呑んだ。
 その背中には、幾つもの深い傷が走っていたのである。
 確実に内臓へ達しているであろう、深々とした傷であった。
 大量の血が、噴き出したに違いない。

「こいつは……?」

 どのような動揺も見せずに、牙蟲が訊く。
 トゥナが、歯のない口を開いた。

「警告でございます」
「警告?」
「傷の数は、猶予の日数です」

 言われて、牙蟲は背中の傷を数えた。
 全部で十二ある。

「この日数が過ぎますと、村を襲撃するという警告です」

 牙蟲が、左眼を細めた。
 トゥナの言葉通りなら、二週間もしないうちに、村は襲われることになる。

「どいつの仕業なんだ」
「山間に潜む、星章騎士団でございます」

 淀みなく、トゥナが答えた。
 更に続ける。

「この予告された日までに、村中の食糧を集め、女を用意しなければなりません。少なくとも、今まではそうでした」
「今回は違うのか」

 その問いに答えたのは、トゥナではなかった。
 隣に控えていた、若い亜人の青年である。

「違う」
「どう違う」
「奴らと、戦う」

 きっぱりと言った。
 感情を表さずに、牙蟲が青年に視線を遣る。
 黄色と黒の縞模様が浮いた耳の持ち主であった。
 鼻の上に、枯れ葉のような痣が浮いている。

「あんたの所為だ」

 もう一人の男が言った。
 痩せた、野良犬のような風情の男である。
 家を修繕していた牙蟲に、絡んできたことのある男であった。

「屋根のある家だの、肉の入ったスープだの、毎日呑めるエールだの、初めてなんだよ、俺らは」

 自分の感情を持て余しているかのように、男が視線を左右に動かす。
 小さな土塊を吐くように、言葉を吐いた。

「もう、戦うしかねえんだ。前の暮らしには戻りたくねえ」

 悲壮な決意が顔に浮かんでいる。
 程度の差はあれ、この場にいる男たちは、全員同じ想いのようであった。

「だから、頼む。俺たちに戦い方を教えてくれ」

 言って、男達が頭を下げる。
 それを見る牙蟲の顔から、何かの感情を読み取ることは難しかった。

「二週間足らずで、やれることは限られてるぞ。それでもか」
「ああ」

 間髪を入れない答えである。
 牙蟲の法衣を、誰かが引っ張った。
 振り向けば、セタが裾を握っている。

「あの……」
「どうした」
「わたしからもお願いします」

 言ってから、背中を抉られた屍体を見た。
 空の色をした瞳は、意外な程、落ち着いている。

「わたし、牙蟲さまと一緒にいて、忘れていました」
「何をだ」
「今日と同じように明日も生き延びることが、とても難しくて、とても幸運なことだということです」

 思わず、セタの瞳を牙蟲は覗き込んだ。
 深く、青い色が湛えられている。

 亜人の日常が、牙蟲の脳裏に浮かんだ。
 それは、突然の死と理不尽な暴力に満ちている。

 腹を蹴飛ばされ、吐瀉物に塗れたまま死ぬ子供がいる。
 手脚を切り落とされ、娼館に飼われる女がいる。
 犬をけしかけられ、生きながら喰われる男がいる。

 それが、常のことなのだ。
 この村にいる亜人は、全てそのような日常を潜り抜けてきたのである。

「お願いします」

 もう一度、セタが言った。
 裾を握る小さな手が、血の気を失って白い。

「……分かった」

 囁くように、牙蟲が言った。
 それから、トゥナを見る。

「確認だが、騎士団の行動は、何時も予告通りなのか?」
「どういう事でしょう」
「傷の数よりも早く、襲撃を実行したりはしないのか」
「む……」

 老いた亜人が、考え込む。
 慎重な口調で言った。

「今まで、傷の数と略奪の日がずれたことはありません。ですが……」
「もし、この村が騎士団に抵抗しようと画策すれば、話は別か」
「恐らく」

 牙蟲が左眼を細める。
 感情の見えない表情であった。

「あまり、気色の良い術じゃねえが」

 呟いて、牙蟲が屍体を担ぎ上げる。
 驚く亜人達に、冷静な口調で告げた。

「屍体を使った術をやる。反対なら今、言え」

 見渡す。
 誰も、言葉を口にしなかった。
 その沈黙を破ったのは、菫色の髪をした少女である。

「牙蟲さま」

 セタが、名を呼んだ。
 一呼吸置いて、言葉を続ける。

「覚悟は、出来ています」

 はっきりとした物言いであった。
 その視線にも、迷いがない。

「ですから、ご安心を」

 セタの言葉に、異を唱える者はいなかった。
 朽ち果てた老木のようなトゥナが、静かに、頭を下げた。

 そして、牙蟲は屍体と共に山に入ったのである。

 今朝見たときと、変わらぬ様子のまま、男の屍体が目の前にあった。
 牙蟲は、奇妙な音律で、奇妙な文言を繰り返している。

 微かに、大気が震えた。
 ぴりぴりと、空気が帯電していく。

 生温い風が、何処からか吹いた。
 錆びた金属のようなにおいが、混じっている。

 血のようなにおい。
 腐った肉のようなにおい。
 朽ちた骨のようなにおい。
 その様なにおいが、満ちていく。

 日が翳った。
 雲が、陽光を遮ったわけではない。
 光そのものが、弱くなったのである。
 まるで、大気に潜んだ何かが、地表に注ぐ光を途中で食んでいるかのようであった。

 そうして、完全に、闇が降りる。
 先程と変わらず、空には太陽が輝いているのに、光がない。
 白い穴が、ぽっかりと天に開いたようであった。

 ごう、と風が逆巻く。
 今までのものより、腐敗臭が遙かに濃い。
 固形物のような、腐臭であった。

 牙蟲が、閉じていた右眼を開く。
 不気味で、奇怪な眼であった。

 眼窩が常人の倍ほどもある。
 しかも、その中に瞳が三つもあった。
 色は、吹き出したばかりの鮮血を想わせる真紅である。

 その三つの瞳が、ぐりぐりと動いていた。
 逆三角形を象って、静止する。

 眼前で、屍体が立ち上がっていた。

 閉じられていた筈の眼が、開かれている。
 真っ黒な瞳には、何も映ってはいなかった。
 口が、信じられないほど大きく開く。

 ごぼごぼと、重油が沸くような音がした。
 顔の穴という穴から、ヘドロのようなものが溢れ出る。
 しかも、その真っ黒な液体は、煙のように頭上に昇っていった。

 ぐるぐると逆巻いて、ヘドロが何かの形を成していく。
 それは、女の姿をしていた。

 しかし、とても人間の女には見えない。
 眼は飢えた狼のようにぎらぎらと光り、口からは互い違いに牙が伸びている。
 首に掛かっているのは、髑髏を繋げた装身具であった。

 手と足には、血の滴る臓物を幾重にも巻いている。
 腰を覆っているのは、獣毛が付いたままの生皮であった。
 身の丈は、牙蟲の倍はある。
 鬼神であった。

 その鬼神が、骨張った脚で、立ち上がっていた屍体を踏みつけた。
 べきべきと、台を支えていた枝が、折れる。
 細かな木片が飛び散った。
 
 鬼神が、右手で屍体の脚を千切り、左手で腕をもぎ取る。
 黄色い眼で、牙蟲を睨んだ。

 ふ、ふ、ふ、と血腥い息を吐く。
 何度も何度も、屍体を踏む。

 その都度、踏みしだいた屍体から青白い炎が灯った。
 見れば、背中の傷口から、燐火は立ち昇っているのである。

 炎の数が、十二になった。
 不気味な陰火に照らされながら、鬼神が牙蟲を睨め付ける。
 しかし、牙蟲に辟易ろいだ様子はない。

 白い外骨格に覆われた巨大な腕が、己の懐を探った。
 小さな符を取り出し、鬼神に向けて放つ。

 天魔外道皆仏性
 四魔三障成道来
 魔界仏界同如理
 一相平等無差別

 外つ国の言葉が、刻まれていた。
 それを、鬼神が歯で受け止める。
 札を銜えたまま、口が裂けるほどに、鬼神が笑った。

 か、か、か、か。

 樹々を震わせて、鬼神が大笑する。
 す、と空気に溶けるように鬼神の姿が消えた。

 残されたのは、背中に十二の鬼火を背負った、屍体である。
 ごう、と地響きのような音を立てて、炎が一際大きくなった。

 屍体が、青白い炎に包まれる。
 砕かれた白木の枝が、一瞬で煙と化した。

 余程の火力なのか、溶鉱炉に放り込まれた飴細工のように、男の屍体が溶けていく。
 数秒で、男の屍体は灰すら残さず、消え失せた。

 だが、十二の炎は、尚も虚空に浮いている。
 ゆらゆらと揺れながら、妖しい光を放ち続けていた。

 ごつい右腕で、牙蟲が天を指す。
 それに導かれるように、怪火が空に向かった。

 樹々の梢を越えたところで、一斉に分かれていく。
 十二の方位に、それぞれ向かっていった。
 炎の塊が樹々の向こう側に消えると同時に、陽光の明るさが戻る。
 先刻までの陰鬱な空気が、嘘のように霧散していた。

 既に、牙蟲は立ち上がっている。
 これで、鬼神の加護を受けた死霊が、十二日間はこの村を守るだろう。
 その間に、村の亜人達に戦う術を教えてやらねばならない。
 村そのものも、あれこれと手を加える必要があるだろう。

 そこまで考えて、牙蟲の口の端が、自嘲気味に歪んだ。
 俺は、何を真剣に考えているのか。
 何者にも囚われず、勝手気儘に生きてきた男が、今更何をやろうというのだ。
 亜人の男が言った、「あんたの所為だ」という言葉を真に受けているのか。

 く、く、く、と牙蟲が小さく笑った。
 らしくない考え方であった。

 今までの生き様だとか、考えだとか、それが何だというのだ。
 必然などではなく、宿業などでもなく、ただの偶然が、自分をこの村に引き寄せた。
 その中で、しがらみもできた。
 亜人のガキの相手をするのも、まあ、悪くはない。

 だから、ちょっとした気紛れで、この村を守る。
 やるからには、手を抜かない。

 それだけのことだ。
 実に、自分らしい遣り方ではないか。

 付け加えるならば――。
 死んだ男の、苦痛に満ちた表情を思い出す。
 村を襲う外敵に対して、牙蟲が全ての責を負えるものではない。

 それは、分かっている。
 だが。

「代償は支払って貰うぞ」

 呟いた牙蟲の右眼が、形容しがたい赤光を放った。
 ざわ、と樹々がその葉を揺らした。

 この日より、亜人の村は、急速にその姿を変えていく。
 牙蟲が指示したのは、次のようなものであった。

 前方に壕を掘り、その土を利用して土塁を巡らせる。
 要所に馬防柵を築く。
 造りかけであった、貯水池を完成させる。
 物見のための矢倉を建てる。

 勿論、一朝一夕にできることではない。
 村人が総出で、この作業に就いたのであった。

 とは言え、亜人たちに土木の知識などなかったし、防御施設の基礎も分からない。
 指示を出したのは、牙蟲である。
 当然のように、牙蟲もその作業に参加した。

 亜人に交じって土を掘り、泥に塗れる。
 木を切り出しては、組み立てる。

 掘り返された土が積まれた、小山。
 矢倉のための、太い木を組んだ土台。
 その間を多くの亜人たちが行き来するのが、当たり前の光景になった。

 じりじりとした焦燥感が、村全体を炙っている。
 期限は、十二日間しかない。
 二週間も経たずに、完全装備の騎士団が、この村を襲うのだ。

 しかし、日々は淡々と過ぎていく。
 頼まれなくても太陽は昇り、懇願しても太陽は沈む。

 そして、日限が、遂に翌日に迫った夜のことである。

 空には、薄く雲がたなびいていた。
 半分になった月が、空の端に傾いている。
 星の輝きも相俟って、大気そのものが、光を孕んで青く輝いていた。

 ぼんやりとした輝きを含んだ大気を、湖底の大魚のように呼吸しながら、牙蟲は座している。
 相変わらず、殺風景な部屋であった。
 胴が膨らんだ水瓶が部屋の隅にあり、その反対側に錆びた燭台がある。
 寝台として使っている架台は、古ぼけていて、表面はささくれ立っていた。
 目に付くものと言えば、それぐらいである。

 ゆらゆらと、燭台の炎が揺れていた。
 牙蟲が身に纏っているのは、シクラスと呼ばれる袖無しのチュニックと、脚衣である。
 そのため、牙蟲の歪な怪腕が剥き出しになっていた。

 炎に照らされている牙蟲の顔に、余り見受けない表情が浮かんでいる。
 困惑であった。
 その原因は、目の前にある。
 いや、あると言うよりは、いると言うべきだろう。

 二人の亜人が、牙蟲の前に座って、こちらを見ているのである。
 セタとノヤであった。

 ダルマティカに身を包み、牙蟲と対面している。
 セタは何時になく硬い表情で、一方のノヤは口元に柔らかな笑みを浮かべていた。
 赤い唇が、普段にも増して艶やかである。

「もう一回、言って貰えるか」

 牙蟲が、困惑した表情のまま、言った。
 対照的に、余裕のある顔でノヤが口を開く。

「わたくしを、抱いて頂きたいのです」

 気負いのない口調であった。
 切れ長の眼が、涼しげである。

「なんで」

 当然の疑問を、牙蟲が口にした。
 セタも何か言いたげであったが、黙している。

「明日、人間たちがこの村を攻めるのでしょう?」
「そうだな」
「勝てると思われますか」

 率直な問いであった。
 だから、牙蟲も直截に答える。

「勝ち目がないわけじゃねえが、厳しいだろうな」
「死人も出るのでしょう」
「ああ」
「だからです」

 言ってから、ノヤは、微妙な色合いの瞳で牙蟲を見た。

「一生に一度くらいは、自分の意志で、殿方を選びたいというのは贅沢ですか」

 その様なことを、言った。
 琥珀色の瞳が、美しい。

「あの」

 隣に座っていたセタが、声を発した。
 視線を、牙蟲がそちらに向ける。

「ノヤさんの気持ちは、わたしにも良く分かります」
「そうか」
「で、ですから、その、今夜は……」

 途中で、セタが口籠もった。
 その先を口にするのは、抵抗があるらしい。

「勿論、セタさんも一緒にお願いします」

 にこやかに、ノヤが続けた。
 今度は、牙蟲の表情が固まる。

「なに?」

 訊き返す。
 ノヤとセタの顔を、交互に見た。
 俯いて目を合わせないセタと、微笑を浮かべたままのノヤを見比べる。

「意味が分からないんだが」
「そのままの意味ですわ」

 言われて、牙蟲は目を瞬かせた。
 セタが、視線を下に向けたまま、頬を紅潮させる。

「二人いっぺんに相手にしろと」
「はい」
「本気か?」
「至って本気ですわ」

 平然と、ノヤは言った。
 落ち着いている。
 がりがりと、牙蟲が後頭部を左手で掻いた。

「なんで、そんな話になったんだ」

 尋ねる。
 別段、良識家を気取る心算はないが、女二人を相手にしなければならないほど、持て余しているわけでもない。

「彼女が、自分で言ったのです」
「セタが?」
「はい」

 形の良い顎を引いてノヤが頷き、牙蟲が灰色の眼でセタを見る。
 相変わらず、セタは俯いたままだ。
 真意を確かめようと牙蟲が口を開き掛ける。

「き、牙蟲さま!」

 セタが、機先を制した。

「お、おう」

 呼吸を外されて、牙蟲が思わず答える。
 頬どころか、身体全体を上気させて、セタが言葉を紡いだ。

「あの、ですね、ノヤさんの言うことも、その、良く分かるのですが、やっぱり、牙蟲さまが、わたしの知らないところでですね、女の人と、その、あの、仲良くするというか、接近するというか、い、致してしまうというのは、わたしには耐えられなくて、その、でも、ノヤさんの気持ちも分かるので、ですから、その、わたしの見ているところでなら、まだ、良いかなと思いまして」

 一気に言ってから、ちらちらと牙蟲を見る。
 息継ぎなしで喋った所為か、それとも、別の要因からか、呼吸が荒かった。

「そう言うわけですので、二人纏めてお相手を願いますわ」

 ノヤが、言葉を継ぐ。
 む、と牙蟲は乗り気でない声を出した。

「しかしなあ」
「それぐらいの器量はありますでしょう?」
「器の問題なのか、それは」
「それとも、女を二人、扱った経験はございませんか」
「いや、なくはないが」

 言ってから、牙蟲が、しまった、という顔をした。
 ちらりと、視線を横に走らせる。

 案の定、セタが睨むような目付きでこちらを見ていた。
 余り、怖くないが。

「どういうことですか」

 訊いた。
 じっと、牙蟲を見ている。

「あー、それは、だな」

 牙蟲が、言葉を探す。
 少し間を置いてから、口を開いた。

「そう言う術があるんだよ。こう、墓場で陣を描いて、集団でまぐわうという奴で……」
「……」

 身振り手振りで解説すると、セタが黙り込んだ。
 小さく、何事かを呟いている。

「ど、どうかしたか」

 恐る恐る訊くと、セタが牙蟲を真正面に見た。
 涙目になっている。

「牙蟲さま」
「お、おう」
「その時は、何人ぐらいの方と、その、なさったのですか」
「え」

 思い掛けない問いに、牙蟲が言葉に詰まる。
 暫し考えた。

「中台八葉院だったから、八人、か」
「はちにん……」

 セタが、牙蟲の言葉を繰り返す。
 肩を落とした。

「酷い御方ですね、牙蟲様は」

 追討ちをかけるようなことを、ノヤが言った。
 しかし、言葉とは裏腹に、何処かこの状況を楽しんでいるような響きが、そこにはある。

「待て待て、セタと出逢う前の話だぞ。俺は悪くないだろう」

 抗弁するが、セタは俯いたままだし、ノヤは艶然として牙蟲を見ているだけだ。
 兎に角、セタを宥めるのが先である。

 呼吸二つ分ほどの間考えて、牙蟲がセタを抱き寄せた。
 あっさりと、小柄な身体が怪異な腕に収まる。

「昔の話だぞ」

 牙蟲が言うと、セタがこくんと頷いた。

「そもそも、儀式の一環で、必要だからやったまでだ」

 また、素直にセタが頷く。

「おまえが、一番だからな」

 頭を撫でながら言うと、空色の瞳でセタが牙蟲を見上げる。
 どうやら、納得してくれたらしかった。

 ゆっくりと、セタの尾が左右に揺れる。
 横から、ノヤが口を挟んだ。

「では、わたくしは二番目ですね」
「雑ぜ返すなよ……」

 疲れた口調で言うと、セタの顔に、微かな笑いの波紋が現れる。
 顔を、牙蟲の胸に押し付けた。
 くすくすと、笑っている。

 何か言おうとして、牙蟲が視線を下げると、セタが不意に唇を重ねた。
 薄く色づいたピンクの舌先が、牙蟲の唇を舐める。

「うれしいです」
「ん」

 言われた牙蟲の反応は素っ気ない。
 その目の前に、ノヤが躙り寄った。

「では、わたくしも」

 そう言って、唇を牙蟲の頬に押し付ける。
 口にしなかったのは、セタへの配慮であろうか。

 セタが、もう一度、牙蟲と唇を重ねた。
 互いに舌を絡め合う。
 そろそろと、ノヤが近付いた。

 気付いたセタが頷くと、ノヤも牙蟲の唇に舌を伸ばす。
 三匹の蛇のように、舌が絡まった。

 にちにちと、音がする。
 唾液を啜った。
 滑った感触が、口内に広がる。

 セタの舌は、小さくて、熱いぐらいに火照っていて、可愛らしい。
 ノヤの舌は、セタのよりも長く、血の色が濃く、艶めかしい。
 その感触をたっぷり味わって、牙蟲が口を離した。

 ぷは、と息継ぎをする。
 すぐに、セタが唇を合わせた。
 手を繋ぐ。

 段々と、セタの細い身体を、牙蟲が押し倒していった。
 口を吸う。

 セタの茶色い尻尾が、ゆっくりと左右に振れた。
 貪っている様子が、外からでも分かる。

 ノヤが、牙蟲の首筋を軽く噛んだ。
 それから、自分の尻尾を牙蟲の手首に巻き付かせる。
 天鵞絨のような感触が、伝わってきた。

 牙蟲とセタが、唇を離す。
 柔らかく、ノヤの黒い尾が牙蟲の手首を締めていた。

「先ずは、セタさんからですね」

 言って、ノヤがセタの背後に回る。
 名残惜しそうに、猫に似た尻尾が牙蟲の手首から離れた。

「セタさん、両手を挙げて下さい、はーい」

 幼児をあやすように、セタの腕を上げさせて、ノヤが裾を引き上げる。
 首元まで、ダルマティカの裾が捲れ上がった。

 簡素な下穿きが見える。
 慎ましやかな胸も露わになった。

「は、恥ずかしいです」

 セタが、呟く。
 しかし、両腕をノヤが押えているので、胸を隠すことも出来なかった。

「綺麗な肌ではないですか。羨ましいですよ」

 膝の上にセタの頭を置いて、ノヤが賞賛する。
 確かに、体付きは幼いものの、セタの肌は滑らかできめ細かった。

「全くだ」

 同意して、牙蟲がセタの小さな乳房に指を這わす。
 指先が、柔らかい感触に包まれた。

 決して肉付きの良い体格ではないセタであったが、その柔らかさは実に女らしい。
 ふにふにと、膨らみかけの胸を牙蟲の左手が弄んだ。
 ごつい右腕が、外見にそぐわない器用な動きでセタの下穿きをずらす。

「あら」

 少し、驚いたような声をノヤが上げた。
 視線は、セタの脚の付け根にある。
 正確には、少女の性器を見ていた。

 造りが幼い。
 土手はふっくらとしており、無毛であった。
 お陰で、ピンク色の細い筋がはっきりと見て取れる。

「変、ですか……」
「まさか。可愛らしいですよ。ね、牙蟲様」
「おう」

 促されて返答するが、よくよく考えれば少女の身体を、女と男が品評しているのである。
 余り、真っ当な状況には思えなかった。
 しかし、今更、気にしても仕方がない。

 セタを安心させるためにも、左手をその秘所に伸ばす。
 指先が、軽く秘裂に触れた。

 肉の弾力が伝わってくる。
 そこに、粘つく体液の感触も混じっていた。

 人差し指を、差し込んでいく。
 最初は抵抗感があったが、そこを越えて、指の第一関節までを入れた。

 締め付けが、きつい。
 はう、とセタが息を漏らした。

 ぐにぐにと中で動かす。
 指の先端が、セタの膣道の上側を擦った。

 少女を刺激する箇所を熟知しているらしく、牙蟲の指が動く度に、セタの腰が跳ねる。 
 興味深そうに、その様をノヤが見ていた。
 視線に気付いてセタが首を振る。

「や、だ……。見ないで」

 懇願する。
 膝枕をした体勢で、ノヤがセタの顔を覗き込んだ。

「どうして? とても素敵ですよ」

 羞恥に、セタの火照った身体が更に赤くなる。
 指が肉の奥を突いた。
 ぎゅ、と締め付けがきつくなる。

 中を進んでいる人差し指と、外側の親指で、少女の肉を挟んだ。
 刺激が強くなりすぎないよう、加減しながら擦る。

 肉と肉の合わせ目を、親指の腹で軽く押した。
 粘っこい液体が、少しずつ溢れてくる。

 中に差し込んだ指が、絞り上げられた。
 膣襞の、つぷつぷとした粒が指を包んでいる。

 ふ、ふ、と途切れた声をセタが上げた。
 幼い秘裂から粘ついた愛液を流している。
 腰を跳ね上げているため、まるで、見せ付けているようであった。

 膝が、がくがくと震えている。
 肌に汗が滲んでいた。

「大丈夫か」

 何時もより激しい反応に、牙蟲が声を掛ける。
 息を荒げながらも、セタが、こくん、と頷いた。
 上気した身体から、甘い香りが立っている。

 そろそろと、指を引き抜いた。
 吸い付くような感触が、指に残る。
 指の先端が抜けきる寸前に、また、セタの身体が震えた。
 呼吸が治まるまで、少し待つ。

「力は抜けよ」

 言うが、元よりセタは脱力している。
 身体に力が入らないのだ。
 牙蟲が、脚衣をずらして自分のものを取り出した。

「まあ」

 声を上げたのは、ノヤである。
 視線を、牙蟲がそちらに向ける。

「どうかしたか」
「いえ、ご立派だと思いまして」
「十人並みだろ」

 答えるが、牙蟲の陽根は全体的にごつい造りをしている。
 醜悪と言ってよい外観で、これが、セタのような少女の胎内に入るのは中々に嗜虐的であった。

 黒々とした肉の凶器を、牙蟲がセタの秘裂に宛がう。
 鈴口と秘唇が触れ合って、ちゅ、と濡れた音がした。
 ぬるりとした粘膜に包まれて、牙蟲が自分の陽根を少女の淡い裂け目に捻り込む。

 指の時よりも、一層きつい締め付けが、陽根の先端を包んだ。
 何度もセタを抱いているのだが、この感触はいつまで経っても最初の頃と同じである。

 華奢な腰に両腕を回し、牙蟲が腰を突き入れた。
 怪物じみた右腕が、セタの白い身体を支えている。

 ゆっくりと、セタの肉の襞を味わうように、牙蟲の陽根が侵入した。
 狭い肉の道を掻き進む度に、セタの口から吐息が零れる。
 反らした胸の上で、二つの先端が硬くなっていた。

「動くぞ」

 言うと、僅かに牙蟲が腰を引く。
 それから、時間を掛けて奥へと進めた。
 こつ、と音がしてセタの一番深い箇所に、牙蟲のものが届く。

 その刺激に反応して、また、牙蟲の肉茎にセタの襞が吸い付いた。
 細かな凹凸が、男の生殖器を包む。

 赤子を揺さぶるような穏やかな動きで、牙蟲がセタの内側を擦った。
 仔犬が甘えるような声を、セタがその度に上げる。

 その様子を、ノヤは、じっと見詰めていた。
 ダルマティカを捲り上げたときから、ずっと、セタの腕を押さえたままである。

「おい」

 牙蟲が、ノヤに声を掛けた。
 熱に浮かされたような表情を、ノヤはしている。
 視線はセタの表情にあるのに、焦点はそこになかった。

「どうかしたのか」
「い、いえ」

 返事も、取り繕うような響きがある。
 とは言え、それを追求するよりも先に、ノヤに頼むことがあった。

「済まんが手を放してやってくれ。流石に辛そうだ」

 その言葉に、ノヤが驚いた顔をする。
 実際の所、腕を押さえ付けられたセタは、少なからず苦しそうであった。

「え、あ、はい」

 おずおずと手を放す。
 牙蟲が、セタの上半身を起こして抱えた。
 挿入していた角度が変わって、牙蟲の陽根が、また違う箇所を押す。

 ふあ、とセタが息を吐いた。
 裾が下がって、腹の中程が隠れる。

 見えない分、牙蟲の陽根の動きが想像されて淫靡であった。
 少女の肉の道を、牙蟲が掻き混ぜる。
 ゆっくりと、丁寧に、感じるところをつついた。

 白く泡立った愛液が、音を立てて流れる。
 牙蟲が、腰の動きを大きくした。

 陽根が出入りする度に、セタが色づいた息を吐く。
 完全に、自分の身体を牙蟲に預けていた。

 ぐったりとしているが、埋めた腰の中は、牙蟲のものを貪欲に味わっている。
 奥の子宮口に、何度も牙蟲の先端が触れた。
 がくがくと震えている。

「いきそうか?」

 牙蟲が尋ねると、セタが息も絶え絶えに頷いた。
 更に大きく、セタの胎内を捏ねる。

 ぐじゅぐじゅと、粘液質の音が連続した。
 ぱたぱたと、セタが尾を振る。

 腰を、思い切り押し付けた。
 ぶるぶると、セタの全身が震える。

 身体の深奥で、牙蟲が精汁を放ったのがセタの子宮に伝わった。
 啜り上げるように、膣道が収縮する。
 熱いものが胎内を満たしていく感触に、これ以上はない安堵を、セタは覚えていた。

 射精が済んでも、牙蟲とセタは一時、抱き合ったままである。
 首筋に口付けて、セタは、牙蟲の汗を味わっていた。
 少女が落ち着くまで、牙蟲はされるが儘になっている。

 呼吸が静まった頃合いを見計らって、牙蟲は陽根を引き抜いた。
 こぽり、と音がする。

 少女の愛液と、蠱術師の精液が混じったものが溢れた。
 手際よく、それを亜麻布の端で拭き取ると、セタを寝台代わりの架台の上に横たえる。

「少し、待っていろ」

 言われて、セタは幼子のように頷いた。
 思わず、牙蟲がセタの頭を撫でる。
 癖のある、菫色の髪を梳いた。

 それから、牙蟲がノヤの方を向く。
 僅かに、ノヤが肩を竦ませた。
 今更、脅えたりする故もないだろうが、牙蟲の顔に疑念が浮かぶ。

「どうかしたのか」
「いえ、何でもありませんわ」

 答えるが、声が動揺しているように、牙蟲には聞こえた。
 しかし、その理由が分からない。
 考えても仕方がないので、牙蟲はノヤの身体を抱き寄せた。

 また、びくり、とノヤの身体に震えが奔る。
 取り繕うかのように、ノヤが、牙蟲の股間に手を伸ばした。

「わたくしがしますから、牙蟲様はじっとしていて下さいまし」

 細い指が、牙蟲の陽根を握る。
 セタよりも慣れた手付きで、十本の指が淫水に塗れたものを包み込んだ。

 竿の部分を適度に締め付け、亀頭を指先で撫でる。
 再び、牙蟲の肉茎に血が集まっていった。
 徐々に、硬くなる。

 くすりと笑って、ノヤがダルマティカを脱ぎ捨てた。
 白い女のラインが、露わになる。

 衣服の上からも目立っていた二つの胸が、存在感を誇示して揺れた。
 ただ大きいだけでなく、若い女特有の張りがあり、乳首はきっちりと上を向いている。
 赤く熟した茱萸のような色合いであった。

 その双丘を惜しげもなく晒しながら、ノヤが半ば勃ち上がった牙蟲のものを口に含む。
 一息に、咽喉の奥まで呑み込んだ。

 奥歯で、獣臭のする陰茎を甘く噛む。
 舌が、骨のない蛇のように、牙蟲のものに纏わり付いた。

 狭い口内で、太い肉の凶器が蠢く。
 唾液と一緒に、ノヤがそれを吸い上げた。

 暫く、咽喉全体で牙蟲の性器を味わう。
 時間を掛けて、口の中から陽根を吐き出すと、全体が滑っていた。

 唾液で充分に湿らせたそれを、ノヤが豊かな乳房で包む。
 量感のある双丘が、牙蟲の肉茎を扱いた。

 醜悪な肉の槍が、白い胸の中で上下する。
 舌を伸ばして、ノヤが、鈴口をほじった。
 情欲を煽るように、上目遣いに、牙蟲を見上げる。

 それに答えて、牙蟲がノヤの耳に触れた。
 指の背で、軽く撫でる。
 無骨な指先だが、動きは優しげで、繊細であった。

 途端に、ノヤの顔に変化が生じる。
 頬が、見る間に赤く染まっていくのだ。
 慌てた風に、ノヤが牙蟲から離れる。

「ど、どうかしたか」
「い、いえ」

 何かと思い、牙蟲が問う。
 しかし、ノヤは首を振るだけであった。
 赤面していた顔が、元の白さを取り戻していく。

「もっと、乱暴にして下さいませ」

 媚びるような目付きで、ノヤが言う。
 雄を盛らせる、挑発的な視線であった。

 琥珀色をしたノヤの瞳を、牙蟲が覗き込む。
 赤い単眼が、三つ、隙間から見えた。

「綺麗なもんだな、おまえは」

 呟く。
 率直な物言いであった。
 う、あ、とノヤが言葉に詰まる。

 その隙を突いて、牙蟲が、ノヤの顎の下を指でくすぐった。
 みゅ、と仔猫のような声がする。

 牙蟲の動きが止まった。
 声を発したノヤも、赤くなって微動だにしない。
 面白くなったのか、牙蟲が更にノヤの顎を責めた。

「や、止めて下さい」
「可愛らしいな、おい」

 弱々しく懇願するが、牙蟲は聞き入れずに指を動かし続ける。
 堪えようとして、余計に奇妙な声がノヤの口から漏れた。

 益々、ノヤが赤くなる。
 畳み掛けるように、牙蟲は「可愛らしい」を連呼した。
 お陰で、ノヤの全身は上気し、ピンク色に染まっていく。

「もしかして苦手なのか、誉められるのが」

 無言で、ノヤは頷いた。
 童女のようである。

「牙蟲さま」

 不意に、背後から声を掛けられた。
 振り向くと、架台で休んでいたはずのセタがいる。

 シーツで、自分の身体を包んでいた。
 何やら、ご機嫌が余り宜しくないらしい。
 少々むくれていた。

「ど、どうした」

 尋ねると、拗ねた表情でセタが口を開く。

「羨ましいだけです」

 直截な言葉を、セタが発するのは珍しい。
 意外に思いながら、牙蟲が言葉を続けた。

「な、何が」
「わたしにはそんなに言って頂いたことがありません」
「え」
「か、可愛いとか……」

 恥ずかしくなったのか、セタの言葉はか細い。
 尤も、牙蟲は耳聡くその音を拾っていた。

「や、おまえも可愛いぞ」

 要望に応えて、牙蟲が言う。
 忽ち、セタの肌が朱に染まった。

 その間も牙蟲の指は止まっていない。
 親猫にあやされる仔猫のように、ノヤの口から気持ちの良さそうな声がした。
 ちらちらと、そちらをセタが見る。

「おまえもして欲しいのか」
「は、はい、お願いします」

 遠慮がちに、セタが近付く。
 怪腕を、牙蟲が伸ばした。
 巨大な爪で、セタの咽喉を撫でる。

 はう、とセタが声を上げた。
 不気味な腕と三つの兇眼を持った異形の蠱術師が、亜人の咽喉を撫で回しているのである。
 中々に奇態な光景であった。

 妙に濡れた吐息が、断続的に部屋の空気を震わせる。
 ん、とノヤが声を漏らし、脚を閉じた。
 短く痙攣している。

 濃い、女のにおいが漂った。
 どうやら、いってしまったらしい。
 牙蟲が手を止めた。
 荒い呼吸を、ノヤは繰り返している。

 くたりとした肢体を、牙蟲が抱き寄せた。
 横抱きにする。
 呼吸が落ち着くのを、牙蟲が待った。

「そろそろ良いか?」

 穏やかに尋ねる。
 黙って、ノヤは首肯した。
 乱れていた髪を、牙蟲が梳いてやり、整える。

 そして、正面からノヤを抱いた。
 軽く瞼に口付けをして、自分の陽根をノヤの陰に当てる。
 ぬるりと、淫裂が亀頭を咥え込んだ。

 中は、熟れて蕩けたようになっている。
 しっとりと、包み込むような肉襞であった。
 徐々に、牙蟲が腰を沈めていく。

「どうして、こんなに……」

 ノヤが、両手で自分の顔を隠して言った。
 表情は見えないが、声に嗚咽が混じっている。

「こんなに、優しくするのですか」

 牙蟲が、顔を覆っている手をどけた。
 潤んだ眼が覗く。
 朝露に濡れる、玉のようであった。

「そうしたいからさ」

 当然のように、牙蟲が答える。
 涙が透けて見える表情で、ノヤが笑った。

「本当に、酷い御方です、貴方は」

 熱いものが、ノヤの胎内を満たす。
 脚を絡め、両腕を牙蟲の首に回して、ノヤがしがみついた。

 柔らかな感触が、牙蟲を包む。
 快楽が、ノヤの肉から湧き出した。
 今まで感じたことのないような、深い場所からの、快感だ。

 犯されたことはある。
 奪われ、傷つけられたこともある。
 だが、こんな風に抱かれたことはなかった。

 初めての感覚に、ノヤは戸惑い、恐怖し、翻弄されている。
 甘い毒が、柔肉の奥から湧き出て、全身を侵しているようであった。

 それを、セタはじっと見ている。
 不思議なほど、セタの心は平穏であった。

 目の前で、牙蟲が自分以外の女を抱いているのに、嫉妬や焦燥をそれ程感じない。
 勿論、全くないわけではないのだが、それとは別の感情のほうが強かった。

 触れてしまったのだな、と少女は思う。
 今まで、一度も許されなかったものに、ノヤは触れてしまったのだ。

 在ることは知っていて、しかし、決して与えられなかったものに。
 自分には、どうあっても手に入らないと言い聞かせていたものに。
 そう言うものに触れてしまったのである。

 きっと、同じものになる。
 自分と同じものに、ノヤはなるだろう。

 捧げるのだ。
 血肉も、魂魄も――。
 悉く、彼の蠱術師に捧げてしまうだろう。

 そのことが、確信を持って予見できた。
 間違いのない、それは未来図であった。

 夜が、明ける。

 太陽が山際から上がり、光が徐々に村を照らした。
 星章騎士団を名乗る人間達が、村の襲撃を予告した期日である。

 村の男達は、誰に命じられた訳でもなく、普請した門の外側に集まっていた。
 その数、二百人ほどであろう。

 皆、似たような格好であった。
 くたびれたチュニックに、履き古した脚衣を身に付けているものが多い。
 全員が長物を手にしていた。

 先端が、枝分かれしたものだ。
 ピッチフォークと呼ばれる農具である。

 食事で使うフォークを、そのまま大きくしたような代物だ。
 尤も、食器のフォークが、ピッチフォークの機能を模したものなのだが。

 何にせよ、純粋な武器ではないことは確かであった。
 しかし、農具と言うことで多くの亜人にとって慣れ親しんだものではある。

 入手に関しては、牙蟲が奔走した。
 亜人と対等の取引をする人間は稀だが、皆無ではない。
 それを伝手に、遠方の農村も廻って、二百人分のピッチフォークを揃えたのであった。

 また、ピッチフォークに手を加えてもいる。
 第一に、柄の部分を組み立て式にして、継ぎ足せるようにした。
 通常なら子供の身長ぐらいの柄を、三倍以上に伸ばしたのである。

 次に、石突きを付けた。
 これにより、普段は農具として、有事の際には長槍として扱うことが可能になったのである。

 その様な武器を提げて、二百人は下らない亜人が集まっているのであった。
 太陽が、じりじりと昇っていく。

 昼が近付く頃、村の前方にぎらぎらとした輝きが見えた。
 陽光を反射する、金属の光だ。

 亜人たちがざわめく。
 土煙が上がっていた。

 人の声と、馬のいななきが聞こえてくる。
 旗幟が高く掲げられていた。

 目に染みるような黄色い生地に、輪光を放つ五つの星が刺繍されている。
 星章騎士団であった。

 砂塵を上げて、百五十騎の騎士が迫ってくる。
 しかも、それを上回る数の兵が、徒で騎士の前を進んでいた。
 当然と言えば、当然である。

 騎兵であれば馬の世話をする人間が必要であるし、また、護衛としても歩兵は必要であった。
 基本的に、大陸の戦法は歩卒と騎馬の組み合わせを前提としているのである。

 真っ先に歩兵同士がぶつかり、戦線を形成、そこを騎兵の突進力で打ち破る――。
 これが、当時の一般的な戦争の形態であった。

 歩兵を構成するのは、傭兵の他に、継ぐべき土地や財産を持たない貧乏貴族の末子が多い。
 戦場で勲を立てれば新たに家門を得ることも可能だからだ。

 一方の騎兵は、権門の出が殆どである。
 軍馬の維持費に加え、人馬双方の装備を揃える財力が、必要とされるからである。

 徒の兵は名誉を得るために戦い、馬上の兵は名誉を守るために戦う。
 その様に言われるのも、無理からぬ所であった。 

 村の前面に掘られた壕の手前で、砂煙が止まる。
 鎧に身を包み、思い思いの武器を手にした人間の一団と、粗末な服と農具を手にした亜人が対峙する。

 騎兵と馬が、見事な装飾が施された鎧に身を固め、輝く鞘に収まった剣を帯びているのに対し、歩卒の鎧はくたびれ、武器も古びているのが一目で分かった。
 しかし、それでも亜人の装備より、格段に上である。

 そんな歩兵の間を割って、一人の騎士が前に出た。
 亜人が、声を上げる。
 進み出た騎士が、余りにも異様な姿をしていたからである。

 鎧全体には過剰なまでの象眼細工が施され、赤や黄色に染められた頂飾りが、兜の天辺から伸びていた。
 左肩を防護するパウルドロンは正面から見た獅子の顔を象っており、背中からは羽のような飾りが幾つも張り出している。
 爪先を覆うサレットまで、長く尖っていた。

 どうやら、この男が騎士を率いているらしい。
 この村からやや離れた一帯を治める、領域君主の三男であった。

 男が、面頬を上げる。
 覗いた顔は、意外に若い。

 整っていた。
 形の良い眉をしており、形の良い鼻をしており、形の良い唇をしている。
 瞳は、橙色だ。
 その眼の形も、悪くない。

 余りに整いすぎて、人形のように思えるほどだ。
 表情が窺えないことも、その印象を強めている。

「星章騎士団の長、ジェストコストである」

 男が名乗った。
 木石が擦れ合った音のような、声である。

「貴様ら亜人は、不要である」

 断言した。
 迷いがない。

「神がこの世を創らんと欲せられたとき、その御業に与る栄誉を授けられたのは、我々人間である。正しい神を、正しく信仰し、正しい世界を創り上げる。それが出来るのは、我々人間のみである」

 無感動に、言葉を紡ぐ。
 僅かに息を継いだ。

「対して、貴様ら亜人は、世界にとって不要である。何故なら、聖典には亜人のことは書かれていないからである。正しい世界とは、亜人のいない世界である」

 いとも簡単に、一つの種族を無用とジェストコストは言明した。
 更に言葉を続ける。

「我々は、格別の寛恕を貴様らに与えてきた。我々は、貴様らが大地から盗んだ恵みを取り戻した。これにより、貴様らの偸盗の罪は赦されるだろう。我々は貴様らの咽喉を裂いた。これにより、貴様らの妄語の罪は浄化されるだろう。我々は貴様らの腹を割いた。これにより、貴様らの邪淫の罪は除かれるだろう。全ては、正しい世界のために、神に捧げられた正しい行為だ」

 亜人の村から作物を強奪し、男を斬殺し、女を犯して殺したことを、朗々と述べる。
 ジェストコストが眼を見開いた。

「だが、貴様らは我らの正しい行為を愚弄した。貴様ら如き亜人が……」

 それまで、一切感情の動きが見えなかった顔が、怒張する。
 太い血管が、米神に這った。

「人間の真似をするなど、言語道断である! 人間のように畑を耕し、人間のように歌い、人間のように飲酒するなど断じて許されない! 涜神行為である! よって、我ら星章騎士団は神の名に於いて、貴様らを殲滅する! これは神意である! 神命である! 神託である! 悉く、死に果てるべし! それが貴様ら亜人の天命である!!」

 言い放つ。
 そして、言い終わった途端に、その顔は無表情そのものに戻った。
 傲然と馬上から、亜人を見下ろしている。

 返す言葉が、亜人たちの脳裏には浮かばなかった。
 人間に生まれていれば当たり前であることを、否定されたのである。

 踏みにじられた衝撃が大きすぎて、声が出なかった。
 見下ろすジェストコストの視線に身が竦む。

 殺された仲間、守れなかった恋人、見捨てられた自分のことが、嫌でも思い出された。
 動けない。
 亜人の間に、諦念と絶望が急速に広がった。

 く、く、く。 

 笑い声が、何処からか流れる。
 張り上げるような大声ではないが、良く徹る声であった。

「む?」

 ジェストコストが周囲を見渡す。
 それ以外の人間も、視線を動かして声の主を探した。

「あそこだ!」

 誰かが叫ぶ。
 指さした先は、物見櫓の上であった。

 男が、いた。
 櫓の天辺で、悠然と座している。

 コープに良く似た、法衣のようなものを纏った男であった。
 カッツバルゲルと呼ばれる広刃の剣を抜き身のまま左手に持ち、肩に担いでいる。
 法衣が風に煽られて、凶鳥の翼のように広がっていた。

 身に付けているのは、シクラスと革製の脚衣という身軽さである。
 ベルトには、幾つか小袋が吊り下げられていた。

 しかし、目を引くのはその装束ではない。
 まずは右腕であった。
 怪物そのものの、巨大な右腕である。
 肘や甲から鋭い突起が生え、三本の指が牙のように太く、ごつかった。

 次は、開かれた右眼である。
 瞳が三つもあり、しかも地獄の溶鉱炉を思わせて、それらは煌々と輝いていた。

 その様な男が、膝を立て、三文芝居を鑑賞するかのように、人間と亜人を見下ろしているのである。 
 牙蟲であった。

「亜人に左袒する妖術師か……。貴様もこの村ごと滅ぼし、地獄へ落としてくれる!」

 馬上のジェストコストが、牙蟲に向かって怒号を発する。
 口の端を上げ、亀裂のような笑みを牙蟲が浮かべた。
 く、く、く、と声を漏らす。

「結構な御高説、痛み入るぜ、人間が」

 大地の裂け目から噴きこぼれる、瘴気のような眼光で牙蟲が眼下を睥睨した。
 異教の魔神の如く、豪胆放逸に言葉を放つ。

「おまえらはな、金粉を塗ったダニよ」

 侮蔑の言葉に、騎兵たちがざわめく。
 肌で感じられるほど、殺意と怒気が満ちていった。
 春の微風ほどにそれを受け流し、牙蟲が続ける。

「流麗華美な鎧に身を包みながら、やることは亜人の血を啜るだけ。正しくダニだろうが」

 言い放って、牙蟲は担いでいた広刃剣を掲げた。
 ぎらりと、白刃が光を反射する。

「おまえらの死生は今や俺たちの掌中にある。己の末路を知るが良い!」

 手にしたカッツバルゲルに、牙蟲が息を吹き掛ける。
 渾身の力で、投擲した。
 鋼の刃が風を巻いて飛ぶ。

 がん、と金属が金属を切り裂く音が響いた。
 同時に、ぶつん、と金属が肉を断つ音が響く。

 轡を並べていた騎士の一人が、首を刎ね飛ばされた。
 一拍置いて、首の断面から冗談のように血が噴き出る。

 誰も気付かなかったが、それは以前にこの村を襲おうとした、カッツバルゲルの持ち主であった。
 主人を斬首した広刃剣が、深々と地面に突き刺さる。

 櫓の上の牙蟲が、高く口笛を吹いた。
 呼応し、走り寄ってきたのは逞しい軍馬である。

 軽々と櫓から飛び降り、牙蟲がその馬の背に着地した。
 気力が萎えかけていた亜人に、牙蟲が叫ぶ。

「天に向かって尾を立てろ! あのダニどもに、目に物を見せてやれ!」

 最初の反応は、泡が弾けるような、ささやかな音であった。
 それが、瞬く間に大きくなっていく。

 微かな呟きのようであった声が、怒号となった。
 どよもす。
 亜人たちが、鬨の声を上げた。

 武装した歩兵に向け、突進する。
 戦いの幕が、切って落とされたのだ。

 それに応じるべく、歩兵たちが剣を抜く。
 人間側には、充分な勝算があった。

 亜人には碌な戦闘経験もなく、武装は農具に若干手を加えただけの貧弱さである。
 しかも、数の上でも人間が優位であった。
 亜人の数が二百ほどであるのに対し、騎士団は歩卒だけで二百、騎兵と合わせれば三百五十を超える。
 容易く打ち破ることが、可能なはずであった。

 勝利を確信し、人間が剣を翳して走る。
 しかし、忽ち、歩兵たちの進行は滞った。

 気が付けば、壕か土塁に邪魔され、一方にしか進めない地点に歩兵たちは集まっていたのである。
 吸い出されるように、深い壕と高い土塁によって、隘路に誘導されたのだ。

 この、壕を掘る地点や深さ、土塁の位置を示したのはセタである。
 正確には、牙蟲が画いた図面と実際の現場をセタが見比べて、遠慮がちに修正を加えたのであった。
 この世ならざるものを視る力を、セタは持っている。

 幻妖変化を見抜き、天運を観じ、地の霊脈を示す力であった。
 どうやら、この力は最も道理に合った有り様をも、見渡すものらしい。

 一口に壕を掘り、土塁を積み上げると言っても、考慮すべき要素は多い。
 土の硬軟、含まれる石の位置や大小、地下を走る水脈の流れ、植生、そこから導かれる適切な壕の深さと斜面の角度、土塁の高さ、長さ、幅など羅列すれば切りがない。
 その様な無数の要素を全て加味し、最適化された壕と土塁の構成をセタは感得したのであった。

 見鬼の力が示し、蠱術師が画き、亜人が造り上げた壕と土塁が、人間の軍勢を防ぐ。
 至る所で歩兵たちが固まり、身動きが取れなくなっていた。
 数の優位が、逆に枷になっているのだ。
 そこへ、亜人の一団が向かった。

 亜人たちに、戦闘の手解きをしたのは牙蟲である。
 ピッチフォークはその形状から、槍のように扱うべき武器ではあった。

 だが、槍の理合いは、一朝一夕に身に付くものではない。
 そこで牙蟲が亜人に教示したのは至極単純な戦法であった。

 常に三人一組で行動すること。
 リーチの長さを活かし、相手の間合いの外から徹底的に打ちのめすこと。
 相手が騎馬の場合、まずは落馬させること。

 この三点である。
 訓練には、牙蟲も参加した。

 騎兵役を務めたのである。
 以前に騎士から奪った馬に乗り、亜人に向かって突進したのであった。

 地上から見る騎兵というものは、想像以上に巨大である。
 それに慣れることが、まずは第一であった。
 また、軍馬の速度を体感する目的もある。

 初日は、恐怖の余り座り込み、失禁する亜人までいた。
 だが、今この瞬間に、その様な弱兵はいない。

 最早、亜人たちの間にあるのは、興奮と決意のみであった。
 進むも退くも難しくなった歩兵に、ピッチフォークの鉾先が風を切って向かう。
 上から、叩き付けられる。

 三本のピッチフォークが一人の歩兵に集中し、革の鎧を裂き、チェインメイルの隙間を貫いた。
 肋骨を抜けて、ピッチフォークの先端が内臓を掻き混ぜる。

 また、兜の上から与えられる衝撃で、意識を朦朧とさせた人間が何人も倒れ込んだ。
 手にした得物を振るおうとする者もいたが、隣の人間が邪魔でそれもままならない。
 加えて、土塁に設けられた狭間から、ピッチフォークが間断なく突き出された。
 血臭が立ち籠め、叫び声が満ち、金属が金属を打つ音が響く。

「くそ、兎に角抜けるぞ!」

 誰かが叫んで、亜人に向かって走る。
 剣ではなく、体当たりで活路を開く心算らしい。

 亜人がピッチフォークの切っ先を向けるが、上手く躱されてしまう。
 肩口からぶつかって、亜人の一人が倒された。

 それに続いて、数人の兵士が亜人に肉薄する。
 次々と、亜人が倒された。

 続いて、何十人もの歩兵が寄せ来て、亜人の壁が崩れる。
 真っ先に駆け出した男が、倒した亜人に馬乗りになり、斬りつけた。
 大した防具のない亜人の胸に、易々と長剣の刃が潜り込む。

 ごう、と獣じみた声を上げて、亜人が男を殴りつけた。
 鎧の上からのため、ダメージは殆どない。

 寧ろ、殴った亜人の拳が、砕けそうであった。
 しかし、怯まない。
 何度も殴り続けた。

 気圧されたのか、男が辟易ろいでバランスを崩す。
 上半身を起こして、亜人が男の顔面を殴った。

 ぐらついた男を突き倒し、亜人が立ち上がる。
 血を吐いた。

 周りを見れば、他の亜人も同じように倒され、傷を負っている。
 致命傷を受けたのか、ぴくりとも動かない者も何人かいた。

 このままでは、ここから人間たちが雪崩れ込み、村は滅ぼされてしまうだろう。
 胸を突き刺された痛みより、そのことが悔しかった。

「亜人め!」

 背後から、広刃剣を持った男が襲い掛かる。
 避けようとして、足が縺れた。
 金属の刃が、自分の脳天に向かってくるのが、やけにくっきりと見える。

 その刃が、空中で止まった。
 巨大な三本の指が、刃先を掴んでいる。

 馬に乗った牙蟲が、横から剣先を握ったのであった。
 力を込めると、刃に亀裂が入る。
 手首を捻り、完全に刀身を折った。

「ここは、おまえらの地獄だ。死神の馬が、おまえらの命を奪いに来るぞ」

 帯に括り付けた袋を、手に取る。
 中身を、宙に散蒔く。

 細い、枯れた色をしたものが幾つも風に舞う。
 柳の枝であった。

 元は、牙蟲が亜人の子供に与えた、馬の人形である。
 子供にとっては気に入りの玩具で、牙蟲はそれの修繕を何度も行っていた。
 その際に交換して取って置いた、傷んだ部分の枝である。

 空中で、擦り切れた柳の枝に、次々と緑の炎が点った。
 沼の上に浮かぶ、死者の魂のような色である。

 小さかった炎が、ぼ、と燃え上がった。
 人の背丈以上の高さになる。
 燃え盛る火柱が逆巻いて、一つの形を成した。

 馬だ。
 骨と肉が剥き出しになり、全身を緑の炎に包まれた馬であった。

 身体のそこかしこが崩れ、爛れた脂肪層が剥がれてしまっている。
 片眼は飛び出て虚ろな眼窩が見え、そこからは緑炎が噴き出ていた。

 鬣は燃えて、焦げ臭い異臭を放っている。
 ご、ぶるる、る、と腐ったはらわたを煮込むような嘶きを上げた。
 幾つもの火柱が、幾つもの妖馬と化したのである。

「バイラヴァとクマーリが仕立てた妖物だ。騎して幽明界を異にするがいい」

 バイラヴァとクマーリは、時に童男童女に仮託して顕わされる神々だ。
 無論、村の子供に異能があるわけではない。

 だが、子供をどのような存在と見做すかには、二つの潮流がある。
 一つの観方は、子供を聖なるものとする。
 子供を汚れのない存在として捉え、天に近いものと視するのだ。

 もう一つは、子供を人外とする観方だ。
 成人より、鳥獣や畜生に近いものとするのである。

 どちらにせよ、子を常人とは異なった何かと見做すことには変わりない。
 依童などというものが成立するのも、そこに起因する。

 そして、牙蟲が撒いた枝は、馬として、亜人の子供が引き千切れるまで遊んだ代物であった。
 聖とも魔ともつかぬものたちが仕上げた怪馬が、後脚で立ち上がって人間を威嚇する。
 柳の枝から生まれた無数の馬が、歯を剥き出して、歩兵へ殺到した。

 兵の腕を喰い千切る。
 頭蓋を踏み砕く。
 伸し掛かり、はらわたを吐き出させる。

 噛み付き、蹴り上げ、踏み潰した。
 人間たちが逃げ惑う隙に、牙蟲が指示を飛ばした。

「負傷した奴は村に戻れ!」

 しかし、腹から血を流しながらも亜人の男が言い返す。

「まだ、戦える!」
「そんな様じゃ、邪魔なだけだ。血止めをして、ベラドンナの葉を噛んで出てこい!」

 鋭い声で、牙蟲が命じた。
 ベラドンナには鎮痛作用があるが、傷を癒す力はない。
 所詮その場凌ぎだが、数で劣る亜人としては、一人でも多く、少しでも長く、戦場に兵力を配置することが最優先なのだ。

 戦線は硬直した。

 数で上回り、装備で勝る騎士団だったが、亜人の防御施設に阻まれ、それを活かせないでいる。
 牙蟲が走らせた、奇怪な馬の一団も防衛線の維持に貢献した。
 結局、百五十の騎兵は後方に控えたまま、歩兵だけが戦っている。
 騎兵が回り込もうにも、それを阻む絶妙な地点に、壕と土塁、馬防柵が巡らされているのだ。

 時間だけが過ぎていく。
 太陽が、少し傾いていた。
 平和な農村であれば、あと数刻で夕餉だろうか。

「どうしますか」
「突撃せよ」

 騎兵の一人が、ジェストコストに尋ねたが、返ってくるのは同じ文言である。
 歩兵たちに、何十回と繰り返された指令が下された。

 しかし、状況は変わらない。
 ただ、死傷者だけが増えていった。

 他方、亜人から出る新たな負傷者は、時間が経つにつれ減少している。
 壕や土塁の防御効果に加え、戦いに慣れてきているのだ。

 何より、人間にはこれが戦いであるという自覚がない。
 大規模な狩りぐらいの認識しか、持っていないのだ。

 無理からぬことではある。
 今まで亜人が組織的に反抗したことはなく、常に人間は追い立て、踏み躙る側であった。
 だが、村に築かれた防御施設を見て、人間たちは気付くべきだった。 

 これは、戦争なのだと。
 規模は小さくとも、互いの存亡を掛けた戦いなのだと。

 その自覚のないまま、兵は攻勢を掛け、斃れていった。
 死んでいく。
 次々と、死んでいく。

「どうなさいますか」

 流石に顔色を青ざめさせ、騎兵が問う。
 作り物のように整った、ジェストコストの唇から発せられたのは、意外な言葉であった。

「突き落とせ」
「は?」

 訊き返す。
 意味が分からなかった。

「歩兵どもを、壕に落とせ。その上を渡る」

 冷然と、ジェストコストが言う。
 命じられた方は、平静ではいられない。

「ほ、本気ですか?」
「無論だ」

 事も無げに言った。
 微塵も表情に変化がない。

「し、しかし、そんなことをすれば、こちらの損害も尋常ではないかと……」
「損害?」

 その言葉に、ジェストコストが眼を見開いた。
 なまじ整った顔立ちだけに、不気味な凄みがある。

「亜人を滅ぼすのは、神の御意志である。その為に死ぬなら、寧ろ、栄誉ではないか」

 一点の躊躇もなく言った。
 本気で、その様に考えているらしい。
 それ以上抗弁できず、騎兵が指示を伝えに走り去った。

 百騎の騎兵が、動く。
 背後から、歩兵を壕へ押し出すためであった。

 寸刻の後、悲痛な叫びと怒号が、あちこちから上がる。
 亜人の眼前で、歩兵たちが騎兵によって壕に突き落とされていた。

 深く掘られた壕とはいえ、重い鎧を着けていない歩兵は、落下しても死ぬことはない。
 しかし、続々と落とされる同胞の下敷きになり、身動きが取れなくなっていた。
 圧死するのも時間の問題だろう。
 牙蟲が言った通り、人間たちにとっての地獄が、開こうとしていた。

「最悪だな、これは」

 歩兵の一人が吐き捨てた。
 日に焼けた茶色い髪の、若い男である。
 戦場には似付かわしくない、優しげな容姿であった。

 貴族出身なのだろうが、手にしているのは片手半剣である。
 胸甲を身に付けていた。
 その若い男が、向かったのは亜人ではなく、騎兵である。

「貴様、早く壕に向かえ」

 尊大に言う騎士に向かって、男が溜息を吐く。
 片手半剣を構えた。

 身体ごと当てるようにして、剣をぶつける。
 衝撃で、騎兵が吹き飛んだ。
 地面に落とされる。

 背中から落ちて、一瞬呼吸の止まった騎士の代わりに、男が馬に乗った。
 馬の腹を蹴って駆け出す。
 違う場所でも、同じようなことが起きていた。

 壕に歩兵を落とそうとする騎兵と、そこから逃れようとする歩兵が衝突する。
 騎士に群がって、馬を奪うものもいた。 

 逃げるもの、阻むもの、叫ぶもの、争うもの。
 混乱が広がっていく。
 戦場を、馬に乗って駆け回っていた牙蟲が、声を張り上げた。

「突っ込むぞ! ついてこい!」

 右腕を振り上げ、牙蟲が亜人を鼓舞する。
 布で腕や腹を縛り、取り敢えずの止血処置を施した亜人が、ピッチフォークを握りしめた。
 走る。

 最早、亜人と剣を交えようとする歩兵は少なかった。
 逃げ出そうとする数のほうが多い。

 その流れが、騎兵の動きを止めていた。
 亜人が、三人一組の原則を崩さず、騎兵に襲い掛かる。

 機動力を制限された騎兵は、大きな的と化していた。
 三方から刺突され、地面に落とされた騎士が、衝撃で息を詰まらせる。

 騎乗している分、重装備が可能な騎兵だが、それが仇となった。
 落下の際に、自重がそのままダメージとなっている。

 動けなくなった騎士を、亜人たちは確実に仕留めていった。
 牙蟲が、別の騎兵を右腕で殴り倒す。

 混乱に乗じ、亜人たちがじりじりと攻め上げていった。
 歩兵と騎兵が雑じり合い、互いに動きを制限しているこの状態を、最大限利用しなければならない。

 その焦りが、亜人たちを逸らせていた。
 もし、この段階で、人間の側が分割した騎兵を戻し、亜人を誘い込むような態勢を作っていれば、その後の展開は大きく変わっていただろう。

 だが、ジェストコストはそうしなかった。
 血の通わない人形のようなこの男にとって、亜人の殲滅は神が定めた確定事項である。

 そのため、殊更に術策を錬ったり、戦場を馳駆したりすることなどは、思いも寄らないことなのだ。
 自分は神の御心に沿って行動しているのである。
 ならば、当然、自分の行為は正しく酬われるはずなのだ。

「突撃しろ」

 自分の周りに残った、五十騎の兵に向けて、ジェストコストが言った。
 その言葉に従い、騎士が突進する。
 
 だが、新たに投入された騎兵が真っ先に接触したのは、亜人ではなく、逃げる歩兵であった。
 多くの騎士が、その歩兵たちに引き摺り落とされる。

 行き掛けの駄賃とばかりに、武器を奪われるものまでいた。
 混乱は最高潮に達し、亜人がその間隙を突く。
 騎兵が倒れ、歩兵が死に、亜人が攻め進んだ。

 趨勢は決した。

 日が沈む頃、村の前に累々と転がっているのは、人間の屍体である。
 二百人はいた歩兵の内、生きて逃げ果せたのは数十人であった。

 それ以外の歩兵は、全て死んだ。
 半数が壕に突き落とされて圧死し、三分の一は、亜人の手によって殺された。
 百五十の騎兵は、ほぼ壊滅である。

 ピッチフォークを手にした亜人が、呆然と立ち尽くしていた。
 魂が抜けたような表情である。

 布切れで、額や、腹や、手脚を縛っていた。
 滲んだ血が、乾いて茶色くなっている。

「なあ」

 鼬に似た男が、すぐ近くの亜人に声を掛ける。

「何だ」

 答えた男は、場末の酒場に住み着いた野良猫に似た風情である。

「おれたち、勝ったのか?」

 尋ねる。
 猫に似た男が、疲れ切った眼で見返した。

「人間がいなくて、おれらが村にいる。これは、勝ったんじゃないのか」
「そうか」
「そうさ」 

 鼬に似た男が、震えた。
 猫に似た男が、震えた。

「勝ったのか……」
「ああ」

 泣いた。
 亜人たちが、声を殺し、泣く。
 啜り上げる声が、次第に大きくなっていった。
 それは、初めての勝利の味であった。

 牙蟲が村に戻ったのは、太陽が完全に沈んで、暫く経ってからである。
 驚いたことに、牙蟲は馬の背に、派手な鎧を身につけたジェストコストを縛り付けていた。
 死んではいないが、意識を失っている。

「よく捕らえましたな」

 トゥナが、白く濁った眼を僅かに歪めて言った。
 逃げ出した騎兵を追い詰め、捕らえることは簡単ではない。
 牙蟲が、成功した悪戯を自慢する悪童のように笑った。

「この辺りは、ガキどもと散々走り回ったからな。抜け道を馬が知っているのさ」

 言って、縛った男をトゥナに引き渡す。
 軽い口調で続けた。

「殺すなよ。後、たらふく食わせてやれ」

 とても納得のいかない指示であったが、そこは堪える。
 牙蟲のことであるから、何か考えがあるのだろう。
 そう考え、亜人たちはジェストコストを連れ去った。

 引き摺られるジェストコストを、牙蟲が見送る。
 誰に言うともなく呟いた。

「手は打つが……。さて、どうなるか」

 意味ありげなその言葉を耳にした者は、誰もいない。
 だが、牙蟲の思惑がどうであれ、この戦いは、村とその住人にとって大きな転換点となった。

 まず、住民の数である。
 大きく増加した。

 今までもこの村を目指す者はいたが、それは、あやふやな噂を頼りにしてのことである。
 辿り着いたところで、広がる光景は廃村同然であった。
 しかし、今や根拠のない風聞は、実体を獲得したのである。

 畑があり、エール酒があり、平穏な眠りがある亜人の村。
 迫害する人間を打ち倒した亜人の村。
 亜人による、亜人のための村。

 確信を持って語られるその存在は、強烈に亜人たちを引き寄せたのである。
 また、亜人以外も、村への訪問者に加わった。

 人間である。
 定住すべき故郷を待たない、遍歴の職人や吟遊詩人であった。
 彼らがやって来たのは、好奇心と山気からであり、亜人への好意からではない。
 だが、それでも彼らは亜人の村に物流をもたらしたし、娯楽や情報も提供したのであった。

 そう言った人間が現れる度、牙蟲は彼らを迎え、大いに酒を振る舞った。
 騎士団を指揮していたジェストコストを牙蟲が解放したのは、それから一週間が過ぎた頃である。

 たっぷりと食事と酒を与えられたジェストコストは、捕虜になる前より肥えていたぐらいであった。
 亜人の差し出す食事を、当然のようにこの男は食らったのである。

 ただ、単なる傲慢さ故に、ジェストコストはその待遇を受容したわけではなかった。
 胸中にあったのは、身代金のことである。

 身分の高い者が敗北した場合、多額の身代金で自由を購うことは、この当時、一般的なことであった。
 ジェストコストは、自分の待遇がそれによって得られたものだと考えていたのである。
 恐らく、自分の父が亜人に金を渡したのだろう。

 しかし、解放された以上、いち早く騎士団を再編し、亜人の村を今度こそ滅ぼす心算であった。
 その時に、支払われた身代金は取り返せばよい。

 だが、二度とジェストコストが騎兵を率いることはなかった。
 それどころか、再び馬上の人となることもなかったのである。
 亜人の村を訪れた巡遊の職人と詩人に、酒の席で牙蟲が語ったことが原因であった。

「村を襲った騎士団の団長は、一度も剣を抜くことなく逃亡し、捕らわれた後は命乞いをするばかり。これでは、身代金を払う酔狂な身内などおるまいと考え、近々、解放してやる心算なのさ」

 その様に、牙蟲は言ったのである。
 職人たちは、面白がって行く先々でこの話をし、詩人は滑稽な詩に仕上げて、亜人の村の攻防とその顛末を吟じた。

 縛を解かれたジェストコストが自分の父親の元に戻る頃、星章騎士団の名は嘲弄と冷笑の代名詞となっていたのである。
 最早、星章騎士団を再興しようとする者はいなかった。
 ジェストコスト自身も一族より放逐され、その後、消息を絶ったのである。

 これにより、亜人の村を狙う人間は完全にいなくなった。
 ジェストコストの一門でさえ、この村と関わるのを忌避するようになったのである。

 亜人の村に、活気と平穏が訪れた。
 血と命で奪い取った活気であり、平穏である。

 しかし、その平穏を造作なく破壊し得る存在が、牙蟲の前に座していた。
 巨体の持ち主である。

 鱗に覆われた巨躯が、座っていても圧倒的であった。
 沼沢に棲む爬虫類を思わせる頭部をしており、長い顎の上には棘が並んでいる。
 隆々とした筋肉が、鋼のように盛り上がっていた。

 リザードマンである。
 闇が滴ったような、漆黒の鱗を持ったリザードマンであった。

 太い尾が背中から伸びて、うねうねと動く。
 黒い瞳が牙蟲を凝視していた。
 その奥に、濃い紫が透けて見える。

 リザードマンが身に纏っているのは脚衣のみで、上半身は剥き出しであった。
 牙蟲の背後には、恐ろしく巨大なハルバードが横たえられている。
 このリザードマンが、信頼の証にと預けたものだ。
 一族に伝承された、由緒あるものらしい。

 牙蟲の家である。
 広さにも調度にも欠けた部屋で、蠱術師とリザードマンの戦士は対峙しているのであった。
 張り詰めた緊張感が、場を支配している。

 この予期せぬ訪問を、牙蟲が告げられたのは、つい先刻のことであった。
 村の大通りで、新たな家の普請を指示しているときに、この報せを受けたのである。

「黒鱗騎士団の長、黒旺である」

 堂々と、リザードマンが名乗った。
 平然と牙蟲が応じる。

「牙蟲だ」

 しかし、外面は兎も角、胸中は安穏としていなかった。
 驚いている。

 黒鱗騎士団は元来、聖殿王国に於いて兇猛無類をもって恐れられた戦闘集団であった。
 聖殿王国は、この大陸で最大の国土と国力を誇っていた国である。
 ただ、当時のリザードマンたちは国王直属の遊撃部隊として扱われており、騎士団を標榜したことはなかった。

 事態が変化したのは、先王が没してからである。
 後嗣となった若い王が異形の戦士を殊更に嫌い、最終的には彼らを東方辺境に追いやったのだ。

 因みに、新王は功臣老臣を悉く遠ざけて国政を恣に扱い、今や国内は内乱状態に陥っている。
 それに乗じる形で、リザードマンたちは黒鱗騎士団を称して、独立を図ったのであった。
 大陸最強の戦闘集団が、制度上の軛から解放されたのである。

 しゅう、と黒旺が息を吐いた。
 余人には分かり辛いが、笑ったらしい。

「大したものだ」
「何がだ」

 リザードマンの言葉に、牙蟲が訊き返す。
 また、しゅうと息を吐いた。

「お前は、あのハルバードを一人で此処まで運んだではないか」
「それがどうかしたか」
「あれは、リザードマンが二体いて、やっと担げるほどの重量なのだ。生半な膂力で扱えるものではない」

 言われて、牙蟲の顔に皮肉な表情が浮かぶ。

「力比べがしたくて、この村に来たわけではないだろう。用件を言って貰おうか」

 リザードマンの長を前にして、牙蟲も怖じ気付いてはいなかった。
 それが面白かったのか、黒旺が牙を剥き出して笑みを作る。
 牙の隙間で、赤い舌が蠢いていた。

「オレと手を組め」
「む」

 簡潔な申し出に、牙蟲が唸る。
 微かに、右眼を開く。
 赤い三つの単眼が覗いた。

「村を砦とした手腕、亜人を率いて騎士団を潰走させた指揮能力、野に埋もれさせるには惜しい」

 黒旺が賞賛する。
 しかし、それを素直に受け取るほど、牙蟲は単純ではなかった。

「俺を取り込んで、村の亜人を手駒にする気か、騎士団長殿?」

 率直な物言いをする。
 その調子のまま、言葉を続けた。

「リザードマンは単体の戦闘力は抜きん出ているが、如何せん数が足りん。其処を亜人で補う算段か」

 遠慮のない言い方である。
 赤く光る瞳が、黒旺を映した。

「否定はせん」

 あっさりと、黒旺が肯定する。
 元より、手練手管を好む気質ではないらしい。

「だが、村を略取しようとする人間は遠からず現れるだろうよ。今から味方を増やすにしくはあるまい」
「だからと言って、捨て駒になる選択が賢明とは思わん」
「捨て駒ではない。同盟者だ」

 その言葉に、牙蟲の赤い眼がぬらりとした光を放つ。
 契約書の不備を指摘する、悪魔のような視線であった。

「亜人とリザードマンが対等だとでも言うのか。痛め付けられてきた亜人と、人間から恐れられてきたおまえたちが」
「我のために剣を振るい、彼のために血を流すなら、亜人もリザードマンもありはせん。それを証明したのは、お前ではないか」

 言われて、牙蟲が口を噤む。
 暫しの沈黙の後、問うた。

「それで、おまえたちリザードマンは何を得る」
「オレたちの国だ」
「では、亜人は何を得る」
「オレたちの国だ」

 明快な言い様であった。
 リザードマンの国が、即ち、亜人の国であると言ったのである。

「亜人が店を開き、人間が買い付け、リザードマンが雇われ、獣人が大通りを歩く。己の器量で何をやっても良い国だ」

 言って、一拍、間を置いた。
 紫の光を秘めた黒い瞳が、こちらを見ている。

 黒旺の言葉を、夢想と断じることは容易い。
 その様な国は史上、現れたことはないからだ。

 だが、只の虚言と思わせない何かが、そこにある。
 重ねて牙蟲が尋ねた。

「おまえが、その国を目指す理由は何だ」
「面白いからよ」

 間髪を入れず、黒旺が言う。
 ぬう、と牙蟲が唸った。
 雷鳴に打たれたような感覚が、牙蟲に奔る。

「良かろう」

 思わず、言葉が口を突いて出た。

「おまえのその国、俺が見ても面白そうだ」

 言ってみると、胸中に抑えがたいものが湧き上がる。
 長く忘れていた感情であった。

「だが、村の連中の進退まで俺は保証せんぞ。直接訊け」
「構わんさ」

 黒旺が鷹揚に頷いた。
 確たる自信が、そこにはあった。
 そして、その自信通りに事は運んだのであった。

『泰山竜王黒旺、東夷の蛮地にて三眼法師牙蟲を得る。法師、蠱術は玄妙深邃、方略は円転滑脱を以て竜王に仕え、諸侯、彼を畏れること甚だし』

 後世の史書にはこの様に記されている。
 また、牙蟲配下の長槍部隊は亜人で構成されていたが、その忠烈な戦い振りはリザードマンさえ称揚したと伝えられている。

 


                                           了
 


是非、作家さんの今後の製作意欲のためにも感想や応援を、拍手やBBSなどによろしくお願いします。 m(^ω^)m

(拍手される場合作家さんの名前を始めに入れてくださると誰への拍手なのか特定できて尚嬉しいです♪)

-モドル-